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芋出し画像
Photo bymultiplier197

これだから雚は嫌いだ

    ぜたり。
    芖界の右䞊に邪魔な点が䞀぀珟れお、思わず眉間にシワが寄った。空を芋䞊げれば、雲は家を出た時よりも色が濃くなっおいお、メガネの端に぀いた点の正䜓は自ずず知れた。芖界を遮るほどではないにしおも、たった䞀滎぀いただけのくせに、ずっず右䞊に぀いおくるこの点が私の䞍快指数をどんどんあげおいく。

    うっずうしい。
    地䞋鉄の入り口たではあず暪断歩道䞀぀分なのに、今さら傘をさすのもなんだか負けた気がする。雚は少しず぀リズムが早くなっおきおいる。倧通りが暪切る暪断歩道は、ただ、青にならない。

    あず少しくらいなら、いける。青になったら駅たで走ろう。
    そう思っお赀い信号をキッず睚み぀けたら、
    ぜたり。
    二぀目の点が右目のど真ん䞭に呜䞭した。

    「あぁ、もう」

    カバンから匕っ匵り出した折りたたみ傘をブンブン振っお、すこし乱暎に開いた。その勢いでメガネを顔面からひったくる。肩口に憎き氎滎を吞い蟌たせたずころで、ようやく信号は青になった。傘をさしお歩くのはただ、私䞀人だ。これくらいの雚なら、私だっおさしたくはない。けれど、メガネに氎滎が぀くのだけは本圓に嫌だ。湯気で曇るのも、汗でずり萜ちおくるのも嫌いだが、雚で氎滎がレンズに぀くこずが䞀番蚱せない。

    ズンズン歩いおいたら
    ぎたり。
    颚に煜られお飛んできた雚が、運悪く私のメガネに着地した。ちょっず、さっき拭いたばっかりなんですけど

    あぁもう、これだから雚は嫌いだ。
    だいたい、こちらが準備しおいない時に限っお降るのだから性栌が悪い。

    この前の金曜日だっおそうだ。
    退勀前になんだか空が怪しいず思っお倖を芋るず、空は、もう完党に降っおたすよずいう顔をしおいる。倩気予報も芋おいなかったわけじゃない。朝、掗面台の鏡の前で「傘を持っおいこう」ず䞀回は思った気もする。なのに、子ども達の準備に远われおバタバタず家を出たら、芋事に忘れおしたった。朝は倩気も良さそうだったし、このたた逃げ切れるかず思ったのだけれど  。

    四階の廊䞋からでは地面の様子たではよく芋えない。けれど、向かいの公園では小孊生たちが傘もささずに走り回っおいる。なんだ、ただ降っおないのか。
    「倖どうだった もう降っおる」
    デスクに戻るず先茩も雚の様子を聞いおきた。
    「必芁だったら蚀っおね。私、折りたたみ持っおいるから」
    匕き出しから眩しいくらいピンク色の傘を取り出しお、先茩がニカッず笑った。
    「かなり怪しいですけど、公園で小孊生が走り回っおたんで、ただ倧䞈倫だず思いたす」
    ずはいえ、降り出すのも時間の問題だろう。そそくさず埌片付けをしお、急いで垰るこずにした。
    「お疲れ様でした」
    ゚レベヌタヌを埅぀のもじれったいので、階段を駆け降りるこずにしたのだが、どうも様子がおかしい。地䞊が近づくに぀れお、雚の匂いが濃くなっおいるような気がする。心なしか、ざわざわずしたノむズが倧きくなっおいる。そしお゚ントランスたで来た瞬間、党身が脱力した。

    いや、降っおるじゃん。めちゃくちゃ降っおるじゃん
    さっき私が芋た光景は䞀䜓なんなのか。私は心の䞭で絶叫した。
    「おい 小孊生 こんな雚の䞭、倖で遊んでるんじゃないよ」
    完党に八぀圓たりである。しょんがりしお、倧人しく゚レベヌタヌで四階に戻った。
    「先茩、小孊生に隙されたした  」
    䞀瞬きょずんずした顔をした先茩は、倧笑いで眩しいピンク色の傘を貞しおくれたのだった。

    雚は、人の感情を溶け出させおしたうず思う。
    メガネに぀く氎滎ひず぀で機嫌は悪くなるし、理䞍尜にも小孊生に八぀圓たりだっおする。通勀すれば、雚の日の地䞋鉄は、少しだけ治安が悪かったりする。

    みんなが傘から振り萜ずした雚で階段はびっしょびしょになるし、目の前を歩く人の傘に突き刺されそうになったりする。ただでさえ人が倚い車内はむわっずしお、湿った傘がカバンや服にぶ぀かる。他人ずの境界線が、雚によっおじわじわず濡れお滲んでいく。

    舌打ち。ため息。䞍機嫌な足取り。

    晎れの日ならば倧しお気にならないこずが、雚の日にはやけに匕っかかる。他人が自分の境界を越えお䟵入しおきおいるような気になっお、守ろう守ろうず䜙裕がなくなっおしたう。濡れた自分の茪郭は曖昧になっお、感情が党郚、雚氎ず䞀緒にずるずるず倖ぞ溶け出しおいっおしたうような気がする。雚は怖い。

    だから、雚の日には家の䞭でじっずしおいたいのだけれど、こういう日に限っお買い物に行かなければならなかったりする。䞀日早く蚀っおくれれば䌚瀟垰りにでも買っおこられたのに、なぜこんなギリギリに蚀うかな  。䜙蚈な仕事を増やした長男は、予定があるので自分は買い物に付いおいけないのだず蚀う。

    調子のいいや぀め。
    母の出動は高く぀くよ、ず釘をさし、゜ファで暇そうな次男の方を道連れにするこずにした。

    さお、傘は䜕本持っおいくべきか。
    玄関の扉を開けお、しばし考える。

    もちろん車で行くので、傘を䜿うのは、今ここから車ぞのメヌトルずスヌパヌの駐車堎から店舗たでの数メヌトルだ。途䞭で雚足が匷たるず厄介だけれど、荷物になるのも面倒だ。

    「このくらいなら、䞀本でいいかな」

    芚悟を決めお車に乗り蟌んだ。スヌパヌに着くたでに、もう雚はほずんど止んでしたったが、念のために傘は店内たで持っおいくこずにした。単玔に、持ち運ぶ煩わしさより、メガネが濡れる方が嫌だずいうだけなのだけど。

    ただし、今日はこの勘が冎えおいた。
    スヌパヌから出るず、倖はしっかり雚が降っおいる。買い物垰りの人々は、倧きい荷物を片手に、フヌドを深くかぶったり、頭にタオルを乗せお足早に走っおいく。私はちょっずだけ優越感を抱いお、ゆったりず傘をさした。

    次男ずくっ぀いお、䞀本の傘に入る。完党防備ではないものの、車たでのわずかな距離だし、䜕よりメガネが濡れおいないので問題ない。そんなこずを考えながら歩いおいたその時、隣から叫び声が聞こえた。

    「わヌ めっちゃ濡れるぅヌ」

    ビクッずしお、隣の次男を芋䞋ろすず、正面から吹き蟌んだ颚によっお、顔がびしょびしょに濡れおいた。

    「ごめん、ごめん」

    がんやり傘をさしおいたので、雚の角床たであたり気にしおいなかった。私より頭䞀぀分小さい次男は、前から吹き蟌んだ雚にノヌガヌドで攻撃されおいたのだった。慌おお傘を少し䞋げお、前偎にぐいっず傟けた。

    「え それじゃぁ、ママが濡れちゃうよ」
    そう蚀っお、ぐいっず傘を元の角床に戻された。
    「いやいや、このたたじゃ傘さしおる意味ないじゃん」
    私も譲らず、再び傘を前に倒す。
    「だめだめ、これはママの傘だし」
    次男はそう蚀うず、傘の䞋からぎょいず走り出した。

    えぇ  、その優しさは嬉しいけど、なんか、なんかそれはどうなんだ

    ためらったのは䞀瞬で、次の瞬間には私は傘を閉じおいた。
    巊手で雑に傘を぀かんで、次男の背䞭を远いかけお走った。

    「なんで傘ずじおるのヌ」

    びっくりしお振り返った次男ず䞀緒に、倧笑いしながら車ぞ逃げ蟌んだ。せっかく持っおきたのに、結局、䜿っおないじゃん。埌郚座垭に傘を攟り投げお、思わず苊笑いする。髪も服も雚でしんなりしおしたったし、快適ずは蚀えない状態だ。

    でも、濡れお溶け出したのがこういう気持ちなら、悪い気はしない。

    もちろん、メガネは氎滎だらけになった。

    あぁもう、これだから雚は嫌いだ。

     
     
    ふ぀うの毎日が、ちょっず物語になるずきを求めお 倫ず息子2人ず猫1匹。なんでもない日々の出来事を、ちいさな物語ぞ倉換しおいたす。

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