450号室は妖怪館への入口
あらすじ
編入したばかりの大学で、文化祭準備に追われる平凡な日々。ところが、突然の鐘の音とともに校舎は妖怪だらけの異世界に変貌する。閉ざされた寮、赤と青の鍵、協力者の仲間たち――謎のペンギンから渡されたお守りを頼りに、主人公は球を集めて元の世界へ戻ることを目指す。幽霊のような赤鬼や煙を操る妖怪、ボスの居間を抜け、仲間と危険を乗り越えながら進む冒険は、緊張とユーモア、友情と知恵の連続。果たして、現実に帰れるのか――妖怪だらけの不思議な大学で、異世界大冒険が幕を開ける
一変する
必死に勉強して入りたかった大学に夏休み前に編入できた
夏休みはたまに家に帰ったり、人生で初めての一人暮らしを始めるから、新生活の準備や新しい大学の準備を着々と日々を過ごしていた
夏休み明けには文化祭が待っていた
終業式が終わってそのまま文化祭の準備の続きを始める生徒たち
ほとんど終わってはいるものの、微調整をしているゼミが多かった
本番が明後日に控えていた頃
私はようやく荷解きが終わって、新生活を待つだけだった
私が編入した大学は校舎と寮が繋がっているから
学校にもすぐに行きやすいところだった
初めての学校の見学も兼ねて校庭を一周して、たくさんの出し物を見ていた
陽キャたちが遠くの方で騒いでいた
「苦手なタイプだ……」そうポツリと呟き
私は居心地が悪くなって自分の部屋(450番)に帰ることにした
エレベーターに乗り自分の階を押す。
締まりかけのエレベーターの扉を押さえて乗ってきたのはピンク色の髪に、米津玄師みたいなだぼっとした黒い服を着た男だった。
広いスペースのがあるのにわざわざ私の近くに立ってきて、私はとても嫌そうにめいいっぱい離れた。
彼は動じず7階を押していた。私は4階。
(早く降りたい!扉閉まりかけてたのになんで乗ってきたの!)そう思っていると、彼が突然話しかけてきた。
「明日の長机の運び出し、君お願いね」ニコッと笑顔でこっちを向く。仲良くなろう感が伝わってきた
そういうのが突然で、苦手意識が出ちゃって咄嗟に目を合わせないようにした
「あ、え?その何のことですか?」頑張って声をふり絞った
「長机。あれ張り紙見てないの?」怪訝な顔になったのを横目で見て体がさらに強張る
「越して来たばっかりでわからなくて」
「はぁ、掲示板に書いてあるから、ちゃんと見なよ。文化祭で必要な長机を運ぶの手伝う人募集してたから、よろしくね」
期待外れだったのか軽く呆れたような嫌な顔をしていた
チン、やっと4階に着いて急いでエレベーターを降りて扉が閉まってから振り返り
「あんなに嫌な顔しなくてもこれだから陽キャは……あぁやって下に見てるんだから」
そんな愚痴を部屋までの廊下を校庭ではしゃいでる学生を見ながら呟いていた。
その楽しそうな笑い声を聞いて羨ましさと後悔と寂しさが押し寄せてきた。
部屋の前に立ち「はぁ……」とため息をして、カチャンと鍵を回した。
とその時……
ボーン、ボーン、ボーン、ボーン
大きく低い鐘の音が4回鳴った
昼下がりだったのに、徐々に周囲が暗くなっていく
何が起きているのかわからず、校庭の方を覗き込んだ
するとそこはもう別の世界になっていた
そこら中に、妖怪が走り回っていて赤提灯がたくさん光っていた
私がいた寮もいつの間にか別の建物になっていた
「え…ここどこ、みんなはどこに行ったの?とりあえず部屋に……」
向かった自分の部屋が全部、木造に変わっていた。部屋番号と鍵だけは変わらなかった
とあえず、部屋に入ったが私が見たものは…………
引越しのために貯金を崩して新しく買った部屋の荷物も家具も、何もなかった。
部屋の真ん中にちゃぶ台がポツンと置かれていて、そこに青と赤の鍵束だけが置かれていた
何も考えず、その鍵束を持ち“誰か”を探しながら出口を見つけようと思った
廊下を歩いていると校庭だった場所から、太鼓の音、笑い声、提灯が揺れてる。どんちゃん騒ぎ。
「こんな時にお祭り?なんでお祭りなの。まだ私以外にも人がいるの?」
そう思い、校庭を見た。人影が見えた。
(私以外にも人がいる!)
すぐにエレベーターがあった場所に向かった
「あのっ!!…人がいて良かった!」咄嗟に声をかけたけど、それはさっき見ていた陽キャたちだった
長い黒髪の赤いワンピースをきた綺麗な女「この子だけ?」
ピンク髪のチャラチャラしたエレベーターの「くそっ、どうすりゃいいんだ。校庭も変なのばっかりで」
色黒、金髪ギャルの女「だるいんだけど」
黒髪メガネの頭の良さそうな「他に人は?」
「私以外誰も見てないです。あと部屋にこんな鍵束があったんだけど、何かの役に立つかと思って持ってきたんだけど」
「そんな鍵束何の役に立つんだよ」ピンク髪の男が言う
赤い女がそれを見ながら「この鍵にあう場所を探そうよ」
メガネの男が静かに落ち着いた感じで「全部で鍵は何本あるんだ?」
私もよく確認せず持ってきたから、赤い女とそれを数えた
「4つの赤い鍵束と4つの青い鍵束、それとこの子が持ってた450号室の部屋の鍵」
「おいー。聞いてんのかよ。他を探そうぜ。」ピンク髪の男がだるそうに話した
「一旦、彼女の部屋に行ってみよう。見落としがあるかもしれない。君、名前は?」メガネの男
「私は一瀬紬です」
「何でもいいから早くここから離れようよ。何だか変な声が近づいてきてない?朱音も聞こえるよね?」
赤い女の後ろに隠れながらギャルが怯えていた
「みおの言う通り、さっきから気味が悪い笑い声も聞こえてるし」
「どこかの変態じじぃが騒いでるだけだろ」とピンク髪の男が呑気に笑っていた
「ちょっと黙っとけ、要」メガネの男が制した
廊下の奥の階段の方から色んな妖怪たちの笑い声や提灯の光が見え始めた
「なんかまずい事になってきてるな」理人が冷静に言う
急いで私の部屋に逃げ込んだ。幸いにもエレベーターのすぐ目の前が私の部屋だった
部屋に入るとさっきとは違ってとても静かな空間が広がっていた
「お前の部屋だけ昭和っぽい部屋だな」ピンク髪の男が笑ってきた
5人が入るにはとても狭いワンルームの和室をみんな色んなところを探索し始めた
「始めはこんな部屋じゃなかった。もう普通のマンションの部屋のようだったのに、鐘の音がなった瞬間にはこうなって……」
窓も障子に変わっていて、その白い障子には大きな黒い骸骨の影。ここ4階なのに…
「な、に。今の黒い影……」朱音がみおの手を握る
誰も口を開かないまま、部屋の隅まで探した。
「何もないね」朱音が落ち込んでいた
「……ねぇ、静かじゃない?」
「部屋入った時から静かだろ。なに言ってんだ、みお」
「そうじゃなくて、いつも1人でも喋り続けるほどに、うるさいあいつがいないんだけど」みおが青ざめながら言った
みんなで辺りを見渡したがいなかった
こんな狭いワンルームで、人が1人突然にいなくなるなんてあり得ない
「彼はどこを探してたの?」赤い女の朱音が言う
みんなが押し入れに目を向けた
押し入れが開いていた。近くにいた私が押し入れの中を覗き込んでみた
「!!」
中は暗く道だけがわかる光が差していた
何かに引き込まれるようにどんどん黙って奥に入っていく私
「おい、何があるんだよ。勝手に行くな、おいって!」理人の制止も聞かず先に進んだ
押し入れの奥にはどんどんと道が続いていて、ようやくうっすらと光も漏れている扉があった
そこからかすかに声も聞こえた
私の返答がないのが気になって、みんなも後を追ってきた
妖怪の館
光が漏れていた扉は襖だった
そうっと外の様子を伺いながら扉を開ける
その先に広がっていたのは妖怪たちだけがいる旅館の受付広場だった
「何だよ!これ!」それまで淡々と話していた理人も大きな声を出してしまった
それも仕方がない、私たちの目に映っているものはありふれた校舎ではないのだから…
「ちょっと声がでかい!」みおが彼を引っ張った
彼の大きな声に驚いた私たちは物陰に身を潜めながら、状況を整理しようとしていた
「ご、ごめん」理人が小さく謝った
彼の声は妖怪たちのどんちゃん騒ぎのおかげで幸いにも聞こえていなかった
「ねぇこんな所早く帰ろう」朱音にそう言われ私は来た道を振り返った
「ねぇ、あの子は……?」みおがいない……
「!?」理人も朱音も同時に振り返った
いなくなる事に誰も気づけないなんて……
「おい、待て。みおもだけど、俺たちが入ってきた襖はどこにある?」
まずい……帰り道も断たれてしまったし、どんどん人が消えていく
「その扉は何?そこから帰れるんじゃ……」私が指差した銀色の扉
理人が恐る恐る手を伸ばし、少しだけ開けて見た。
「なんだこれ」そこは洗濯籠やタオル、掃除用具セットなど備品室だった
辺りを見渡したしても、みおも他に扉も見つかるわけもなく
ただ帰れないとわかっただけだった
「見てあれ、あそこに受付があるみたい。なんだか旅館みたいね」朱音小さな声で話した
受付には私たちが童話とかでよくが知る狐と狸の妖怪がおもてなしをしていた
狐はお茶を出して、狸は客室案内をしている
辺りを見渡していると
「ねぇ、あれ見て人じゃない?なんであんな堂々と居れるの?」
朱音が見る先を見ると本当に人の姿があった
「あいつらに聞けば何かわかるかもしれない!」と理人が歩き出そうとした
しかし、違和感を感じていた私は彼の腕を黙って掴んだ
「おい!」理人は突然の事で思わず怒った
しかし、腕を掴んだ手に強く力が入る「何だよ!」
「よく見て……」彼は怪訝な顔をしながらも人に目をやる
その人が後を向いた時、長く黒い尻尾が二つ生えていた
「尻尾!!!!」
「そういえば、本とかでも見るわね。人間に化けて生活している妖怪がいるって。
それも狐や狸、猫とか妖力の強い者がより完璧に化けれるって。」朱音が補足をしてくれた
「何だよ、それチートじゃねぇか。これからどうしろってんだよ!クソッ」理人の気持ちに同感だった
ふと、上を見上げると、とてつもなく長い長い吹き抜けで天井さえも見えないくらい
ちょうど、受付の前に大きな柱、そこに案内状が置いてあった
「あれを手に入れれば出口を探せそうね」私が指をさした
「でもどうやって……」朱音の不安もわかる
「さっきよりも妖怪の数が少ない気がする。今の内に走り抜けるよ」私が先導して素早く柱まで移動した
大きな柱に無事に隠れた
「急に走り出すなよ」理人が柱に背をつけて怒ったが無視して
案内状を手にとり開いて見た。館内マップが書かれていた
お食事処に土産屋、銭湯にイベント会場まで書いてあった
「なんか人間界の旅館と変わらないね」横から覗き込んでいた朱音が私の気持ちを代弁してくれた
「とりあえず、人……いや、妖怪が減るまで安全な場所を探さないと」
そう話していると狐の妖怪が私たちに気付いたのか少しずつ歩いてくる
(まだ人間だとバレてはいない……はず
この間にどうにか誤魔化さないといけない、どうする)焦りだけが募って何も思い浮かばない
そんな時、その狐に別の客が話しかけた
その一瞬、ほっとしたけど「僕についてきて」そう言われ私は何かに手を掴まれて走っていた
かなり前屈みながら走っていたから、かなり小さな子に手を引かれていることだけはわかった
咄嗟にみんなの手も引いて、そのまま地下の食料庫に着いた
「ここなら大丈夫、君たちよく聞いてくれ」
何が何だかわからないままで、息も整える間も無く話し始めた
「少し待って、お願いだから」私は彼に伝えた
そこでようやく、ちゃんと姿をみた
青いペンギンで金太郎の前掛けをしていた
「「か、かわいい……」」私と朱音は思った事が口に出していた
「時間がないの。いい?これからどんどんと夜が深くなっていく。妖怪たちの妖気も濃くなって人間でいられなくなっていく。
そうなった後のことは誰も知らないけれど、人には戻れないことは確か。だから僕の言うことをちゃんと聞いて。」
その言葉を聞いて姿を消した2人のことを思い出し、ゾッとした
「まずコレを持って」そう言って渡されたのはペンギンマークのついた小さなお守り袋だった
「コレは人だとバレないようにしてくれる9つの豆。どうしてもって時に飲んで、一時的に人の気配が消えるから。
これから上層階にいるボスの居間まで行ってもらう。そこで左右に部屋があるんだ。
その部屋のどこかにある箱の中に赤い球と青い球が入ってるから、それを見つけて。」
みんなで顔を合わせた
私は手に持っていた鍵束をペンギンに見せる
「ねぇ、これ知ってる?」
「なぜそれを!?まぁでも話が早い。それがあれば球が入った箱を開けることができる。」
「でもどの鍵で開ければ……」
「それは鍵穴に挿してみないとわからないんだ。鍵穴は毎夜変わるから。」
みんな気が重くなった
ペンギンは“きっと大丈夫”そう小さな手で私の手を握った
小さな手なのにとても勇気が湧いた
手を繋いだまま、見つからないように素早く階段近くの柱の影まで行った
「この上なんだ。僕にできることはここまでだから」
小さな手が上を指す
それは気が遠くなる程の高さだった
「え……これを登るの?階段で?」朱音が怪訝な顔で言う
確かに長いし妖怪の声もたくさん響いていた……
「エレベーターもあるけど、他の妖怪に見つかるリスクがあるんだ。だから……赤鬼たちがいる場所についたら後少しだから」
悲しい顔をしながらも、小さな手を丸めて“頑張って!”と応援してくれた
赤い小鬼
ペンギンと別れてから
私たちは縦に長く吹き抜けた古い木造の螺旋階段を上がった
各客室や宴会場のなど色んな階があった、そこにも様々な妖怪がいた
見つかりそうになる時はペンギンに貰った豆を食べて隠れながら永遠に登り続けていた
いつ妖怪に見つかるかとそんな緊張で心も削れて体力も限界が近かった
みんなが黙って上だけを見て走っていた
弱音を吐けば足を止めてしまいそうだった
「どこも景色が似てて迷子になりそう、本当にたどり着けるのかな、もう歩けないよ、EVに乗ろうよ」
朱音がついに我慢の限界だったのだろう弱音を吐いた
「迷子になったら困るし、ペンギンも言ってたけどEVは妖怪たちが使ってるから逃げれないよ。
これを上がる方が安全だから、もう少し頑張って」
私も正直不安だった。登っても登っても先が見えない。心が折れそうだった。
「おい、待て」理人が突然、手で制した
柱に隠れ、シーっとジェスチャーしながら階段の上を指さす
そこには小さな赤鬼が数十匹、宴会をしていた
「ペンギンが言っていた場所はここ……だよね」
「あそこ見てみろ」言われた先を見ると
その先にはボスの部屋と書かれたEVがあった
「!!」きっと直通だろう
ようやくここまで来た
でもどうやってあそこまで、周りは赤鬼だらけなのに……
考えることに夢中になっていたら
いつの間にか1匹の赤鬼が首を傾げながら私たちに話しかけてきた
「君たち人間?」
理人は咄嗟に私たちの前に盾となってくれ、私と朱音は抱き合って身を屈めて次の行動を必死に考えた
「ねぇ君たち……上に行くんでしょ?一緒に行く?」
小さな子供のように右に左に首を傾げながら言ってきた
“一緒に行く?”どういう意味かわからず、言葉に詰まった
声を出せなくて口をパクパクしていたら
「アハハ、お魚みたーい。 ペンギンくんの友達でしょ?ここでちょっと待っててね」
凄く嬉しそうにどこかへ行った
赤鬼の様子を見ていると他の赤鬼たちを1つの場所に集めて何かを話していた
その後、突然笑いだし円になって歌い始めた
その円からこっそりと抜け出した赤鬼は
「今のうちに!こっちだよ!」エレベーターの中から手招きをした
どうにでもなれ!そう思い言われるがまま赤鬼のそばに静かに、でも早く向かった
やっとの思いでエレベーターに乗る
みんなが乗ったのを確認してから扉を閉めてくれた赤鬼
「どうして……はぁはぁ」
「ペンギンくんに頼まれたの!それに僕たちは人間好きだし!わくわくするじゃない?!」
本当に無邪気な人間の子供ようにはしゃいでいた
「ありがとう、でもこれ大丈夫?」
「大丈夫だよ、ボスの部屋まで一飛だから!」
「着いた先でバレないかな……」朱音は小さな声で呟いた
「大丈夫だよ、赤丸を信じて!」ドンと自分の胸を叩いた
「あ、ねぇ君の持ってるその赤い鍵どうしたの?青いのはペンギンくんのだよね?」
「え?」訳がわからなかった
「ほら、ここに僕たちのマーク書いてるよ。赤丸のと碧くんのマーク」
赤丸に指刺されたキーヘッドに赤い方には鬼の頭だけのシルエット、青い方にはペンギンの頭だけのシルエットが描かれていた
「あ、知らないんだった。説明してねって言われてたんだった。赤い鍵は僕たち赤鬼の鍵、青い鍵はペンギンくん達の鍵なの。
それをボスの部屋にある、赤い箱と青い箱に同じ色の鍵を差し込んでね。箱の中にある綺麗な球を取って、別のエレベーターで地下まで降りてね。」
理解するのに時間がかかり黙って鍵を見つめながら話を聞いていた
「まぁわからなくなったら"僕を探して"ってペンギンくんが言ってたから大丈夫だよ。もうすぐ着くよ。」
最上階に着き、チンと小さく音がなり、エレベーターの扉が開く
「僕はここまでだから」と言い、エレベーターの中から笑顔で手を振り、扉がしまった
下の階とは違って、薄暗く部屋の灯りが障子越しに漏れていた
長い廊下の先から妖怪たちの大きな騒ぎ声が聞こえる
ガハハハハ、低い声で一際大きく体に響く笑い声がした
きっとボスだ
何がなんだからわからないままにここまで進んできた
声のする方へ向かって、息を殺してゆっくりと廊下を歩いていた
障子に映る妖怪たちの影、遠くの曇天に天狗が何匹か飛んでいた
おとぎ話の用な世界にも驚かなくなってきた
ボスの居間
ようやくボスの居間までやってきた
夜も深くなってきて、だいぶ視界が悪い
朱音と理人は下に降りるエレベーターを探しに行くと途中で別れた
鍵束を持っている私は1人ボスがいるであろう居間の中を隙間から覗いて様子を伺っていた
上座に座って煙管を吸い、お酒を飲んだくれ、ご馳走を手下に振舞っている体の大きな妖怪
頭はハゲていて、眉毛や口ひげは生え放題で阿波踊りの法被を着ていた
凄くご機嫌で歌も歌って踊っている
多分、あれがボスだろう
(上機嫌な今、私には気づかなさそうね)
外から様子を見ていると手下がボスに耳打ちをしていた
「なにっ!?侵入者だと!それに人間!?ワシの酒盛りを台無しにするやつは誰だ!許さん!」
ボスは立ち上がり、せっかくのご馳走やお酒を蹴り飛ばし、暴れだした
「ボス!落ち着いてください!我々で何とかするので!」
手のつけられない状態になったボスを側近らしきヒョロっとした三つ目の妖怪がなだめていた
(もうバレたのか。でもまだ私達がどこにいるかまでは分からないはず。他のみんなも見つからないで。)
そう願いながら見つからないように気を使った
「おい、探知班!煙をまけ!」三つ目が近くに居た妖怪に命令した
猫の仮面をつけた妖怪が煙管を大きく吸い、一気に吐き出した
辺り一面に広がる、その煙はまるで生きているかのようにモクモクと広がっていった
ボスはそんな事よそに数体の手下を連れて下の階に駆け下りて行った
「ボスがいなくなった、今しかない」
私は物陰から飛び出し、煙に触れないように右の部屋に行く
足に何かが辺り部屋を見渡す、薄暗くてもわかる程に書類が床やテーブルに大量に散らばっていた
机の上にある小さな灯かりを頼りに書類の山からどんな箱かも分からないものを探していた
数十分、手に何かが当たる「何か固いものが当たったような」
書類の山をかき分けて、手のひらサイズの木箱が出て灯かりにかざして見た
「これであってるのかな?」おもちゃのような木箱を色んな角度から確認した
鍵穴を見つけた、少し青く光ったように見え、箱にはペンギンのマークが記されたいた
「この鍵を使うでいいんだよね……」青い鍵を取り出し、一本ずつ差し込んでみる
「これも違う、これも、これも」いつ戻ってくるかも分からない中、焦る気持ちだけを落ち着かせた
最後の4本目でようやくカチャンと鍵の開く音がした
その音は静寂の中、とても大きく聞こえ、咄嗟に木箱を隠し周りを見渡した
「ふぅ……誰も来てない。」ほっと胸を撫で下ろした
箱の中身は大きな飴玉くらいの青い水晶球だけがコロンと雑に入っていた
「え……」拍子抜けした。もっと凄いものかと思ったけど、こんな物なんて
「そんなことよりも赤い球も見つけないと」とりあえず青い球を握りしめて次の部屋に向かった
そーっと障子を開けて誰もいないことを確認してから左の部屋に入った
敷きっぱなしの布団と枕元に小さな灯りがあった
「寝室っぽいな」そう辺りを見渡すと和ダンスが目に入る
「こうゆうのって大体タンスの奥に入れてるってドラマとかで見るよね」
ゴソゴソとふんどしや法被が入ってるタンスにイヤイヤながらも手を奥に入れて探す
コトンと手に何か当たった。そのままそれを取り出す
「本当にあった……ハハッ」冗談のつもりだったけど本当にあって思わず笑ってしまった
枕元の光に当てると、青い箱と同じように鍵穴が赤く光り鬼のマークが印されていた
「これかな?」カチン、今度は一回で開けることができた
青い水晶球と同じように赤い水晶球入っていて、大きさも同じだった
それを手にとり見比べた
「本当にこんなもので何とかなるのかな?とりあえず、みんなと合流しよう」
少し不安になりながらもポケットにしまう
障子の隙間から部屋の外の様子を伺っていた
遠くの方から何匹か帰ってきた
「ボスにも参ったもんだ。あぁも煙を撒かれると俺たちの視界も悪くなるのに」
「本当だよ、これじゃ探すことも出来ねぇし、酒でも飲んで待ってようぜ」
おちょこでお酒を飲む仕草をしながら話しているのが聞こえてきた
さっきまで誰もいなかった居間に妖怪たちがゾロゾロと戻ってきた
(もう戻ってきちゃったのか)
さっき妖怪が吐いた煙のせいで視界もかなり悪い
すぐには消えない煙どうやら色も紫っぽく妖気が混じっていた
(長くいるのはまずそうだね)
廊下に出ると側近たちが見回りを強化していた
猫の面を被った濃いグレーのチャンパオを着たすらっとしたモデル体型な妖怪のそばには
ベージュのバクの顔だけが掃除機のように妖気の混じった煙を吸っている
廊下の角に逃げるがどんどんとこちらに寄ってくる
角にぶつかりそうになった時、一時的に止まって方向を変えていた
まるでルンバのように思えた「この2体、目と耳が機能してないのか?」
バクは目も白く濁っていたから、きっと目が見えないと思った。その代わり鼻をよく動かしていた
煙を食べながら猫の面の妖怪を誘導していた
ペンギンに貰った豆をひとつ食べて壁と一体になるくらいにへばりついた
ちょうど足元ギリギリで煙は下に流れ落ちていく
バクは煙を辿っていたが引き返し猫の面はそれについて行く
ホッと胸を撫で下ろした
(どうしよう、これじゃ身動き取れない)
赤い球、青い球
(せっかく赤と青の球を入手できたのに、このままだと見つかるのも時間の問題じゃない)
考えを巡らせている時、遠くの方でキラッと何かが光るのもが見えた
目を凝らして見ると赤い服が少しだけ見えた
「いた!」
朱音は壁に持たれて座っているのがわかった
妖怪たちは宴会を再開して酔っ払って大騒ぎ
その間に光を頼りに進む事にした
「ねぇ」朱音の肩に手を置こうとしたけれど
「やめて」両手で叩かれそうになったのを掴んで
「大丈夫、私だよ」朱音を安心させるためにできるだけ落ち着いた声で話した
腕をおろし私の顔を見て、ようやく安心したのも束の間に急に青ざめ暗い顔になり下を向く
不思議に思った私は握った左手を見ると、メガネが握られていた
「理人さんは……」言いかけた時、朱音は涙を溢しながら首を振った
「まさか……」
「…猫の……猫の仮面をつけたやつに……気味の悪いモノに食べられた……」
弱々しく今にも消えてなくなりそうに話した
(私が見たやつと同じやつだ。相当怖かったのだろう。でも朱音さんだけでも生き残ってくれて本当によかった)
思うだけで口にはできなかった
少しの沈黙の後、そっと朱音を抱きしめて「……行こう」とだけ言って手を引いた
朱音たちはちゃんとエレベーターを探してくれてたおかげで、すんなりと乗り込むことができた
「1階まで直通だからしばらくは安心」朱音の手を強く握る
「……このメガネに光が反射したおかげで、あなたを見つけられたから今まだ生きていられてる」
なんの気休めにもならないけど、それだけはどうしても言っておきたかった
朱音が自分を責めないようにとかそんな綺麗事ではないけれど、それを伝えられずにはいられないほどに
私自身も限界だったのかも知れない
途中、エレベーターには館内の様子が映像で見れるようモニターが付いていた
エレベーター自体はガラス張りで外の景色も見れた
館内も外も妖怪たちが私たちを探しているようで慌ただしくしていた
改めて自分たちの状況を客観的に見た気がした
チン、1階に着いた
けど扉が開かない
「どうして、なんで」すると目の前にグレーの台が足元から現れた
「なに、これ……」思わず後ずさった
その台に3つのくぼみがあって何かをはめれるようになっていた
左側のくぼみの上には鬼のマーク、
右側のくぼみの上にはペンギンのマークが描かれていた
真ん中のくぼみは左右のくぼみが丸いのに対して、どこか雫の形になっているように思える
「これをどうしろって」私が考えていると
どこからか声が聞こえた
“僕たちを使って”落ち着いていて聞き覚えのある声だった
「僕たちを使ってってどういう意味なの。鬼と……ペンギン…………っ!」
その時、ハッと気づき、さっき手に入れた赤と青の水晶球をポケットから取り出した
「まさかこれ?」私は半信半疑ではあるけれど
鬼のマークに赤い水晶球、ペンギンのマークに青い水晶球をゆっくりとはめた
すると2つの水晶球が光り、そのあと濁り始めてた
まるで魔法のように真ん中のくぼみに2つに水晶が霧のように混ざり始めた
それは美しく神秘的でもあった
2色が混ざり、紫色の濁った雫型の水晶が現れた
恐る恐る手に取るとエレベーターの扉が開いた
氷山
エレベーターから出たあと、妖怪たちにバレないように物陰に隠れながら外への出口を探した
いつ見つかるかわからない状態で朱音を守りながらじゃ生きた心地がしなかった
たどり着いた場所は他の場所尾よりも静かなバーだった
「こんなところにバーなんかあるの……」
カウンターにはバーテンダーの格好をした妖怪が1体だけいたが
背を向けて開店準備をしているようだった
そのカウンター横に人が1人通れるくらいの細い通路があった
「あの先をいけば外に出られるかも」
直感的に進み扉を開けると光が目に差し込んできた
「やっと出られた!!」気持ちが溢れでた
よかったと安堵して息を吸い込んだけれど
冷たい空気が肺に入り少しむせた
「え?!氷!?ここどこ?!」
私たちの目に映るものは海に浮かぶ無数の氷の板だった
それは私たちがテレビでよく見る南極の光景そのもの
「そんな……」私たち2人はドアにもたれかかり、座り込んだ
これからどうすかも考える気力がなくなって、ぼーっとしていた
すると遠くの方から
「やっと来た!ここだよ!おーい!」
声のする方に目をやると小さな青い手がヒラヒラと動くのがわかる
「あ!ペンギンくん!?」嬉しくて泣きそうになった
「君たちのすぐ下にボートがあるから、それでここまでおいで!」
下を見ると1つの木製ボートが浮かんでいた
(助かった)ほっとして坂を下りボートに向かおうとした時
突然……
「うぉーーーーーーー」ボスの唸り声が響き渡る
ボスの怒りは頂点に達していた
「ねえ!あれ!」
大きな奇声と共にどこからか津波が現れた
氷上が得意なペンギンでさえもバランスを崩して水に落ちていた
「大丈夫?!」
「平気だよ!急いで!」海に落ちたペンギンたちはすぐにまた氷上に飛び上がってきた
急いでボートに乗り込む
かなりの波に揺られ不安定で何かに捕まっていないと振り落とされそうだった
近くの柱に括り付けられたロープを外し、ペンギンのいる場所へ波に逆らいながら向かう
ボートがもろすぎて底から水が入ってきたけれどそんなのは無視して漕ぎ続けた
ようやく近づけた「ロープ!ロープを投げて!」
言われるがままロープの準備をしてると
「必ず見つけ出してやるからなぁーー!うおーーーー!」
言葉と共に次の波が押し寄せてきた
その波はさっきよりも激しく大きな波だった
私達はペンギンに助けられながら氷上にしがみついていた
(流されたらおしまいだ!)怖さで目を閉じる
波が私たちにぶつかる
ものすごい衝撃で自分よりも小さなペンギンにしがみつくのがやっとだった
波が引き、目を開けると私の周りをペンギンたちが囲んで固めてくれていた
氷の下にはアザラシや他の妖怪仲間も支えてくれていた
私たちを乗せた氷の板は彼らによって大きな氷の洞窟の中まで連れていってくれた
氷の板から降りると、いくつかの氷で出来たかまくらがあってどれもとても綺麗に輝いていた
「こっちだよ」
その中でも1番深海のような青色でどれよりも美しく透き通っていた、かまくらにペンギンたちは入って行った
中に入っても、そこにもまた小さなかまくらの部屋があり、大きなマトリョーシカでも見ているようだった
しかし美しさは変わらず見惚れていると
「この先に君たちの世界に繋がる道があるよ」
ペンギンがさした場所は小さなかまくらでそこには祭壇のようなものだけがあって他には何もなかった
「やっと帰れるのね!ありが……とう……って何もないけど、これどうやって帰るの?」
喜びはしたものの朱音もこんな状態だしこれ以上何かをするのは流石にしんどかった
それにやっぱりみんなのことが気になる……
朱音はと違って彼らとは“友達“だったんだから、もっと気になっているはずだし
「それとね、君たちに見せたいものがあるの」
そう言ってあの時の赤丸がかまくらから出てきた
「あ!……えっ……」
赤丸の手に引かれて一緒に出てきたのはみおと
その後ろからヘラヘラと笑いながら要が出てきた
私の後ろで人形のようになっていた朱音は2人を見て泣きながら飛びついた
「よかったぁぁ!生きてたぁぁ!うわぁぁぁぁん」
よしよしとみおが朱音の頭を撫でる
私は呆然と立ち尽くしていた
「どうして……だって……」
ペンギンは微笑ましそうに話してくれた
「妖怪はね、その場で食べたりしないの。だからどこかに囚われていると思って探していたの。
見つけ出すのすごく苦労したよ。僕たちの持ち場はほら“ここ”だから。
ここ以外館内を詳しく知らないから、赤鬼たちに手伝ってもらってたんだ。
でも彼らも中級の妖怪だから入れるところに限界があってね。遅くなってごめんね。」
私の手をとり、申し訳なさそうな顔をしていた
私は首を思いっきり振った
「何から何まで本当にありがとう。それじゃあ、理人さんも!?」
ペンギンは黙って首を振る「彼は……」
「そういえば、あいつはどうしたんだ??」
何気ない要の質問に沈黙が流れた
みんなペンギンを見ていた
重い口を開き「彼はバクに食べられた」
「!!?!!」
「2人は知らないから……仕方ないけど……」
「私の目の前で妖怪に食べられたの」苦しそうに震える手で彼のメガネを2人に見せた
2人は絶句していた
「ごめんね……助けられなかった……」
「じゃあ、あいつはもう死んで……」
「それは違うよ」ペンギンが要の言葉を遮った
「バクに食われただけでまだ生きてるよ」
「どうゆうこと?!」
ペンギンは深刻な顔で話し始めた
「2人にもわかるように説明するね。猫の面をつけてバクを連れている妖怪がいるの。
バクは探知能力があって紫の煙ガスを出すことで特定のものを探せるの。
そのガスに触れたものはバクに吸収されてバクの中で眠っている事になるの。」
「何だよそれ、警察犬みたいな妖怪はよ」
「でも生きてるんでしょ!助けに行こうよ!
あなたの力があれ私たちを助けてくれたようにば助けられるでしょ!?」
要とみおが揃ってペンギンに訴えた
あれを2人は見ていないから、簡単い言えることだった
ペンギンの代わりに私が
「そんな簡単な話じゃない……そうでしょ?」
救出
重い口を開いたペンギン
「さっき言ったようにバクの中で生きていることは確かだけど
どうやって出すかまでは知らないんだ」
申し訳なさそうに下を向いた
泣き崩れる彼女たち
私はペンギンに疑問が湧いた
「中で生きているってどうしてわかるの?」
「ボスと側近が話しているのをたまたま聞いたんだ。“バクの中にいるものは労働に使え”と……」
「労働……それならあの館のどっかで働いてるってことか?」要が喜びを表した
「でもそれがどこなのかわからなくて、上級の妖怪とそれに関係する一部の妖怪しか知らないから、
僕たちには詳しくは知らされてないんだ。」赤丸も話に混ざった
私は少し考え
「ねぇ、、もしかして、、
ボスの部屋か関係のある妖怪の持ち場にその詳細が書いてある書類みたいなものがあるんじゃないの?」
「「 っ!!」」赤丸とペンギンが顔を見合わせた
思い当たる何かがあるらしい
「確か、誰がどこ担当かわかるものが、フロントにあったはず!」ペンギンは話した
“それだ!”みんな希望に輝いた顔をしていたけれど
「……フロントって私たちが始めにペンギンくんに助けられたところだよね?」
一気に空気が重くなる
全てが始まった場所
館の入り口は多くの妖怪たちが出入りをしている
「かなり危険だけど、行ってみるしかないよ。あいつを助けるためには」
重い空気の中、みおの一言にみんなが賛同した
私も生きているとわかってて見捨てることはできない
もう2度と同じ過ちはしないと誓っていたから
ー 過去 ー
彩花「同じ大学受けようね!」
私「うん!夏休みは一緒に受験勉強しよう!」
彩花「最後だし、色んな思い出も作ろ!」
親友の大峰彩花の事を思い出していた
高校生から仲良くなった彩花はとても優しくて面倒見のいい子だった
このまま彼女とは一生の友達になると思っていた
あの日までは……
私「おはよう」教室に入るけれど
彩花がいない、私より遅い事なんてなかったのに
お昼休み連絡を入れても返事はなく先生に話を聞きに行った
先生「あぁ、大峰さんね。体調不良とだけしか聞いてないね。」
私「そうですか……」
そして連絡がないまま次の日も彼女は来なかった
学校の帰りに家に寄ってみた
ピンポーン
チャイムを鳴らしても誰も出ない
しばらく待っていると
近所の人が声をかけてきた
「あら、いつも一緒にいてる子じゃない」
「こんにちは」私は挨拶をして事情を知ってるか聞いてみた
「あぁー、ちょっと前にね救急車が止まっててね。
お父さんがね泣きながら家から出てくるのを見たことがあるよ。その後ね警察も来てて両親が一緒にパトカーに乗ってたわ。」
「……」私は何も言葉が出なかった
呆然としたまま、近くの公園で座ったまま動けなかった
(一体何があったの……)
するとスマホが鳴る
お母さんからだ
「あ、あんた今どこにいるの?!今、彩花ちゃんのお父さんから電話があって彩花ちゃんが入院してるって!」
「!!!!」電話を切るのも忘れて
走って病院に向かった
病院に着くとロビーに彩花のお父さんがいた
「おじさん!」
「来てくれたのか」
「彩花は!?どうゆう事ですか!?」
げっそりと疲れ果てたおじさんが病室前まで案内してくれた
「彩花!」
ベッドに横たわる彩花は頭や腕に包帯が巻かれていて酸素マスクまで付けられている姿に
衝撃を受けた
「な……んで……」
おじさんは私にわかるようゆっくりと話してくれた
「彩花と私はずっと2人で暮らしていたのは知ってるよね。私には再婚を考えている人がいたんだ。
彩花は喜んでくれた、“お父さんが幸せならそれが私の幸せだよ“と、
それから私の再婚相手と3人で暮らすことになった。
でも近所のおばちゃんは仕事帰りの私に
“彩花ちゃんが夕飯の買い出しから帰ってくるのを見て笑顔が暗いからどうしたのって聞いたら泣き始めて詳しく話を聞くと再婚相手の人から嫌がらせを受けていると、また何かあったら頼ってきなって言ったけど、あなた何してんの”って怒られたことがあった。
私の前では2人は普通で仲良くやっているのだと思っていた。
彩花が近所のおばちゃんの家によく遊びに行くようになって
“再婚相手は家に男の人を連れ込んでいた”と話していたらしい。
“また明日くるね“とおばちゃんに言っていたのに時間になっても来ないから心配になって家を見にいくと、
玄関が開いていて、中に入ってみると階段の下で頭から血を流して倒れている彩花を見つけた。
どうしたのって聞くと薄れゆく意識の中で、再婚相手と喧嘩になって彩花を階段から突き落としたらしく、
再婚相手はそのままどこかに行ったと。
すぐに病院に運んでもらったけれど、打ちどころが悪く昏睡状態になった。」
おじさんの話を聞いて、私にも心当たりがあった
時々、見せる彩花の悲しい表情、たまに体のどこかを汚してる時、気づいて彩花に聞いても
「転んだの」「ちょっとドジって」と誤魔化されていた
私もそれ以上聞くこともせず「何してんのよ」と笑っていた
それなのに……ちゃんと、しっかり話を聞いていたり、この手で守れていたら……
夏休みまであと1週間だったのに
楽しいことがたくさん待っているはずだったのに
助けられたはずなのに見過ごした自分が許せなかった
再婚相手も、おじさんも、私も、彩花も全てに苛立った
作戦会議
ー 現在 ー
「それで、これからどうしたらいい?」
私はペンギンに指示を仰ぐ
赤丸が虎柄のパンツの中から嬉しそうに取り出してきた
「僕、お客様用のフロアマップあるよ!」
「げっ」「やだぁ」流石に朱音とみおは嫌な顔をしたし、私もちょっと抵抗はあった
でも背に腹は変えられないと「ありがとう」と思い受け取った
氷の机に広げ、1階のフロアでどこからが安全かを会議した
「君たち二人が出てきたあの扉はココ、
この扉からバーカウンターの中の扉を入ったら階段がある、
それで1階フロアに上がり、受付裏の備品室に着く
赤丸が受付の妖怪の気を逸らしてもらって僕たちがその間に手がかりを探し出す」
作戦はいたってシンプルだった
でもそこら中に妖怪がいて私たちを探している
それだけがネックだった
「誰が行くかってことだよね」
私はみんなに目を向けた
みんなは目を逸らしていた
「俺が行くよ、俺とあいつは長い付き合いだからじっと待ってられない」そう言い出したのは要だった
「じゃあ、彼とあなたで大丈夫だね」そう、みおが話した
私の意見は無視で、自分は行かないんだと色々思うところはあった
「だって、そうでしょ?私たちの中で1番あの妖怪館に詳しいし、頼もしい妖怪たちもいるんだから」
「……そうね」そう答えるしか無かった
「監視の目を避けて、館内を掻い潜ってココまでこれたから大丈夫だよ。
彼女が言ったみたいに僕たちもいるし、必ず守るから安心して。」
私の気持ちを察してかペンギンが励ましてくれた
赤丸もドンっと胸を叩いて、任せて!と笑顔で言ってくれたことで少しだけ心が軽くなった
少し落ち着いた所で要に館内の状況を説明した
「あと、これ。預けとくね。」私は朱音に渡そうとしたが
「これ何?」みおはひょいっと奪い取り、くるくる回しながら見ていた
ペンギンが真剣な顔で
「それはこの世界から出ていくための鍵のようなものだよ。
だから無くさないでね。それがないと帰れなくなるよ。」
朱音がみおから雫玉を取り上げ
「大丈夫、私たちが責任を持って守っておくから」
安堵からかようやく朱音も正常に戻っていた
朱音とみおをその場に残し、ペンギン、赤丸、私、要の4人は1階のフロアを目指した
ペンギンを先頭にまずはさっき通ってきた氷の上を渡る、それだけでも波が高く氷が揺れる
他の妖怪たちの力を借りながら渡り、バーがある裏口の扉を開くとキーっと音を立てた
しかし中が騒がしいのか扉のか、その音がかき消され
そのまま裏の通路を通り、天井の木の扉を少しずつ開いき中の様子を確かめながら
1階の倉庫の中に入ることができた
「思ったより簡単に倉庫の中に入れたな」要が少しチャラけた感じで言った
その言葉にペンギンと私は目を合わせた
「次は僕の番だね!」空気の読めない赤丸が元気に倉庫の外に向かって行った
その後ろに慌てて、ペンギンが向かう
赤丸は1階の受付カウンター内に出れる扉を開き、元気良く「お疲れ様です!」そう言った
驚きを隠せなかったけれど
「お前、何でこんなところにいる。今どれだけ忙しいかわかっているのか?」
なぜか普通に会話が進んでいた
赤丸は近くにあった椅子や棚を登りながら妖怪の目線までいき
「僕も作業振り分けられたんだけど、場所がわからなくて教えてほしくてぇ。MAPとかない?」
カウンターにいた妖怪はめんどくさそうに探してあげていた
ペンギンや赤丸には高いカウンターのせいで何が置いてあるのか見えないのが予想外だった
その間にペンギンが隠し持っていた袋からペンギンの形をしたスマホのようなものを
精一杯背伸びしてカウンターにかざし始めた
どうやらカウンター上の写真を取っているらしい
赤丸は横目でそれを見守っていたけれど全然違うところを撮影してたから
近くにあったパンフレットをペンギンの手に押し当てて必要な写真を撮れるように誘導した
写真がある程度撮れたことを確認したペンギンは赤丸に合図を出してその場を離れた
赤丸も適当に妖怪との会話を切って、倉庫に戻った
「手に入れたよ!」みんなで写真を確認しようとした時
誰かの話し声が聞こえた
急いで近くにあった大きな箱の後ろにみんなで隠れた
「こんな時に何で団扇と布巾が必要なんだよ」
「お前知らないのか、今このフロア以外ガスが撒かれ下級の俺らみたいな妖怪まともの歩けないんだぜ。
だから団扇で仰ぎながら、布巾で鼻を塞いで行くんだよ」
妖怪たちが出ていったあと
安堵したものの初めて聞く情報に私たちの不安は大きくなった
段ボールから妖怪たちが持って行った布巾を手に入れた
「これを見て」ペンギンがさっき撮ったMAPを見せた
“労働図”と書かれ、誰がどこで働いてるかがMAPで載っていた
「なんか駅とかビルのMAPみたいだな」要が言う
「僕たちも初めて見た!ここ!僕たちの名前がある!」
赤丸が指を刺したのは“赤鬼”と書かれている
さっき命懸けで通ってきた赤鬼がたくさんいた場所だった
ざっくりと種別分けされていて“家畜牢”と書かれた場所があった
「これってもしかして……」私は青ざめた
「捕えられたモノが行く場所だね」ペンギンが説明してくれた
「『今日の家畜は風呂場』だって!」赤丸は無邪気にMAPに書かれた文字を読んだ
「と言うことは風呂場で仕事してるってことか、そこに行けばあいつにも会える!」
要は楽観的に話した
幸いにもフロアと同じ階に風呂場がある
しかし、1番妖怪たちが集まるロビーを抜けて宴会場も抜けて
奥ばった場所に大浴場があった
「隠れる場所なんてないんじゃ……」私が小さな声で呟いた
絶望的に思えたその時
ガチャ‥‥
倉庫の扉が開いた
ガシャガシャン!ガシャン!‥バダン!
何かを運び入れる音がしてすぐに出て行った
心臓が止まる思いだった
何を入れたのかを見てみると「ねぇ!」
それはバスタオルやバスローブなどを入れてあるキャスター付きの籠だった
「これを使えばお風呂場まで行けるんじゃ!」私は興奮気味にペンギンに話した
「いいね!この中君たちが隠れて、僕たちが運んであげるんだ!」
赤丸がバスタオルを体に巻き付けて遊びながら、私の言いたいことをみんなに伝えてくれた
決行
私と要はそれぞれの籠に乗り込んだ
ペンギンは私の籠を、赤丸は要の籠を押して倉庫の外に出た
「これから先、いいよって言うまで何があってもじっとして音は出さないでね。
僕たちがうまくやるから」
そうペンギンに言われ頷き、籠の底まで入りタオルを上から被せた
籠はペンギンたちと同じくらいの深さがあって
押すのに前が見えないことに心配はあったけど、ガラガラと何にもぶつかることなく進んでいた
ガヤガヤ……ガチャン……バタン色んな音が聞こえる
「ロビーはすんなりと抜けれたよ。次は宴会場を横切るよ」小さな声でペンギンが状況を説明してくれて
不安や恐怖の中でも少しだけ安心ができた
少し静かになった
刺股を持ったひょろい妖怪が2人
「お前らがなんでコレ運んでんだ?今日は当番が違うだろ?」
(まずい!バレる!)ドキドキしながら息を殺した
「兄様達に頼まれたんだ。これ運べって、やんなっちゃうよ。」
そう赤丸が機転を聞かせて言ってくれた
「あぁー、あいつらなぁ。分かったそのまま運んでくれ。」
(思ったよりすんなり通れた)
あざっすと軽く笑顔で通り過ぎようした
「おい!待て!」別の監視員が呼び止めた
緊張が走る
「落ちたぞ」そう言ってタオルを渡してきた
「あ、ありがとうございます」ペンギンは平常心を装いながら受け取った
不自然にならないように気をつけながらその場を離れ、ようやく脱衣所に着いた
ホッとしたのもつかの間、大浴場からは
「おい、そこ!サボるな!」「お客様のために働け!」「使えねぇヤツは食っちまうぞ!クククッ」
そんな妖怪たちの声が聞こえた
「様子を見てくるからここで待ってて」ペンギンはそう告げて大浴場の方に向かった
扉を少し開けて中の様子を伺った
そこでは人間がデッキブラシを持って洗い場の掃除、窓拭き、備品の補充、浴槽の掃除など色んなことをさせられていた
見張りの妖怪が5,6人ほどいた
人間たちをこき使って面白がっていた
こっそりと要も籠から出てペンギンの後ろから覗いていた
「理人!」その声にペンギンも驚い要の口を抑え、身を屈めさせ急いで私たちの場所まで戻ってきた
「とりあえず良かった」要は言う
「見張り役をどうするかだね。僕たちペンギンがあまりウロウロしてるのは良くなさそうだから、赤丸くんに行ってもらおう」
「どうして?」
「ペンギンは海担当で、それに寒い場所にいるからだよ。ここは釜も近くてとても暑いからね」赤丸が説明してくれた
「それに赤丸くんはねココの大浴場の妖怪よりは階級が上だからね」
「え……そうなの?」えへへっと頭をかきながら照れた顔してる赤丸が可愛かった
「色々と細かく分けられるけど、階層で階級がある程度決められているんだよ」
ペンギンはざっくりと話してくれた
「人間社会と変わんねーな笑」要がケラケラと笑った
赤丸の合図を待ってから、救出に向かうことにした
大浴場の扉を赤丸は勢いよく開けた
ガラガラビシャン!
中にいたみんなが一斉に彼を見た
「やあやあ!」片手をあげて、苦しゅうないっていいそうな雰囲気で堂々と仁王立ち
「おい、赤鬼が何でこんなところにいてんだよ!上階は?」
「はぁ」私とペンギンは頭を抱えた
「あいつおもろいな笑」小声で私に言ってきたピンク髪
洗い場の左側に走り出して高いところに登り
「仮面の妖怪兄さんに頼まれたんだよ、様子を見に行けってね」
ウインクをしてみんなに合図を出した
「右側を見て」理人が浴槽の中をデッキブラシで掃除していた
他の妖怪たちは赤丸に夢中になっていた
「今の内だ」みんなで体を低くして彼の元に走り出した
「おい、おい」
「!!!!お前ら!!」要の声に気付いた
物陰に隠れているピンク髪の男が手招きし、妖怪の目を気にしながら近づいた
「今の内に逃げるぞ」何か言いたげだったけど理人を連れて
物陰に隠れながら扉まで素早く移動した
脱衣所にようやく出れたところで赤鬼に手をあげ合図を出した
赤丸は何かに驚いたような顔をして固まっていた
恐る恐る、後を振り返ると上階で会った猫の面を被った妖怪が浴槽の扉のすぐ側に立っていた
視線を下に落としたが、そこにいるはずのバクがいなくて少し離れたカゴの匂いを嗅いでいた
要にジェスチャーで目が見えないことを伝えて
背を低くしたままゆっくりと、来た時の洗濯籠の中に入った
理人も要と同じカゴに入ろうとしたが流石に成人男性2人は無理があった
するとペンギンが理人のズボンを掴んで
「ねぇ、君はそのままカゴを押して出よう」
「!!!!!」
「君は一度捕まっている。僕たちがうまく誤魔化せばそのまま逃げれるかもしれない」
確かにそうかもしれないと納得して
ペンギンと理人がそれぞれカゴを押して脱衣所を出ることにした
バクはカゴに夢中で猫の仮面は全く動かない今がチャンスだった
いい作戦ではあるけれど私は少し心配があった
「ねぇ赤丸は逃げれるよね?」タオルの隙間からペンギンだけに聞こえる声で聞いた
ペンギンはニコッと笑うだけで何も答えず、タオルを私に被せた
今は信じるしかないってことなのか
入り口の警備の妖怪のところまで順調に進んで来れた
「おい、何で囚人がここにいるんだ!」低い声が響く
「上層の妖怪に使っていいと許可をもらいました」
「一緒にいた赤鬼は?」
「中で上層と話をいています」
「あぁ、あの猫やろうか。わかった、行け」
妖怪たちが勝手に解釈してくれたおかげで何とか難関を通り抜けた
宴会場を横切り、備品室に到着した
「ここまで順調に進んでいるのが逆に怖いくらいだな」汗を拭いながら要は言った
今まで剽軽にしていた彼なりに緊張していたんだろうなと思った
緊張が溶けてなかなか籠から出られなかった私に
「ここから僕たちの持ち場まで行けば、もう帰れるよ。もう少しだから頑張って」
ペンギンは優しく声をかけてくれた
その言葉に励まされ、何とか体を動かした
「ねぇみんな何だか妖怪の数が多くなっているみたいだよ」
その声のする方にみんなが視線を向ける
誰にも気づかれないようにそーっと扉を開けて
可愛いお尻を突き出しながら入ってくる赤丸だった
「赤丸!よかった!」
「大丈夫だよ、僕小さいけど強いから」
腰に手を当ててドヤ顔をしているのも、またまた可愛いかった
「妖怪が増えているとなると、ゆっくりしていられないね」
体制を整えてバーの裏道を妖怪たちに見つからないように静かに素早く出口の扉に向かった
「うじゃうじゃいるなぁ」男2人がハモった
「気を引き締めてね、前からもそうだけど、僕たちがいた場所から妖怪が来ないとも限らないから」
「マジかよ!前だけじゃなくて後もかよ」
男たちとペンギンの会話を聞きながら
恐怖で頭がいっぱいだった私の手をそっと赤丸が黙って握ってくれた
ニコッと笑って、まるで“僕がついてるから大丈夫だよ”と言っているかのようだった
そのおかげで私は少しだけ安心できて、赤丸に頷いた
「まだ見つからないのかよ」「カンカンだぞ」「早く見つけないと俺たちまで」
慌ただしく私たちを探す色んな種類の妖怪たちの声を聞きながら扉の外にようやく出れた
現世
「やっと外に出られた」要が安堵してフェンスにもたれかかった
張り詰めた空気の中にいたせいか、外の空気がほんの少し気持ちよかった
「ここまで来れば一安心、少しだけ休憩しよう」
ペンギンが言ってくれてほっとした
「ぐぉぉぉー!まだ見つからんのか!馬鹿どもめ!こうなったら思い知らせてやるわぁ!」
耳が痛くなるほどの大きな声でボスが叫ぶ
その瞬間
空の雲はより黒く染まり、バリバリと雷が鳴る
海は荒れ、その波に氷の板が流されていく
「まずい!みんな早くかまくらのアジトに!足場が無くなる前に!」
慌てて氷の板を飛び越えながら、かまくらまで走った
途中で海に落ちそうになるもみんなで助け合いながら
ようやく、かまくらまでたどり着けた
「な、何の声だったの!?みんな無事!?」
待っていた2人が駆け寄ってきた
「危なかったね……でもボスがかなりキレてるね」
いつもひょうきんな赤丸も少し怯えていた
「まだ安全とは限らない。ボスがキレた時はいつも大災害になるほど、この館も妖怪たちもボロボロなんだ。だから急いで!」
「その祭壇に雫玉を置いて!」
朱音は紫色に渦巻く雫球を取り出し、かまくらの中にある台座の穴に置く
扉が現れ、その隙間から光が漏れていた
「これでようやく帰れるのね!」
女2人が声を揃えて言った
「おい!ここだけまだ探してなかったな!お前たち探せ!」
妖怪たちの声が聞こえてくる
「さぁ早く扉を開けて、君たちの世界に戻るんだ」
ペンギンの言葉で喜びも束の間に扉を開ける
暗い道が続いていた
みんなが勇気を出して1歩ずつ進んだ
最後尾にいた私は振り返り、最後にペンギン達にお礼を言った
「本当にありがとう。私たちを助けてくれて、どうか無事でいてね」
「これを持って行って」
そう優しくペンギンが扉を開ける時に使った雫球を手渡してくれた
「さっきの扉で力を妖力を使ったから、白く濁ってるけど、きっと“お守り”になるから」
不思議そうな私の顔を見てペンギンと赤丸はニコッと笑って私の背中を押した
「あ、待って最後にペンギンくんの名前を教えて!」
「碧……」ゆっくり扉が閉まった
バダン…………扉の閉まる音が暗闇に響く
うっすらと見える道
まっすぐ一本道をひたすらに進み続ける
その間、誰も何も話もせずに、ただただ歩みを止めず出口があるであろう道を進むだけだった
しばらく歩いていると
見覚えのある押し入れの扉から光が漏れていた
「出口じゃない?」
「私たちが来た場所かな?」
「やっと帰れる!」
そう口々に話す
私もほっとした
と同時に寂しさや心配な気持ちが少し残っていた
「扉開けるよ」
ギャルがゆっくりと扉を開けた
「やった!戻ってきた!あんたの部屋だよ!」
私に向かってはしゃぎながら言ってきた
みんなが私の部屋に出たあと、振り返ると道はなくなっていた
名残惜しいけど、扉をゆっくりと閉めた
「疲れたぁ」
「早く家に帰ろうぜ」
みおと要はそう言って何事も無かったかのように私の部屋から出ていった
朱音は「ありがとう」と小さく言って、みおの後を追う
理人は「……助けてくれてありがとう、一瀬さんが居なければ、あのまま誰も生き残れなかったし、帰って来れなかった。
本当にありがとう。じゃあまた……」
頷くしか出来なかった
私だけの力じゃなかった
碧や赤丸の力があってみんなもそれぞれに頑張ったから生きて帰って来れた
そう言いたかったけど、やっぱり私は私のままだな
玄関の扉を閉め、ガチャンと鍵をかける
その音だけが部屋に響いた
みんなが出て行った部屋は静まり返っていた
「やっと1人になれた……」そう言葉に出ていた
最後に渡された白く濁った水晶玉を眺め、そっと玄関先に置いた
部屋にいてることが不思議で本当に帰ってきたのかを実感したくて窓の外を見た
外では子供たちが楽しそうにおにごっこをしていた
「帰って来れたんだ……」窓際でしばらく外の様子を見ていた
玄関先に置いた水晶球が時折うごめいていることにも気づかないまま
「夕飯の買い物に行こう」
部屋を出て廊下を歩くとさっきまで一緒にいた、みおと朱音とすれ違った
とてもスローモーションのように感じた
でも、もう何事もなかったかのように挨拶も交わさず、互いに素通りだった
これでよかったんだとそう思う自分もいた
部屋に残った雫球は白く濁っている
雫球の中に、一瞬だけ青いペンギンの姿が映り
「つむ……ぎ……」何か声がしていた
妖怪の館も映し出されていた
それに気づくまでにそう長くはかからなかった……
END