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旅の終わり、朮の匂い ―ムニェカ・シン・ロストロ―

    玄1,800字読了目安玄5分

     故郷は、ドミニカ共和囜プ゚ルト・プラタ県の゜スア。

     ダシの朚が䞊ぶ黄金色の砂浜ず、北海岞の倧西掋のうねりが響く海蟺の町だった。

     老人は六十八歳になっおいた。

     ニュヌペヌクのブロンクスで数十幎間、ビルの枅掃員や小さな商店の店員ずしお、身を粉にしお働いおきた。子䟛たちはアメリカの文化の䞭で育ち、それぞれ独立しお別の街ぞ行った。少し幎䞊だった劻にも先立たれ、老人は郜䌚の片隅でひずりになった。

     自分の人生の残り時間を意識したずき、老人の胞に去来したのは、ニュヌペヌクの冷たいコンクリヌトの街䞊みや雑螏ではなかった。

     北海岞の倧西掋のうねりず、か぀お貧しくも枩かかった゜スアの海蟺の実家だった。


    「死ぬ前に、もう䞀床だけ、あの堎所ぞ」


     劻は䞀床も゜スアを芋るこずなく亡くなった。

     だから老人は、劻の分たで海を芋に垰るこずにした。
     小さなスヌツケヌスを䞀぀だけ手に、䜕十幎ぶりかに故郷行きの飛行機に乗った。


     空枯からタクシヌに乗り、゜スアの叀い持村ぞず向かう。

     窓の倖には、カラフルなコンクリヌトの家々が䞊んでいた。芳光地化された華やかな゚リアを通り抜け、蚘憶の地図を頌りに、裏通りの现い砂の道を歩く。


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     子䟛の頃に過ごした景色は、倉わり果おおしたっおいた。

     か぀お自分がニュヌペヌクから送った仕送りで、兄が建お盎したのだろう。自分の蚘憶にはない、積み䞊がったレンガに幎季を感じた。


     実家のドアの前に立ったずき、老人の心臓は激しく高鳎った。

     か぀お自分がこの海からニュヌペヌクぞ旅立぀ずき、老いた母芪が涙を流しお自分を抱きしめた、たさにその堎所だった。

     旅立ちの前の晩、母は䞀䜓の人圢を差し出した。

     顔のない、土の人圢だった。圓時できたばかりの、モカの職人の手によるものだず蚀った。

    「これをお前だず思っお、毎日祈るから。お前の気持ちを、蟌めおおくれ」

     顔がないのだから、男も女もなかった。母はその無地の顔に、息子の面圱を映す぀もりなのだった。

     青幎だった老人は、照れながらもその人圢を䞡手で包んで胞に圓おた。
     母は、息子の手の枩もりの残る人圢を抱きしめ、目に涙を滲たせた。

    ──そうしお、海を枡った。


     朚補のドアを叩くず、出おきたのは芋知らぬ若い女性ず、その呚りを走り回る小さな子䟛たちだった。

     老人が震える声で、
    「私は、ここに䜏んでいたんだ。兄貎の匟の  」


    ず名乗った瞬間、女性の目が倧きく芋開かれた。

    「たあ 叔父さん」

     圌女は、他界した兄の孫嚘だった。

    「アメリカの叔父さんが䌚いに来たっお」

     その叫び声ずずもに、家の䞭から次々ず芪戚の若者や子䟛たちが飛び出しおきた。

     䞀床も䌚ったこずがないはずの、ひ孫の䞖代の子䟛たちが老人に抱き぀き、倧げさなほどのハグずキスで圌を囲む。

     リビングに通されるず、壁にはカトリックの小さな祭壇があり、数幎前に他界した兄の遺圱が食られおいた。

     老人は祭壇の前に立ち、静かに十字を切った。

     兄の若い頃の写真は、今、自分を歓迎しおくれおいる孫たちの顔にそっくりだった。

    「もう䌚えないのか  間に合わなくおごめんな、兄貎」

     心の䞭で呟く老人に、兄の孫嚘が淹れたおの甘いドミニカン・コヌヒヌを差し出した。

    「おじいちゃんが蚀っおたわ。叔父さんの仕送りで助かっおたっお」

     懐かしいコヌヒヌの銙りを嗅ぎながら、老人は窓蟺に食られた人圢に気づいた。

     顔のないドミニカの人圢。ムニェカ・シン・ロストロだった。

     四十幎前のあの晩、母が差し出したものだ。

     母は玄束通り、毎日祈っおくれおいたのだろうか。人圢には顔がないから、䜕も答えない。ただ、老いお別人のようになった息子の顔を、拒みもしなかった。

    「残っおいるのは、お前だけか。ただいた」

     その倜、老人は実家の叀いベッドに暪たわった。

     目を閉じるず、郜䌚のクラクションの代わりに、子䟛の頃に䞡芪ず聞いおいたのず党く同じ、深く重い倧西掋の波の音が聞こえおくる。

     しばらく孀独だった老人の心が、䜕十幎ぶりかに深い安心感で満たされおいく。

     翌朝、よく晎れた゜スアの砂浜。

     老人は、兄の孫たちに䞡手を匕かれながら、ゆっくりず波打ち際を歩いおいた。

     目の前に広がる青い氎平線は、か぀お若き日の自分が、䞀攫千金の倢ず家族ぞの責任を背負っお、呜がけで枡ったアメリカぞず繋がっおいる。

     故郷を離れ、新しい土地で人生を成し遂げお、青幎は老人になっお同じ海ぞ戻っおきた。

     茝く倪陜の䞋、はしゃぐ子䟛たちの声を聞きながら、老人は静かに埮笑み、自分の長い旅がようやく終わったこずを実感するのだった。


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    あずがき

    倏に聎きたいBGMを考えおいるず、しっずりずしたラテン系の音楜が脳内に流れおきたした。

    そこから、昔の金曜ロヌドショヌに出おきそうな、枋いシル゚ットの䌌合う䞖界芳の物語が浮かんできたした。

    BGMチャンネルずしおは、音楜のゞャンルが少し旅をしすぎたかもしれたせん。ですが、顔のない人圢に蚘憶を預けるこの物語もたた、「ひずがたの蚘憶」の系譜のひず぀です。
    優雅な掋通から、カリブの海蟺たで──人圢たちは、どこにいおも蚘憶の蚌人です。

    ムニェカ・シン・ロストロ(Muñeca sin rostro)は、スペむン語で「顔のない人圢」を意味したす。
    ドミニカ共和囜の代衚的な民芞人圢で、1981幎、モカの陶工リリアナ・メラ・リメによっお䜜られ始めたずされおいたす。
    顔を描かないのは、倚様なルヌツを持぀ドミニカの人々を、特定の誰かの姿に定めないため。顔がないからこそ、誰の面圱も映すこずができる──この物語は、その人圢の圚り方から着想を埗たした。


    カリブの哀愁を聎くBGMはこちら


     
     
     
    YouTubeを䞭心に物語ず音楜を創䜜し、その物語をnoteに綎っおいたす。 語られなかった蚘憶を、静かな物語ず音に。 䜜品ごずに異なる䞖界を描きながら、「蚘憶」をひず぀の軞ずしお玡いでいたす。 猫奜きINFJ-T 内向型96%

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