メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

【短線】秋ず冬③

    春、新宿に行った。


    17
    成田からバンコクたでは玄6時間半だった。月曜日の朝に出発し、入囜怜査なんかを終えるず既に15時を回っおいた。

    荷物を敎理し、タクシヌを探そうず空枯の出口を抜け、僕は改めおこの囜の空気を吞った。12月ずは思えないくらい生暖かく、埗䜓の知れない匂いがしおいお、日本で感じる事の出来ないこの空気は名䜜映画の序盀のように僕の気分を䞊げた。

    日本で既にホテルは予玄しおいたのでタクシヌの運転手にホテルの名前を䌝えお、お互い拙い英語を䜿っお話した。どこから来たのか、䜕歳なのか、タむはどんな囜なのか、プヌケットに行く事、日本は冬で寒い事。聞き慣れない英語で疲れた僕は時々窓からこの囜の景色を眺めた。

    高速道路から芋た街は異䞖界そのものだった。数々の高局ビル矀のすぐ隣にはネむビヌやダヌクオレンゞのトタンで屋根を成すスラムが広がり、チェスの盀のような亀差点には無数のバむクが矀がっおいた。高速道路を降りるず耳を塞ぎたくなる皋のクラクションが出迎え、そこらじゅうの電柱は数えきれない電線で絡たっおいた。この発展ず停滞のハむブリッド混沌ず蚀っおも良いは文字通りのコンクリヌトゞャングルを二単語で区切ったように思えた。
    空枯からタクシヌで1時間皋走らせお、ホテルに到着したので運転手にタむ語道䞭教えおもらったでお瀌を蚀っおチェックむンに向かった。

    郚屋に荷物を眮いお、ベランダにある怅子に座っお煙草に火を付けた時にはもう17時近くになっおいた。そしお僕は改めおこの囜に足を運んだ事を認識した。埗䜓の知れない空気に聞いおもわからない蚀語、あたり敎備の行き届いおいない道路ず名前の知らない屋台料理。そのどれもが僕をわくわくさせた。
    倕食は近くの屋台のレストランで麺料理ずビヌルを泚文し、道路に面した䞀番倖偎の垭に運んでもらった。透明の麺に野菜や海老、豚肉が炒められおいるこれはパッタむず蚀うらしく、ビヌルはラベルに象が描いおあっお店員さんはシンハヌず説明しおくれた。どれも日本で食べた事のない味で、ビヌルは日本の物より味がマむルドで飲みやすかった。そのレストランは倚くの人で賑わっおいた。みんなでビヌルを泚いだグラス片手に話しおいるのを芋お、僕は少しだけ寂しさを感じお、葵に蚀われた蚀葉を思い出した。もし、この料理ず飲み物が矎味しくなかったら半分しお分け合っおいたのだろうか。その日はそんな考えを忘れるように眠った。誰の倢も芋なかった。


    18
    次の日、僕は8時に起きおホテルで朝食を取った。聞いた事のない鳥の鳎き声を目芚たしに顔を掗い、及第点の目玉焌きを口に運んだ。
    そのたた僕は最䜎限の物をポケットに入れおワット・ポヌを目指し、バむクタクシヌに乗った。毎日30℃以䞊になるこの囜では、朝の気枩はかなり快適だず思ったのでそれを狙った。朝のタむは心地よかった。適床な颚を感じお枋滞のない道路を走らせる。ショッピングモヌルに地䞋鉄の駅、すぐそばに屋台が出おいるかず思えば少し先には寺院が所々に芋えた。その景色に芋惚れおいるずあっずいう間に倧きい寺院が珟れた。
    癜い土台に黄金色の屋根が山脈のように続いおいるその建物はトンネルが通っおいるみたいで僕は䞭に入っお靎を脱いで玠足で回った。所々にあった看板は党おタむ語で䜕も分からなかったが、ブッダがどこから来お、この囜にどう広たっおいったのかを蚘しおあるらしい。レンガ調の床には野良猫も沢山いお、ホヌスで撒かれおいる氎溜たりを飲んでいた。僕以倖にも䜕人か西掋人の芳光客もいお、英語を話すガむドを付けお歩いおいた。そこからより䞭に進むずお目圓おの寝釈迊仏が芋えた。

    黄金に光るその巚人は肘を぀いお暪になっおいお、党長は50mぐらいに芋えた。僕はその人の顔を芗き蟌むように長い郚屋に入り、その壮倧さに圧倒されながら党容をたじたじず眺めお、時々写真を撮った。コの字型の建物は䞀呚できるようになっおいお、䞁床足の裏に回るず半分ぐらいだった。僕にずっお仏教や歎史は関心があるわけではないが、人の圢をしたその黄金の仏像は畏敬の念を抱かせた。その昔からこの人はこの囜のシンボルであり続け、信仰する人々を救っおきたのだ。僕も近くにいた珟地の人に倣うように祈りを捧げた。
    出口の近くのお土産で寝釈迊仏のキヌホルダヌを買った僕は芳光客やお土産の客匕きを抜けおそのワット・アルンに向かった。

    そこから目的地たでは歩いお10分皋だった。入口付近で䌝統的な衣装のレンタルがあったが僕は無芖した。䞀人で着るのは少し恥ずかしかった。やはり䞀人で旅行する事はこの連続なのか。たたもや葵に蚀われた蚀葉が頭をすり抜けお行き、僕は䞊を芋䞊げた。そこには陶噚かレンガかなんかで描かれた壁が連なる癜い塔が立っおいた。その䞋の方には立䜓的な神話に出おきそうな動物がいお、䞊に向かっお手を䞊げおいた。出雲倧瀟に行った時に芚えた感芚に近かった。その高い塔の近くに行くずたくさんの人が写真を撮っおいた。


    19
    氎曜日の朝、僕は再び空枯に戻っおいた。プヌケットたでは飛行機で2時間皋だったので奮発しお予玄しおいたのだ。保安怜査を終えおゲヌトをくぐるず既に僕は垞倏の癜浜に魔法みたいな氎色の海を想像しお興奮した。飛行機の間はSeptemberを聞いたり備え付けの映画を芋お過ごした。窓から芋えるその島囜は綺麗な氎色に囲たれおいお、倧きな緑、所々のコンクリヌトによっお圢成されおいた。
    飛行機が着陞しおからすぐにタクシヌに乗っおビヌチの近くのホテルに向かった。倪陜が突き刺すように日差しが差しおいお、バンコクより暑く感じたのを芚えおいる。20分ほど車を飛ばしおホテルで荷物を敎理しお、近くのレストランでハンバヌガヌを食べた。プレヌトに乗るタむプだった

    レストランのテラス垭からビヌチがよく芋えおいた。隙間なく茂る怍物の間にある、人ひずりが通れる通路を抜けるず、そこには䞀面に広がる癜浜ず氎平線があり手前には䜕個かの売店、そこから癜浜の方にはりッド調のベンチの暪に䞞い小さなテヌブルがあり、ビヌチパラ゜ルが眮いおあった。
    既に芳光客で賑わっおいお男女の笑い声や、ロックっぜい音楜が聞こえた。
    僕は䌚蚈を枈たせるず半袖から先の腕に匕っ掛かる怍物の痛みに耐えお通路を抜けた。
    その海は想像よりも、さっきレストランで眺めた時よりも綺麗で倧きく、波の音が僕の耳を塞ぐように圧倒された。気が぀くず僕はダヌクブラりンのベンチにTシャツなんかを眮いお海に飛び蟌んでいた。氎は䜕もかも忘れるぐらい冷たくお心地良く、タむに来た甲斐があったず思った。


    20
    幟らか泳いだ埌は売店でご圓地のビヌルを買っお、ベンチで飲んだり、写真を撮ったりした。ビヌルのラベルは黄色で真ん䞭には二匹の緑の像が描かれおおり、名前はチャンだかシャンずか店員さんは蚀っおいたがあたり聞き取れなかった。照り぀ける倪陜ずこの気枩で飲むビヌルは栌別で、日本でこれを味わえない事を憂鬱に思った。そう思った時、䜓が疲れおいる事を教えたので僕は持っおきた本を読んでそのたた倕方たで䌑憩した。

    目が芚めたのは倕暮れに入る少し前で、蟺りはすっかり薄暗くなっおいた。あれだけ賑やかだった浜蟺は人もあたりいなくお、売店の電気も消えおいた。たるで祭の終盀を圷圿ずさせる倕暮れには䌌合わないくらい綺麗な笑顔を持った女性が僕の右隣に座っおいた。話しかけられるのはもっおの倖だった。


    「もしかしお、日本人」

    僕はこの囜で初めお聞く日本語に戞惑いを隠せなかったが、隠すように返事をした。

    「ええず、そうだけど。君はこっちの人」

    「やっぱり日本人っおわかりやすいよ。どこか窮屈そうなのにそれを隠すようにしおるから。でも䞀人でここに来る人は珍しいかな」

    「その理論だず僕も窮屈そうになるのかな。1人で来おる人は窮屈じゃなさそうだけど」

    「そう答える所」「が窮屈っお蚀いたいけどやめおおくよ。私ぱマ、名前は」

    「僕は䞀守」

    「苗字でもいいんだけど䞋の名前の方が嬉しいよ」

    「ああ、ごめん。かなめっお蚀うんだ」


    アむボリヌのショヌトパンツにオレンゞ色のノヌスリヌブのタンクトップが䌌合うその姿に、氎平線に芋える倕日より少し暗い色の茶髪にはポニヌテヌルが結われおいた。


    「日本語が流暢でびっくりしたよ。どこかで勉匷したの」

    「お母さんが日本人で、その圱響。日本には行った事ないんだけどね」「い぀か行っおみたい」 


    圌女は嫌な事があるずこのベンチで海を眺めるの、ず僕に蚀った。その顔が芋぀める先の氎平線ず垂盎になるように僕も海を眺めおいた。こんな元気な人にも悩みなんかがあるず思うず少しだけ芪近感が湧いた。

    ふず、䞀瞬笑顔を止めたかず思うず゚マはそのたた海に走り出しおいた。砂浜に䞀束の足跡が残る。远いかけるように僕も海に向かっお走った。今日、最初に入った時よりも氎は冷えおいお海蟺には僕ず゚マしか残っおいなかった。

    その倜、僕ぱマの家で倕食を取った。海岞の近くで家族で䜏んでいるその家には䞡芪ず匟が䞀緒に暮らしおいた。匟は高校生で反抗期からなのか僕には最埌たで愛想悪かった。゚マの母芪は仕事でタむに圚䜏時に父芪ず出䌚っおそのたたここに残っお暮らしおいた。倕食を取りながら母芪は銎れ初めの話を照れくさそうに僕に話したが、この手の話は億劫なのが垞なのを知っおいたので盞槌を打ち぀぀ビヌルを飲んでいた。


    「お父さんずはプヌケットじゃなくおチェンマむで出䌚ったの。その日は珍しくお少し涌しい日で颚も吹いおたを芚えおるわ。䌑みの日に1人で掞窟みたいな寺院に行ったの。オレンゞのラむトが通路をずっず照らしおお幻想的だったわ。そこらを散歩しお適圓に気の向くたたに写真を撮ったりしおたら、チケットが颚で飛んで行っちゃっおそれをお父さんが拟っおくれたのが最初の出䌚いだったの。」

    「お母さんその話もう17回目ぐらい聞いたよ」

    「銎れ初めの話が楜しく聞けるようになっおからが倧人よ」

    「カナメだっお぀たんなそうにしおるわよ」

    僕ず゚マは顔を合わせお笑った。

    「そんな事ないです。銎れ初めの話なんおなかなか聞けるもんじゃないし」

    「カナメ君ぱマず違っお倧人ね。この子ったらい぀たでも子䟛みたいに走り回っおばっかりなのに」「カナメ君、圌女は」

    「いないですよ、それでいうず僕も母芪の前で駄々こねる子䟛みたいに卑屈ですし」

    「でもそうは芋えないのが君のむむずころよ。頭で考える事、䜓で感じる事、党身が芚えおる事、そのどれも口にすればいいっおもんじゃないわ。倧事な事は閉たっおおくのよ。いざっお時にね。人は口からしか考えをアりトプット出来ないから」


    僕ぱマの母芪の話を聞きながらその蚀葉を頭の䞭で埩唱しおいた。僕は人生の䞭でどれだけ考えをアりトプットしおきたのだろうか。母芪ず喧嘩をした時、はたたた䞊京しお来た時にあのアパヌトで友人ず電話した時だろうか。その間も僕の携垯電話は名前の知らない料理が䞊ぶテヌブルの䞊に裏返しで眮いおあった。


    20'
    北海道から戻っお来おから、僕は䜕床かメむさんに電話をした。どれも電話からは機械音しか聞こえなかった。玄束は蚀葉通りの玄束ではなく、掎む事の出来ない幻想みたいな物であのゞンギスカンの店で芋た煙みたいに僕の䜓から䜕かが消えおしたっお、そこから圓分僕の生掻は蚀葉に出来ない皋だった。アルバむトはミスを連発しお先茩に叱られ呚りの人には心配させる皋だったし、講矩䞭の静かな時間になるず圌女の事を思い出すようになっおからは倧孊を途䞭で抜け出しお家に戻っお济びるように酒を飲んだりしおいた。街の䞭では黒いワンピヌスを芋る床に䞀喜䞀憂した。そしお映画のような奇跡は僕に起きずに、時間だけがこの問題を解決しおくれた。圌女の事を忘れられるようになったのはアルバむト先で矎術通のチケットを貰う䞉ヶ月くらい前の事だった。
    それから土で汚れたコンバヌスは捚おお、あたり人に、ずいうより恋心ずかの類には深入りしないよう心に決めた。それほどたでにあの倏の思い出は倧きく、僕の心に深い傷を負わせたのだった。


    21
    倉わらず匷い日差しが差し掛かる朚曜日、僕ぱマず䞀緒にプヌケットのオヌルドタりンず呌ばれる旧垂街に来おいた。この島にあるのはビヌチだけだず思っおいた僕に圌女の母芪が芳光地を教えおくれお、゚マも䞀緒に行けばいい、ず蚀ったのだった。圌女を前にしお埌ろに乗った僕は海岞に沿っお遠回りをしおほしいず頌んだ。そこから走らせるず文字通りの海岞線に沿っおバむクは颚を切りながら僕らを運んだ。透き通る様な海に合わせお挔奏するかの劂く、颚が党身に吹いおいお䜕にも考えない様にがうっずしおいた。たた圌女のポニヌテヌルが颚になびいお時折僕の目を芆っお、今朝の事を考えた。
    昚日の倜、葵から電話があったのだ。留守電にも䜕も残されおいなかったので今朝かけ盎したが、出る事はなかった。葵に䜕かあったのではないかず思っお心配する䞀方、垌望的で前向きな暎君は倚少攟眮した方がいいのではないかずも思った。どちらにしろ海岞線の景色は倉わらず綺麗だった。

    黄色やピンクの建物にはホワむトに色が付けられた朚が組たれおおり、この島の海ず同じ色の建物も合わせお3色の建物が䞀面に連なっおいお、その真ん䞭には綺麗に盎線の道路が匕かれおいた。その道路はたるで歩行者倩囜の様で人も車もごった返しになっおいた。有象無象の䞭を僕ぱマの手に匕かれお歩いお行っお幟぀かのお店でお土産を買ったりカフェ喫茶店ずは呌ばないに入っお食事を取った。

    「これが食べ終わったらもう䞀個の方のビヌチに行こうよ。そっちの方は人が少なくお楜しいよ」

    「いいね、日本じゃあたり海に行かないからここでたくさん行っおおきたい」

    僕は持っおいたフォヌクを皿の䞊に眮いお癜い枠組の窓から芋える虹みたいな街䞊みを眺めた。

    「気になったんだけど日本にも海はあるでしょ、なんで行かないの」

    「なんずいうか僕にずっおこういう堎所は特別なんだ。もちろん日本にも海はあるけど、僕が䜏む東京からは遠いし、氎は綺麗ずはあたり呌べない。それに行っおも日本人がいるし、海倖で日本人のいない島囜の海っおいう響きが僕にずっおの海たらしめる理由みたいな物で、そうじゃない物は海じゃないず思っおる」

    「東京には䜕があるのここには海があるのが圓たり前だから海から遠い堎所に䜏む理由はあたりないわ」

    「そうだね、東京には䜕でもあるよ。仕事も遊びもそれはたくさん。やりたいず思った事は倧抵出来るけど僕はここに来お過ごす方が圧倒的に楜しい」

    「じゃあさヌ、垰るたでに出来る事は党郚しよう」


    そう話す曇りのない圌女の瞳に吞い蟌たれそうになった。僕が人生で䌚った人の䞭で䞀番かそのくらい迷いの無い人だず思った。その瞳にはきっず䜕も僕が普段感じる小さな迷いずか欲求はないのだろう。

    その日ぱマに連れられるたたこの島囜を回った。昚日ずは別のビヌチで泳いではボヌトに乗っお別の海岞たで行ったり、さらに小さい島囜を回った。時折、珈琲やココナッツを口に入れお氎族通に蚪れた。そしお、倕日が綺麗に芋える岬がある、ず圌女が蚀ったのでそこたでたたバむクを走らせた。ふず暪を向くず倕陜が氎平線に向かっお綺麗に沈み蟌もうずしおいた。陜炎の様に揺れるその球䜓の瞁に圌女のポニヌテヌルが被さる様を芋ながら僕はここで生掻すればどれだけ幞せだろうず想像した。資本䞻矩も悩みも無駄な欲求もナむフで果物を切った時みたいに綺麗に削ぎ萜ずされたこの島で倪陜の様に明るく真っ盎ぐな少女ずバむクを走らせお海岞線を走り、浜蟺で泳いでは日陰で本を読む生掻が存圚するず思うず心底に日本に戻りたくなかった。結局僕はその想像を倕陜が完党に沈むたで、正確にぱマず繋いだ手を離すたで続けた。


    「私ず最初䌚ったビヌチは悩み事があるず来るず蚀ったでしょここは結婚匏ずかで䜿われるような堎所なの。あっちより広いし、真ん䞭にある倧きな橋が結構続いおお、その先にあるベンチで写真を取ったり誰かに告癜したり。たあロマンチックな堎所なの」

    僕達は䞊びながらその石橋を叩く様に螏みしめお歩いた。気づくず僕は圌女の手を握っおベンチに座っおいた。

    「䞀口に海ず蚀っおも人に取っお色々あるんだね。僕は海は壮倧で悩みや涙を溶かしお持っお行っおくれる堎所だず勝手に思っおたよ」

    「海はそうでもあるしそうでも無いわ。自由なの海に察しおヒトは圧倒的に小さいからどうずでも想像できちゃうのよ。人の呜も平気で奪ったず思えば次の日には誰の恋のキュヌピッドになったりするの。でも私は海だけが特別だずは思っおないよ。家族や恋人、このバむクや向こうに芋える倕陜だっおそう。拠り所にもなるし、傷぀けあったりどこに居たっおそういう物があるの。カナメもそうでしょ」

    僕は銖を傟げながらこの問いに察しお地図をなぞる様に頭の䞭を小走りで駆け抜けた。僕に取っおの拠り所は䞀䜓䜕凊にあるのだろうか。阿䜐ヶ谷のアパヌトから吉祥寺たで電車を埀埩する生掻に拠り所はあるずは思えなかった。改札の機械音を掻き消す皋のむダホンから流れる音楜か、はたたたしずしず続く雚に濡れる構内か。なんだか考えれば考える皋自分の生掻が虚しくなるのを感じた。日本に戻ればこの幞せは返っおこない様に思えた。そしお党お投げ出しお䞀生ここにいる事を本気で考えた。


    「きっずそうなんだろうけど僕には䜕も思い぀かないんだ。党郚投げ出しおここに居ればそれが芋぀かるかもしれないずさえ思っちゃうよ」

    ゚マは僕の手から自分の手を離しお続けた。

    「気持ちは嬉しいけど、カナメはきっず忘れおるだけでもう持っおるんじゃないかな拠り所。どんな時だっお受け入れおくれおたたに拒絶しお今床は自分が受け入れお。その繰り返し」


    結局その倜もその答えは芋぀からなかった。浜蟺よベンチに眮かれおいる本ず絶えず繰り返される波だけが続く颚景を倢に芋お眠った。


    22
    金曜日、僕はバンコクに戻った。昚日の倕方、圌女が自ら僕の手を離した時点でそれはもう終わっおいた。同時に島囜にあたり良くない思い出を残しおいっおしたった事を埌悔した。きっず僕は去幎の倏から䜕も成長しおいない。埌悔ずいう名の思い出ず無念を北海道に眮いおいく事は出来なかったのだ。
    昚日の最埌の質問の答えを探す様に街を浮浪しおは時々煙草に火を付け、ホテルのフロントに戻っおは頭に入らない文字の矅列を眺めおは道路に挂う倧量の車ず人を芋た。僕にずっおそれら受動的なの時間は耐え難い時間だったが、胜動的に動こうずする自分は心の䞭にある萜ずし穎みたい物にはたっお抜け出す事が出来なかった。そしお日曜日の朝に予玄しおいた飛行機の時間を明日のフラむトに倉曎出来ないか航空䌚瀟に電話をかけた。

    ホテルの受付にも明日のチェックアりトに倉曎する事を告げた。受付のお姉さんは寂しそうにしおいたのでたたすぐこの囜に戻っおくる事を蚀うず、䜕かを思い぀いた様に裏にある冷蔵庫から剣山みたいな果物ず思われるを取り出しお小さいナむフで四等分しお、プラスチックの皿に乗せるず僕の手に枡し、それはドリアンよ、ずその人は蚀った。僕は玔粋な甚途がわからず、手に乗せられた瞬間に尋ねた。ずいうのもずおも口にする物ずは思えない臭いだったからであり、出来る事なら受け取るのすら拒吊したかった。するずお姉さんは声に出しお笑っお、果物は食べる以倖にないよず蚀った。なんだか申し蚳ないので僕はその黄色の果物を口に運んだ。味は臭いの通りで僕の奜みではなかったが、味以前に臭いが匷いずいう衚珟が正しいその堎で捚おずに郚屋に持っお垰っお食べるず蚀っお足早に郚屋に戻った。僕は荷物を敎理ずしようず鞄の䞭から所々で買ったお土産をドリアンが眮かれた机の䞊に乱雑に䞊べた。寝釈迊仏のキヌホルダヌに象のマグネット、仏教の教えず倧量の動物や人が描かれた菱圢のポスタヌ。そのどれもが僕がこの囜に居た事を改めお感じさせた。
    その時僕は池に向かっお倧きな岩が萜ちた様にはっずした。䞊に跳ねる氎飛沫ず匛む様な氎の動きが僕の心を動かしたようだった。僕はようやく気づいたのだ、この心の拠り所に。僕はい぀だっお心躍る方ばかりに気を取られお心が萜ち着く方を忘れおしたっおいおありもしない期埅をキャンパスに描いおしたっおいた。でも今の僕にはそれは必芁なかった。僕にずっお必芁なのは自分勝手で前向きでたたに頌りにならない暎君なのだ。机の䞊にはドリアンず寝釈迊仏のキヌホルダヌが䞊んでいた。すぐにでも葵に䌚いたくなった。こんなに玠盎な自分に心の䞭で少しだけ笑った。


    「もしもし、䞀守だけど」

    「むチモリ君、こないだは電話かけおごめん。私かける぀もりはなかったのよ。でもなんだか色々あっおどうしおもむチモリ君に話そうっお思っちゃったの。」

    「いや、いいんだ。むしろ嬉しい。」「僕も葵に話したい事がたくさんあるんだ。日本に戻ったら新宿の喫茶店に行こうよ。そこは24時間営業だからい぀たでも居れる。なんずいうか぀たりケヌキも雚も僕らには芁らないず思うんだ」

    「盞倉わらず、あなたっお面癜いわ。でも私もそう思うわよ」「それよりもそれっおデヌトの誘いかしらそうだずしたら花束はいらないわよ。その代わりに人参の束を持っおきお」

    僕の蚀葉には嘘停りなかった。それがあの島囜で聞いた「倧事な時」だず思った。


    23
    幎も明けお新幎初の日曜日、僕らは新宿の喫茶店に向かい合っお座っおいた。゚レベヌタヌを抜けおぐるっず右に回るずテヌブル垭が広がっおいお、奥の方が喫煙垭になっおいた。薄暗く光る灯りの元には煙草が溜たった灰皿が机の真ん䞭に眮いおあった。僕らは話しおも話し足りない話をずっず続けた。あの島囜の事、葵がアルバむトを蟞めた事、レンガ調の床の氎溜りに集たる猫の事。日が暮れおもキャッチボヌルは終わりそうになかった。


    「葵はさ、ドリアンっお食べた事ある」




    【曞いおみお】
    ビヌトルズのむンマむラむフを最近狂った様に聞いたのをきっかけにノルりェむの森を孊生の時に読んだのを思い出しお曞こうず思いたした。ずは蚀っおも読み返したりするのは違うず思ったからそんな事はせず、、
    ちょっず捻くれおるむチモリ君、自分自身を粟䞀杯を生きる葵、あずは色んな堎所で出䌚う女性達。最埌は玠盎になる圌。冒険する経隓がないず自分にずっお倧切な物には気づけないず僕自身も思うのです。だから結末よりも過皋を倧事にしたいし過皋に重点を眮きたした。
    出おくる堎所は実圚する堎所がほがで、喫茶店も僕がよく行く堎所だったりしたすね
    ちなみに葵はハむラむトのメン゜ヌルを吞っおたす。笑






     
     
    人生の䞭の倖 事実ず創䜜。

    あなたぞのおすすめ