
専門家に頼まず、AIと二人で補助金を採択した話
「着手金で15万円、採択されたら成功報酬で補助金額の10%です」
電話の向こうの声は、淡々としていた。
ある設備投資系の補助金の申請を会社で任されたとき、私が最初にやったのは、申請支援の専門家に見積もりを取ることだった。補助金申請は専門家に任せるもの——当時の私は、疑いもなくそう思っていた。
でも、提示された金額を聞いて、受話器を持ったまま固まった。
仮に数百万円の補助金が採択されたら、報酬は数十万円を超える。中小企業にとって、決して軽い金額じゃない。しかも着手金は、不採択でも返ってこない。
電話を切ったあと、しばらく天井を見ていた。
そして、たぶん人生で何度目かの、無謀な決断をした。
「自分でやってみよう」
公募要領という名の壁
決断した翌日、後悔した。
公募要領をダウンロードして開くと、PDFは60ページ以上。「補助対象経費」「収益納付」「経費区分」——日本語のはずなのに、頭に入ってこない。
必要書類のリストを数えたら、十数種類あった。
事業計画書。収支計画。資金調達の根拠。市場分析。実施体制。スケジュール。それぞれに「審査項目」が設定されていて、そのすべてに応える文章を書かなければいけない。
私は文章のプロではない。総務や経理の実務はやってきたけれど、「審査員を納得させる事業計画書」なんて書いたことがなかった。
最初の1週間で書けたのは、事業計画書の冒頭2ページだけ。
読み返して、消した。
自分で書いた文章なのに、自分でも事業の良さが伝わってこなかったからだ。
AIに丸投げして、失敗した
行き詰まった私は、当時話題になっていたAIに頼ることにした。
最初にやったのは、いちばんダメなやり方だった。
「○○という事業の補助金申請用の事業計画書を書いて」
数十秒後、AIはそれらしい計画書を出してきた。整った文章。きれいな構成。一瞬、「これでいけるんじゃないか」と思った。
でも、読み込むうちに血の気が引いた。
中身が、空っぽだった。
どの会社にも当てはまる一般論。実在しない「強み」。うちの現場を一度も見たことがない人が書いた、つるつるした文章。これを提出したら、審査員は数行で見抜くだろう。毎年何百件と申請書を読んでいる人たちだ。
ここで私は、ひとつの結論に達した。多くの人がAIに失望して離脱するのも、たぶんこの地点だ。
AIは「代わりに書いてくれる人」ではない。
じゃあ何なのか。その答えが見つかったのは、もう少しあとだった。
転機——AIは「書く人」ではなく「問う人」だった
ある夜、やけくそ気味に、私はAIへの接し方を変えてみた。
書かせるのをやめて、質問させたのだ。
「この事業計画の弱点を、審査員の視点で指摘して」
返ってきた答えに、唸った。
「市場規模の根拠が示されていません」「競合との差別化が定性的な表現にとどまっています」「実施体制に対して事業規模が過大に見えます」——
痛いところを、的確に突いてきた。しかもそれは、私自身がうすうす気づきながら、目をそらしていた弱点ばかりだった。
そこからは、進め方がガラリと変わった。
現場を知っているのは私。事業の実態を語れるのも私。AIの役目は、それを審査項目に沿って構造化し、「ここが弱い」「ここの根拠は?」と問い続けること。
私が素材を出し、AIが壁打ち相手になる。
書いては指摘させ、直してはまた指摘させる。深夜の事務所で、画面の向こうの相手と何十往復もした。途中から、優秀すぎて少し腹が立つくらいだった。
気づけば、最初の1週間で2ページしか書けなかった私が、計画書全体を書き上げていた。
提出前夜
提出期限の前夜のことは、よく覚えている。
最後にやったのは、AIに「審査員になりきって、この申請書を採点して」と頼むことだった。審査項目ごとに点数と理由を出させて、低い項目だけ最後の修正をかけた。
それでも、送信ボタンの前で手が止まった。
専門家に頼んでいれば、この不安はなかったかもしれない。「プロに任せた」という安心を、お金で買えたかもしれない。
でも、画面に表示された申請書類は、間違いなくうちの会社のことを、うちより詳しく書ける人間はいないという内容になっていた。一般論はひとつもない。全部、現場から拾ってきた言葉だった。
送信した。深呼吸を、3回した。
採択通知の日
結果発表の日、採択者一覧のPDFを開く指が、少し震えた。
Ctrl+Fで社名を検索する。
——あった。
声は出さなかったけれど、ガッツポーズはした。誰もいない事務所で、ひとりで。
専門家に払うはずだった数十万円は、払わずに済んだ。でも正直に言うと、嬉しかったのはお金のことじゃない。
「補助金は、正しく知れば自分でも戦える」
この確信が手に入ったことが、いちばんの収穫だった。
あの日の私に伝えたいこと
その後も私は、自分の手で申請を重ねてきた。AIの使い方は申請のたびに磨かれて、作業時間は減り、書類の精度は上がり、採択も重ねた。
そして気づいた。あの日の私と同じ場所で立ち止まっている人が、世の中にはたくさんいる。
「補助金に興味はあるけど、何から始めればいいかわからない」 「専門家の見積もりが高くて諦めた」 「自分で書き始めたけど、途中で挫折した」
全部、かつての私だ。
だから断言できる。あなたに必要なのは、特別な資格でも、高額な報酬でもない。
現場を知っているあなた自身と、正しいAIの使い方。 この2つだけだ。
AIに丸投げしてはいけない。あなたの事業を語れるのは、あなただけだから。でも、ひとりで戦う必要もない。深夜の事務所で何十往復も壁打ちに付き合ってくれる相手が、もういる。
きりんは首が長い動物です。人より少しだけ、遠くが見える。
補助金申請の「少し先」を、これからも照らしていきます。
あなたの挑戦が、採択通知にたどり着きますように🦒
※この体験をもとにした実践ノウハウは、無料シリーズ「AI×補助金申請 実践シリーズ(全10回)」で公開しています。
👉https://note.com/hojokin_support/m/m12ef0579cade
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