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ボトルを入れる

    「水割りのセットください」

    カウンターの隣の席の男性客が、そのすぐ後ろにある棚から、「笹川 4/12」と書かれた麦焼酎の瓶を手に取りながら店主にそう告げた。

    男性と二人で来ていた。会社の後輩だろうか。少し年下に見える。

    すぐに運ばれてきた二つのグラスには、あらかじめ氷が入っていた。先輩らしき男性がアイスペールの氷の山から、氷を二個拾ってグラスに追加し、麦焼酎を少しだけ注いだ。

    軽く混ぜたあと、デキャンタの水を注ぎ、麦焼酎の水割りを作った。

    「この店は料理が美味いから、何を食べてもいけるんだよ」

    出来上がった水割りを渡しながら言う。

    「いいですね。僕も家の近くにこういう店があれば通っちゃいますね。ボトルキープとか憧れます」

    もう一人の男性が水割りを受け取りながら言った。

    この店は少し手狭でスペースも限られているので、ボトルキープの期限は三ヶ月。一般的なのか、少し短いのか、自分には分からない。びっしりと棚に並んだボトルの数を見ると、熱心な常連に支えられていることはすぐに分かる。

    最近は、あまりボトルキープをしなくなった。正しく言えば、すぐには入れなくなった。

    初めて行った店には、まだお互いを知らない距離がある。そこに、いきなり自分の名前を書いたボトルを置くことに、ためらいが出る。

    以前は初めての店でも、気に入ればすぐにボトルを入れていた。特に深い理由はなかった。「また来たい」という意味でボトルを入れていた。

    その一方で、自分の存在を残したい。そんな気持ちが少なからずあったかもしれない。ボトルが、その店と自分をつなぐものだった気がしていた。

    自分がボトルを入れるタイミングを考えてしまうようになったのは、いつからだろうか。

    何度か通い、毎回同じハイボールを飲み続けていると、店主が「ボトルの方が、安く飲めますよ」と言った。

    「じゃあ、ぜひ」と言って、ボトルを入れた。

    店主の「安く飲める」という言葉が、「また来てください」と勝手に頭の中で変換された。

    存在を残すためのボトルが、関係性の結果としてのボトルになった。


    小説も書いています


     
     
    小説を書いています。普段の生活の中で感じたことを、静かな文章で表現したいなと思っています。1作目「線」、2作目「一メートルの凪」、今は3作目「アスカ」という作品を書いています。

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