武藤さんは甘くない
武藤さんは、今日も笑顔で「はい、やります」と言った。
「悪いな、武藤さん」
「すみません、これもお願いできますか」
「頼むぞ、任せた」
——朝から晩まで、そんな言葉ばかりが飛んでくる。同僚の企画書、部下のミスの尻拭い、上司の無茶な案件。武藤さんは顔色ひとつ変えず、すべてを引き受けた。
ただし、必ずこう付け加える。
「じゃあ、貸しひとつね」
返せとは言わない。「いつか、気が向いたら返してくれたらいいから」と微笑むだけだ。だから誰も本気にしなかった。武藤さんはお人好しだと、みんながそう思っていた。
その「いつか」は、ある月曜の朝に来た。
出社すると、社長室のドアに小さな付箋。「本日より、武藤さんに全権を委任することになりました」。集められた社員たちの前に、武藤さんが立つ。手には、可愛い花柄のノート。
「みなさんの貸しがこのノートいっぱいになりました。ですので、順次、返していただくことにしました」
声のトーンはいつも通り穏やかだ。ページをめくりながら、社長、部長、同僚たちの名前と貸しの内容を読み上げていく。
「返し方は、追ってひとつずつご相談させてくださいね」
新人が恐る恐る口を挟む。
「あの、それは業務命令でしょうか……」
武藤さんはにっこり首をかしげた。
「借りたものは返さなくちゃね。そのノートに自分の名前が何回出てくるか、数えてみます?」
新人は黙った。社長も黙った。その日から、社内で武藤さんに逆らう者はいなくなった。彼女は声を荒げたことなど一度もない。ただ静かに、王座に座っているだけだった。
武藤さんは甘くない。でも、甘いスイーツは大好物である。
(了)
無糖だと、コーヒーの味がよくわかりますね。私の場合、ホットは無糖、アイスは微糖が好みです。
はれるや( ´ ▽ ` )ノ。です。
甘野充さんの企画に参加します。
よろしくお願いします。
#アマノ文筆クラブ #武藤さんは甘くない
TALESにて、アマノ文筆クラブ作品を連載中。毎週木曜、朝をお楽しみに!
では、今日はこのへんで。
はれるや( ´ ▽ ` )ノ。
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