
上京して短期離職しフリーターになった新卒、転職活動中に嫌な大人に出会う
ハローワーク以外の求人(出版業界)
求人応募の試行錯誤
愛知県から上京して短期離職し、八王子のシェアハウスで暮らすフリーターとなった私は、出版社への転職を目指していた。
ハローワークでは、コロナ禍の影響で5件しか応募できなかった。
そのため、すべて不採用になった時の対策として他の方法での応募も検討していた。
エージェントやアプリの求人を見ていたが、ハローワークと同じく短期離職の新卒に応募できる求人はほとんどない。
50件中1~2件の割合で応募要件を満たした求人は見つかるが、転職活動素人の私から見ても明らかにブラックな求人と判断できたので、応募には至らなかった。
可能性は低いけれども確かな方法
私は個室内のドアの前に止まり、部屋を見渡した。
備え付けのベッド、ごみ箱、机。
机には、気に入った本が背をこちらに向けた状態で積まれている。
積まれた本の一冊を手に取る。私は悔しくて仕方がなかった。
本を買うことも読むこともできるのに、仕事にできない自分。
転職活動で出版業界…出版社…社…!
出版社名を見つめていたら、こんな考えが浮かんだ。
そうだ! 出版社に応募可能かどうか直接確認すれば良いんだ!
私は手持ちの本の背を全て確認し、出版社名をメモ帳に記録する。
そうして出版社のHPから採用情報と連絡先を調べる。
求人を出している会社は1つもなかったが、片っ端からメールを送った。
数日後、とある出版社の人事部からメールが届く。
私への配慮が行き届いた文章の中に「採用活動を控えている」「再開の目途」といった言葉が並ぶ。
私は、面倒な応募者への対応をさせて申し訳ないという気持ちになった。
それと同時に、(この時点では)いつ終息するか分からないパンデミックが終われば応募できるという期待を抱いた。
行動の範囲を広げた先に
もっと広い範囲で応募を考える
求人を探しているうちに、古本(屋・業界)の求人にも応募を始めた。
そのうちの1件から書類選考通過の連絡が届く。
後日、久しぶりにリクルートスーツに着替えた私は、目的地まで呼吸を整えて向かった。
久しぶりの面接
面接の日は今にも雨が降りそうな天気だった。
指定された場所までは遠かったので余裕をもって目的地に到着する。
とあるビルの中にその会社はあった。
会社内に入り要件を告げると、事務所の奥に通された。
部屋の中は段ボールに包まれた荷物が山積みになっている。
その一角で採用担当者と小さい机で向かい合い、面接が始まった。
挨拶の後に質問が来るかと待ち構えていたが、採用担当者は履歴書を見たままじっと固まっている。
そうしてスマホを取り出して操作を始めた。
数秒後「んー」というつぶやきのあとに質問開始。
「なんで最初の会社辞めちゃったの?」
「出版社に転職するために退職をしました」
「新卒の時に応募しなかったの?」
「恥ずかしい話ですが、退職した会社しか内定がありませんでした」
しばらくの無言。スマホの画面を確認しながら採用担当者が口を開く。
「あなたの出身校を検索してみたけど、偏差値40台の私立大学じゃん。そんな経歴じゃ出版社に入れないよ。田舎に帰ったほうがいいんじゃない」
「難しいかもしれませんが、納得いくまで挑戦したいと考えています」
採用担当者はスマホから目を離さずに大きなため息をついて、
「俺さ、根拠のない自信に満ちた前向きな人間って大嫌いなんだわ。一緒に働いてほしくないし。だから不採用ね」
と私に告げる。
私は目の前で言われた言葉に信じられず黙っていると、
「面接はこれで終了するけど何かある?」
とようやくスマホから目を離した採用担当者がたたみかける。
「…本日はお時間いただきありがとうございました」
私は機械的に頭を下げていた。
行き場のない感情
帰り道、立ち去った会社から最寄り駅まで歩いていると、怒りとも悲しみとも言い難いモヤモヤした感情が湧いてきた。
採用担当者が「悪意を持った態度で否定してきた」と感じたのである。
面接中もスマホから目を離さず、学歴や人格を否定して不採用を告げる。
悪意があるとしか思えない…。
人生で初めて接触したタイプの大人だったから、ショックが大きかった。
トボトボ歩いていると、地面に大きな雨粒が落ちてくる。
私は走って最寄り駅に向かった。