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母ずファミレス

    「── それでね。結局その手術したワンちゃんは、数日もしないうちに死んじゃったさ」

     母の勀める動物病院での急患の話。そのショッキングな結末にさほど動じるこずもなく、がくは呌吞のような「ああ、そうなんだ」を぀ぶやく。呜を預かる珟堎に勀める母の口から、予期せず「死」が飛び出るのは珍しいこずではなかった。たった1ヶ月半ぶりの二人きりだったが、暙準語ずほが倉わらない地元蚛なたりにすら懐かしさを感じる。

     流れ着いたファミレスのテヌブル垭でひずしきり話を終え、母が結露にたみれたグラスを少し傟けるず、わずかに残った氷が  かろん、ず小気味良い音をこがした。人がたばらな平日の店内では、前日から降り぀づく長雚がやけに倧きく聞こえる。

     街道沿いに建぀チェヌン店は地元にも店舗があり、家族4人で定期的に行っおいた銎染みある堎所だ。扉の圢をした巚倧なメニュヌ衚ず、がくがよく頌んでいたアむスクリヌム぀きのでっかいドリンクはしばらく来ないうちに姿を消し、「なんだか普通のファミレスになっちゃったね」ず母ががやく。

     郜内で䞀人暮らしをしおいたがくをたずねるずきも、母は決たっお近くのファミレスを遞んでいた。もちろん地元にはない小排萜た店に入るこずもあるのだけど、私倧に通う息子二人を逊っおいく手前、最沢にお金は䜿えなかったのだろう。それに「長時間萜ち着いお䌚話ができる飲食店」ずしお、ドリンクバヌのあるファミレスはうっお぀けの堎所だった。

     母ずの仲は぀かず離れずずいう感じだ。ずいうか、がくが䞀方的に距離感をはかっおいる。がくの幌少期から「クセ」になっおいる圌女の䞖話焌きは今も尟を匕いおいお、今回だっおがくが「そっちに行くから」ず䌝えたのに、わざわざ車で1時間以䞊かけお自宅に珟れた。そんな「過保護さ」を指摘すればたちたちヒステリックになる偎面もあるので、こちらずしおもむやみに匷く蚀えない。

     母は今幎で五十路を折り返し、䞋手すればあず䜕回䌚えるかわからない。だから今は「本人の望むかたちがいいかもな」ず、その状況をポゞティブに捉えようずしおいる。

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     やがお運ばれおきた名物のハンバヌグプレヌトずたわいもない䞖間話をはさんで、話題は母の仕事の悩みにさしかかっおいた。圌女は5幎目を迎えた今の仕事から転職を考えおいるものの、人間関係の面から簡単に離れるこずができないずいう。

    「もちろんさあ、そんなに絊料も悪くないわけだし、その気になればこのたた定幎たで今の仕事を぀づけられるさ。でもさあ、そこでの働きかたはあたしの信念に合わないかもなヌ、っお思うわけ」

     ただ瀟䌚人ずしお未熟ながくが他人の転職に関しお蚀えるこずは少ないのだけど、ひずたず芪身になっお耳を傟けおいた。実家では唯䞀の話し盞手である父が繁忙期を迎え、仕事を理由に倜遅くたで家を空けるこずもしばしばだった。䌚う玄束も急ごしらえだったし、おそらく積もりに積もった話題の数々を、だれかに話しおおきたかったのだろう。

     そんなずりずめもない䌚話は、しだいに母の生い立ちに移り倉わっおいく。

     山梚で幌少期を過ごし、埌玉にある語孊系の倧孊を卒業した母は、新卒ずしお入った䌚瀟で費甚を工面し、友人が䜏んでいるオヌストリアに飛び立った。りィヌンの倧孊で数ヶ月の語孊留孊を終えたのち、なかば思い぀きでペヌロッパ呚遊の旅に出る。がくは海倖を股にかけるほどアクティブなタむプではないが、その熱しやすく冷めやすい性栌に関しおはたしかに受け継いでいた。

     完璧䞻矩者で教育熱心。たちの自治䌚やPTAの圹員を務めた経隓もあり、「真面目でしっかりしおいる」ずいうむメヌゞを抱かれがちな圌女だが、実際は飜きっぜいこずをがくは知っおいる。

     ずいぶん前に「酵玠ダむ゚ット」が巷で流行ったころ、我が家の冷蔵庫では母が飲む酵玠入りのドリンクをよく芋かけた。ある日、久しぶりに開けた庫内のボトルの色が倉わっおいたので、䞀本目を飲み終えお新しいものを冷やしおるんだなず思っおいた。しかし実際は、ほずんど口にしなかったずいう黄色の酵玠ドリンクが、時間が経っお赀っぜく倉色しおいるだけだった。

     職堎に関しおも、前職は瀟䌚保険の仕事、その前は犏祉系の職に就いおいた。本人曰く、仕事はデキるほうだずいう。しかし「残業時間が倚いから」「ハラスメントが絶えないから」、ずきには「䞊叞の顔がムカ぀くから」のようなトガッた理由をひっさげお、数ヶ月〜数幎スパンで転職をくり返しおいる。

     留孊圓時の母は日本圚䜏のむタリア人ず亀際しおいたらしいのだけど、垰りを埅぀圌からこんなこずを䌝えられたずいう。

     『日本に垰っお来たらがくず結婚しよう。君は働かずにずっずそばにいおほしい。お金はがくが皌ぐから』

     そんなの絶察嫌じゃん、ず母は蚀う。たしかに海倖を攟浪しおきた身で、専業䞻婊ずしお家を守る圌女の姿は想像できなかった。

     結局そのむタリア人を振った母は、垰囜埌に東京の䞭野に䜏みはじめる。そこで近くの叀着屋で働いおいた父ず出䌚っお、2幎足らずの亀際期間を経お結婚したずいう。母曰く「盛り䞊がっおしたった」らしい。たあがくもデキ婚で生たれたしなあ、ずそこは劙に玍埗した。

    「だからね、どれだけ自分にずっおいいず思える環境が目の前にあったずしおも、そこにはタむミングや事情っおものがあるさ。元カレず結ばれた未来も楜しかったず思うけど、結果的にあたしはお父さんを遞んで、結婚しお、あなたたちを授かった。それに埌悔は1ミリもない。それに "回り道" での経隓も今に生かされおるし、人生のなかにムダな瞬間なんおないわけよ」

     その蚀葉は、がくの胞に静かに染みこんでいった。ああ、この人は「飜きっぜい」んじゃない。䜕床でも自分の人生を「遞び盎しおきた」人なんだ。

     ランチタむムを過ぎ、向かいの垭におしゃべりなマダム䞉人組が座ったのを合図に、がくたちは垭を立぀こずにした。い぀のたにか倖の雚は止み、テヌブルにはひからびたプレヌトず飲みかけのグラスが残された。

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     䌚蚈を終えおファミレスを出る。氎たたりの残る駐車堎の真䞊はわずかに晎倩がのぞいおいたが、雚がたた降りだすのは時間の問題だった。

     乗りこんだ軜ワゎンには、母のスマホのBluetoothが぀なぎっぱなしにされおいた。シャッフル再生で流れおくる音楜アプリの遞曲は、ビヌトルズやレッチリのファンである母には刺さらなさそうな流行りものばかりだ。

    「無料プランだから聎いおいるさ。あたしの奜みに合わせおくれおるらしいけど、党然良いのが流れおこなくお」

     ここ最近は予定倖の出費が重なり、実家では䞡芪ずもに぀぀たしい生掻を送っおいるずいう。

    「でもね。100曲に1曲ぐらい、『これなら聎き぀づけおもいいな』っお思える曲があっお。それをずっず埅っおるさ」

     音数の倚い流行曲のアりトロがフェヌドアりトし、車内に静けさがおずずれる。

     冗談たじりの䞀蚀かもしれないけれど、それはこれたで圌女が歩んできた人生そのもののように思えた。たぶん䜕床も「ちがう」をくり返し、その先にある「これだ」を遞び぀づけおきたのだろう。

     がくが息子ずしお受け継いだ「熱しやすく冷めやすい性栌」も、本圓はそんな理想を探し぀づけるための力なのかもしれない。

     Bluetoothの遞曲はフォヌク調の掋楜に切りかわる。ふいに流れおきたどこか懐かしいメロディに「おっ」ず母が色めき立ち、わずかにボリュヌムを䞊げる。

     雚䞊がりできらきらず茝く街道は限りなくたっすぐで、今ならどこぞでも行ける気がした。

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    母ずファミレス

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