
優しい王様 4話
優しい王様とソプラノ声のおじさん
王様は、今日も視察へ行きました。
白い仮面。
薄緑のワンピース。
そして胸には、新しく導入した、番号の書かれた名札をつけて歩いています。
不吉とされる数字や、面白そうな語呂合わせの数字は除いて国民に配布しました。
王様は、その除いた数字の6をつけて歩きました。
街を歩く人たちは、みんな同じ格好をしています。
誰が誰だか、わかりません。
街のみんなも、少し苛立っているように見えました。
しかし、それでも、見た目や名前で笑われている人は見当たりません。
王様はそれを嬉しく思いました。
♢♢
大通りに出ると、威勢のいい声が響いていました。
「いらっしゃい!今日のお肉は最高だよ!!」
王様は、思わず足を止めます。
八百屋の隣、小さなお肉屋さん。
白い仮面をつけた、33番の名札の、がっしりとした体つきのおじさんが、大きな声で、高らかに呼び込みをしています。
でも、その声は。
まるで女の子の、歌声のような声でした。
「なんだよその声」
「体格と合ってなさすぎだろ」
「アハハハ!気持ち悪い!」
通りを歩く人たちが、立ち止まって笑っています。
おじさんも気づいています。
それでも、声を張り上げ続けていました。
「今日のお肉は最高だよ!!」
その瞬間、王様の中で、何かが切れました。
見た目を隠した。
名前も隠した。
それでもまだ、人が蔑まれる。
王様はそれが、たまらなく許せなかったのです。
「何がおかしい!」
突然の出来事に、周りは、しん、となります。
「え?……なんだあいつ」
王様は構わず続けました。
「この人はただお店をやっているだけだろ!それを馬鹿にして、何が面白いんだ!!」
しばらく沈黙が続いて。
「……ちっ。しらけるな」
「行こうぜ」
人たちは、ぞろぞろと去っていきました。
路地に、王様とおじさんだけが残されました。
♢♢
王様はまだ息が荒いまま、おじさんに向き直りました。
「……大丈夫ですか?」
おじさんは一瞬きょとんとして、それから、はははと笑いました。
「ははは!いいんだよ!いつものことなんだから!」
「いつも、なんですか?」
「ああそうだよ。あいつらは昔からそうなんだ」
おじさんは肩をすくめました。
「もうとっくに諦めて、笑い飛ばしてやってたところさ!」
王様は、しばらく黙っていました。
それから、小さな声で聞きました。
「……悔しくないの?」
おじさんは、少し間を置きました。
ポリポリと頬をかいて。
「悔しくない、って言ったら……嘘になるかな」
ぽつりと、呟くように言いました。
「何度頼んでもやめてくれないから。だから、気にしないことにしたんだ」
しばらく、二人とも黙っていました。
路地に、風が通り抜けました。
おじさんは、そんな王様をじっと見つめました。
しゃがんで、王様と目線を合わせます。
「でも、そうだな」
仮面の奥の目が、細くなりました。
「久しぶりに、庇ってもらえたよ。嬉しかった。ありがとう」
大きな手が、王様の頭をぽんと撫でました。
王様は、なぜか、うまく返事ができませんでした。
♢♢
お城に帰った王様は、また家来たちを集めました。
「……国民全員に、黒板を配りなさい」
「こ、黒板でございますか」
「……首からかけられる大きさのものを。外では声を出さず、黒板に書いて伝えること。それを国の決まりにします」
年かさの家来が、一歩前に出ました。
「し、しかし、そんなこと。国民が納得するはずが……」
「わかっています」
王様は遮るように言いました。
「おかしいことも、無理があることも、わかっています」
誰も、何も言えませんでした。
王様はゆっくりと拳を握りました。
「でも……嫌なんだ」
声が、少し震えていました。
「優しくて、強い人が、損をする国は……」
「王様……」
しばらく、誰も動きませんでした。
王様の拳は、ずっと握られたまま。
「……配りなさい」
最後にそれだけ言って、王様は窓の外に目を向けました。
家来たちは、黙って頭を下げました。
♢♢
こうして、王様の国民は、首から黒板をかけるようになりました。
仮面をつけて、同じ服を着て、番号の名札をつけて、黒板を持って。
街を歩く人たちは、もう、人形というより、何か別のものになっていました。
声もなく、ただ黙って、チョークで文字を書きながら歩く人たち。
以前より、街は静かになりました。