
「死霊術師は最後に笑う」 第26話(最終話) 旅立ち
大神殿が遠くに望む小高い丘の上で、クリフは馬を止めていた。
風が静かに吹いている。
その景色を見ながら、彼は過去を思い返していた。
幼い頃、英雄オルソンに憧れた。
だが剣の才能はなく、人を傷つけることも怖かった。
それでも父のように、誰かの役に立ちたいと願っていた。
聖騎士にも司祭にもなれないまま、それでも足掻き続けた。
やがて故郷が海賊に襲われた。
父は死に、アレスも失われた。
すべてを失ったあと、クリフはただ墓に通い続けた。 そこだけが、唯一の居場所だった。
そして変化は静かに訪れた。
感じ続けていた霊魂の気配が、ある日言葉になった。
それは禁忌とされる術──死霊術。
使うべきではないと分かっていた。だが壊れかけた心には、それ以外の支えがなかった。
その霊魂の正体は、アレスだった。
彼は語りかけ、見守り続けてくれた。
そしてクリフは真実を知る。
オルソンの死の裏にある陰謀。
そしてリアムスという存在。
立ち上がるために、クリフはゴードンを頼った。 ゴードンは、そのすべてを受け止めた。
やがて戦いは終わった。
だが、それで救われたわけではない。
クリフは丘の上から大神殿を見つめる。
もう戻る場所はない。
「さようなら、みんな」
小さく呟く。
「……さようなら、ルリア」
死霊術師は忌み嫌われる存在だ。
見つかれば牢に入れられ、一生外に出ることはできない。
家族や関係者すら巻き込むこともある。
それでも──。
クリフは馬の手綱を握った。
背後に、フィリーの泣きじゃくる別れがよみがえる。
ウェスの妙に軽い言葉。
ゴードンの不器用な優しさ。
そして最後に、アレスの声が浮かぶ。
「迷ってんじゃねぇ」
クリフは息を吐き、顔を上げる。
そして笑った。
「──よし、行こう。僕を必要としてくれる人がいる」
風が吹いた。
その一歩は、過去の終わりであり、未来の始まりだった。