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最後のフィルム

    実家にしばらく使われていないカメラがあった。
    1989年発売のキャノンオートボーイパノラマ。
    中にはまだフィルムが入っていて、27枚撮りだが20枚しかカウントされていない。
    せっかくだから、撮り終えて現像に出そうとしたが、電源が入らない。
    日付表示は今日の日付になっている。電池はまだ残っているようだ。
    もう一度、電源スイッチを押すと、カチッと音だけがしてやはり電源が入らない。
    しょうがないので強引にフィルムを取り出そうとカバーを開けたら巻き戻しが始まったので急いでカバーを閉めた。

    巻き戻しが終了したのを確認して、もう一度カバーを開けた。

    フジフィルムの27枚撮り。
    手に取って懐かしむ。
    おそらく、もうこのカメラは使えないか、処分だ。

    1989年、私は16歳。
    兄はもう家を出る頃だ。
    このカメラは私達家族のもっとも変化する時期を写してきた。

    このカメラの登場を覚えている場面はいくつかある。

    私の卒業式、入学式、久しぶりに撮った家族写真、成人式、新車購入、兄の結婚、先代犬との思い出、私の結婚、初孫誕生…。
    それからは、父と母、二人の生活である。
    この頃から父はガラケーを使いだしたが、カメラ機能を使いこなせていなかった。
    だから、父と母にとって写真はカメラで撮るものだった。

    この最後になるであろうフィルムには、もしかしたら父の姿が写っているかもしれない、となぜか私は思ってしまった。
    それは少し願望も入っていたのかもしれない。
    最後のフィルムを父で終わらせたかったのだろう。

    なぜなら、父は5年前に亡くなっているから。

    カメラ屋さんで現像を頼み、1時間後見に行くと店員さんは言った。
    「途中で開けられてますので、その部分に光が入ってこのようになってます。あと、この黒い所は夜空かと。フィルムにされるのであれば、写っているのが15枚になりますね。どうされますか。」

    私はもちろん
    「お願いします。」
    と答えた。

    翌日、カメラ屋さんでの中身の確認はあまりせず、家に帰ってからゆっくりと見ることにした。

    少しドキドキしながら開封。

    1枚目、私の娘が2歳の頃

    2枚目、私の娘が2歳の頃

    3枚目…ほとんどが私の娘が2歳の頃、だった。

    3枚ほどが風景だか何だかわけのわからない写真だった。

    つまり、どこにも父はいなかった。

    代わりにいた写真の中の娘はそれはそれは可愛く笑っていた。
    あどけなく、キラキラした瞳で笑っていた。

    気付けば私は泣いていた。

    そういえば、こんなにも屈託なく笑う娘をここ数年みていない。

    ここのところ、学校、友達、勉強、塾に疲れ、それなりに悩みもあるようで大変なんだろう。
    そこは少しでも理解しようとこちらも頑張っているつもりだ。
    だけど、そんなことより思いっきり笑わなくなった娘に気づかなかった。
    こんな笑顔があったことも忘れていた。
    成長したこともあるが、顔つきだってすごく変わっている…。

    違う、どうした私。
    そうだ、私は、父を探していたんだ。
    家族をずっと撮り続けてきたカメラの最後は父であって欲しかったんだ。
    なのに何だろう。何かがおかしい。


    おそらく私は、このカメラを自分の都合よく、きれいに終い支度したかったのかもしれない。
    そこに父が写っていたなら。
    だけど、いない。

    写真を見ながら、自分が今いちばん大切にしなければならないものに気づいてしまった。
    亡くなった父ではなく、今、もがきながら生きている大事な娘のとびっきりの笑顔をまた見ることなんじゃないか。

    父も同じはずだ。
    だって、父は娘のことを、それはそれは可愛がってくれたのだから。
    自宅にブランコを手作りするくらい。(笑)


    すでに、家を出たいと言っている娘が本当に家を出るまで、あとどのくらいだろう。
    残された時間は多くない。

    壊れたカメラが最後に残してくれたのは、ノスタルジーでも、センチメンタルでもなく、”現実”だった。

    危うく見過ごすところだったよ。
    いや、腫れ物にでも触るかのように見過ごしてたんだ。それじゃダメってことだよね。


    ありがとう、父とカメラ。


     
     
    OVER50で人生振り返る→ 普通のオバサンだと思っていたら、ネタの宝庫だった。 同世代には共感を、若い方には教訓をお届けできれば幸いです。

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