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預言者は知っていた - 6 #創作大賞2024 #ファンタジー小説部門

    最初から読みたい方はこちらからどうぞ。

    ニネベ 〜 宣告

     ヨナは叫んだ。

    「イスラエルの神、主が言われる。
     私はイスラエルの神、主の預言者だ。
     主が言われる。あと40日でニネベは滅びる」
     ヨナは何度も何度もそう繰り返し叫んだ。

     広場にいる人々はヨナの声に動きを止めた。
     そして、口々につぶやきだし、叫ぶ者も出始めた。 
    「イスラエル? どこの国だ?」
    「どういうことだ、ニネベが滅びるとは」
    「どうやって滅びるんだ?」
    「不吉だねぇ。こんなに平和なのに滅びるなんて」
    「異国の神がなぜニネベが滅びるなどと言うんだ?」」
    「あの人、頭がおかしいんじゃないの?」
    「俺たちにはナブー神がおられる。イスラエルの神には興味ない!」
    「ヤツを黙らせろ!」
     広場の人々はヨナを黙らせるために台から引きずり下ろそうとした。
     ヴァンはヨナをとめようとしたが、人々がヨナに押し寄せたので近寄れなかった。
     そうこうするうちに、広場の騒ぎを聞いて駆けつけた兵士がヨナを取り押さえて王宮に引っ立てて行った。

    *

     王が直々に話を聞きたいということで、ヨナは王のもとに連れてこられた。
     アダド・ニラーリ三世は玉座からヨナにたずねた。
    「広場で叫んでいたイスラエル人とはおまえのことか」
    「はい。イスラエルの預言者ヨナと申します」ヨナは、ひざまずいたまま返事をした。
     何を叫んでいたのか、と聞く王に、ヨナは「イスラエルの神、主が言われる。ニネベはあと40日で滅ぶと告げました」と答えた。
    「それはまことか」
    「はい。主は確かに私にそう言われました。そして『ニネベに言って告げよ』と言われたので、私は遠くイスラエルからはるばるやってきたのです」
     あまりにも荒唐無稽な話に王は沈黙した。
     王が何か続けようとしたとき、近衛兵が入ってきた。
     ガルシアとヴァンがイスラエルの預言者について王に申し上げたいことがあるとのことだったので、王は「通せ」と許可した。
    「王様。ありがとうございます。昨日、私はこのイスラエル人を家に泊めました。そのときに聞いた話をお伝えしたく、参上いたしました」
     そういうガルシアに、王は「そうか、アラムやイスラエルについて詳しいおまえの意見も聞きたい」と言い、「この者をなぜおまえの家に泊めることになったのかから話せ」と続けた。
    「そのことであれば、まず最初にヨナを見つけたときの話をヴァンから聞いていただければと思います」
     ヴァンはガルシアの横にひざまずいたまま、話し始めた。
    「おいらはチグリス川に水を汲みに行ったのです。そうしたら、川の下流から何か山のような大きな生き物が上ってきて大量の水を吐き出しました。水が引いたときにこの人が倒れていたので家まで担いでいきました」
     ガルシアがあとを続ける。
    「彼が目を覚ましたので話を聞くと、その山のような生き物は“ゼガ”という大魚だと言い、その腹の中に飲みこまれた状態でイスラエルからやってきたというのです」
     王は黙って聞いている。ガルシアは続けた。
    「その大魚は海を泳ぎ、空を飛んで、川を上って、たったの3日で彼をイスラエルからニネベまで連れてきたのです。この大魚に彼を運ぶよう命じたのが、イスラエルの神、主だったのです」
     あまりにも不思議な話に、王はいくつもの疑問をガルシアにぶつけたが、そのたびに彼女から理路整然とした答えが返ってくるので、このことについては信じるしかないと思うようになった。
     王は「ううむ」とひとしきり唸ったあと、次に、ヨナが広場で叫んだ内容について聞いた。
    「ところで、おまえはニネベが滅びるということについて何か聞いたのか」
     ガルシアが、聞いていません、と答える前にヨナは口を開いた。
    「王様。そのことについてはガルシアたちには話しておりません。私からお話しさせていただいてもよろしいでしょうか」
     王がうなずいたのでヨナは続けた。
    「私はイスラエル人です。この国、アッシリアが近いうちに征服しようとしている国に住む者です。
     イスラエルの神、主が『ニネベに行き、ニネベは滅びると告げよ』と言われたとき、敵国の王都の滅びをわざわざ行って告げる必要はないと私は主に申し上げ、行くのを拒み、船に乗って西へ向かいました、
     主はそんな私の逃亡を阻み、大魚に飲み込ませてここまで来ました。
     ここまでは彼女が話した通りです。
     次にニネベの滅亡についての預言──神から受け取る言葉のことを預言と言います──についてですが、主は『アッシリアの悪が天に届いた。わたしの声を聞かず、悪を行い続けるのでわたしはニネベを滅ぼす』と言われました。
     悪とは何か……。主の民イスラエルを苦しめることが悪です。また、隣国を滅ぼし、国民を強制移住させて祖国を完全に奪ってしまうことは、主の忌み嫌われる行為です。
     ですが、アッシリアには主の御声を聞くことができる者がおりません。悪を悪だと知ることが誰もできないのです。そこで主は私をニネベに遣わされました。
     王様。どうか、主の言葉を私に届けさせてください。その機会をお与えください」
     王はヨナの話を聞いて考え込んだ。長い時間、考えたあと、口を開いた。
    「ヨナ。私の国にはナブー神という神がおられる。知識の神、草木を司る自然の神だ。
     おまえたちが主に頼るように、私たちはナブー神に頼る。
     イスラエルの神がイスラエルで力を持っているようにナブー神がアッシリアを守り、ここまで国を大きくしてきたのだ。イスラエルの神はアッシリアでは力を出せまい」
     今度はヨナが答えるより先にガルシアが答えた。
    「王様。イスラエルの神は天と地を創造された神だと聞いています。またすべての生き物──鳥、獣、魚、植物すべてを創造し、私たち人間を創造したと聞きます」
     ヨナがガルシアのあとを受けて続けた。
    「そうです。主のような神はほかにいません。すべての神々に勝る神、それが主です。
     イスラエルの預言者エリヤは今から100年ほど前にカルメル山で150人のバアルの預言者、400人のアシェラの預言者に、祭壇の薪の上に置いた雄牛に天から火を下してみよと挑みました。彼らがいくら祈っても叫んでも天から火は下りませんでしたが、エリヤが祭壇の雄牛の上から瓶の水を注ぎ、主に祈るとすぐに天から火が下り、雄牛と薪と祭壇の石と土を焼き尽くしてしまったという記録があります。
     そんな主が『あと40日でニネベは滅びる』と言われたのです。
     私はこのことをニネベに住む人々全員に伝えなければなりません。
     主が私にそう命じられたからです」
     最後は叫ぶような口調になったヨナの言葉が途切れると王は静かに話し始めた。
    「私は祖父シャルマネセル三世、父シャムシ・アダド五世の政策を継承し、征服した国の領民を強制移住させて国を奪うということをしてきた。だが、その結果、国は大きくなったものの、国を奪われた人々の恨みは大きくなってしまった。
     私が行っている政策は正しかったのだろうか。私はずっと迷っていた。
     私は祖父の時代に内乱で失った領土を取り戻そうと遠征を繰り返してきたが、疲れてしまった。
     ニネベはいい都だ。私はここに住む者たちのことが大好きだ。彼らは私の悪──おまえたちの神、主がそう言われるのであればそうなのだろう──とは関係がない。
     彼らだけでも救う方法はないのだろうか」
     ヨナはしばし考えたのち、こう答えた。
    「主は『ニネベは滅ぶ』と言われました。ニネベに住む人々、建物、家畜や草花に至るまですべて滅びます。
     これがイスラエルのことであれば、私は『彼らをお赦しください』と祈ることができます。もしかすると主は私の祈りを聞いて思い直してくださるかもしれません。
     ですが、このたびの預言はイスラエルを苦しめようとするアッシリアの都、ニネベに関する預言です。私がニネベのために祈ったとしても主はニネベをお赦しにはならないでしょう。
     私は主の命令に従い、ただニネベの人々に『滅び』を告げるだけです。
     もし主がニネベの滅亡を思いとどまってくださるとしたら、王をはじめ、ニネベの人々全員の思いにかかっています」
     その後、王は「明日から広場で語ってもよい」と許可を出し、ヨナを解放した。

    *

     翌朝早く、王の命令により、都全体に布告があった。
    「ニネベの住民はすべて広場に集まり、イスラエルの預言者ヨナのことばを聞くように」

     翌日から、ヨナは広場で集まった多くの群衆に向かって大声で叫んだ。
    「私はイスラエルの神、主の預言者だ。主が言われる。あと40日でニネベは滅びる」と。
     また、王の質問に答えたときのように、なぜ滅びるのかという説明を加えた。ヨナは、ガルシアやヴァン、この都の人々の救いを心の中で祈りつつ、人々に主の言葉を伝えた。人々もそんなヨナの思いが伝わったのか、静かに聞いてくれることが多くなった。

     あと40日で滅ぶ、の部分は、カウントダウンされて毎日減っていった。

     やがて、王から新しい布告が出た。

    「人も家畜も、牛も羊もみな、断食してイスラエルの神、主に祈れ。
     アッシリアがこれまで隣国に対してしてきた悪を、わがこととして、イスラエルの神、主に『このようなことはもういたしません。どうかお赦しください』と祈れ。
     王である私も祈る。だから皆も祈れ。
     そうすれば、神が思い直してあわれみ、その燃える怒りを収められ、私たちは滅びないですむかもしれない」

     滅びの日の前々日、ニネベに太陽は昇らなかった。

    (つづく)


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