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船乗りの土産人形 〜夏の白昼夢〜

    (約700字/読了目安:約2分)


     いつからそこにあったのだろう。


     小さなこけしのようなフォルムで、顔立ちは単純、丸い目と短い鼻が彫られているだけの人形。
     その胴体には、バロックパールが隙間なく貼り付けられている。

     船に乗っていた祖父が、遠洋のどこかの港で求めた土産だと聞いている。


     これまで当たり前のように部屋にあり、その存在に意識を向けたことはなかった。

     ある日、掃除の折にその人形を手に取り、ふと小さな欠けに気づいた。

     びっしりと貼りつけられたパールの一粒が抜け、そこだけが歯の抜けた跡のように空いている。


     それがこの家に来てから落ちたものなのか、それとも初めから欠けていたのかは分からない。

     ただ、その小さな空白は、誰にも気づかれないまま、ずっとそこにあったのだ。




    ──その小さな発見をした、午後の白昼夢





    水の中の籠った音。




    サンゴ礁の隙間をくぐり、
    海流に煽られながら
    ゆっくり沈んでいく。



    水面のゆらめく光が
    だんだん遠くなっていく。




    青い、

    薄明の世界の岩場にたどり着いた。



    そこでは常に、重く、低い音が響いている。

    それほど遠くないところに潜む海竜が、
    喉を鳴らしながら眠っているようだ。





    ここには、
    海流も届かない。

    自分を運んでくれそうな生き物もいない。






    ああ、何も出来ない。

    代わりに、抗うことも、望むこともなく、

    ただ、
    沈みゆく静寂に満ちていこうか。




    どのくらい時間が経ったのだろう、
    気がついたら

    サルパが
    ゆっくり近くを漂っている。




    突然火花のような光が散る。


    真紅の冠をいただいたクラゲが、
    ふんわり衝突したのだろう。




    ペリフィラ・ペリフィラ
    呪文のような名前




    なんだか心地良い


    ペリフィラ・ペリフィラ





    時間を忘れてしまった空間に差す

    淡い光。






    思い出したように


    ペリフィラ・ペリフィラ


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    あとがき

    Periphylla periphylla(ペリフィラ・ペリフィラ)は、架空の呪文ではなく、深海に棲む実在のクラゲの学名です。
    英語では helmet jelly と呼ばれ、兜のような傘と、暗い海に浮かぶ影のような濃い赤色をしています。

    刺激を受けると光を放つ性質があり、作中の「火花のような光」は、その生物発光をもとにしています。

    この散文詩では、学名の響きが呪文のようで、どこか可愛らしかったため、特別な意味を持たせず、マントラのように繰り返しました。

    うだるような暑さに疲れたとき、ただ深海を感じてみよう。
    そんな思いで綴りました。




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    #創作大賞2026 #オールカテゴリ部門

     
     
    YouTubeを中心に物語と音楽を創作し、その物語をnoteに綴っています。 語られなかった記憶を、静かな物語と音に。 作品ごとに異なる世界を描きながら、「記憶」をひとつの軸として紡いでいます。 (猫好きINFJ-T 内向型96%)

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