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『その日、私は“現実転生”を始めた』―航海四部作 第一章

    このままでいいのかなあと思ったことはありますか?
    これは現役船乗りの私が書いた作品です。


    「あの頃の自分と、今の自分。」 

    人生の途中でふと立ち止まった人に、ほんの少しでも灯りが届いていたなら嬉しいです。



    異世界じゃなくても、人生はやり直せる


    「このままでいいのかな」と何度も思った夜があった。
    ふと、異世界転生モノのアニメにハマったのも、「今と違う場所に行きたい」と願っていたからかもしれない。

    でも現実には、魔法もスキルもチートもない。だからこそ、自分で選ぶしかない“もうひとつの人生”があるんだと思う。


    これは、あるイベントで出会った彼女が話してくれた物語。
    「このままでいいのかな」と、何度も夜に問いかけていた彼女が、
    船に乗る私と出会って、少しずつ変わっていったという―そんな物語。
     

    「異世界転生って、ずるくない?」
    高校生の頃、アニメのキャラがチート能力で人生を巻き返していくたび、そう思ってた。

    現実は、ただの月曜から金曜。
    朝起きて、電車に揺られて、気づいたら1週間が終わってる。
    「このままでいいのかな」なんて口にしたら、周りからは「贅沢な悩み」と言われた。

    でも私は―
    ずっと、どこかで違う生き方を探してた。

    そんな時に出会ったのが、船に乗る男だった。

    元漁師、今は商船の機関士。
    人生をまるごと“乗り換えて”きたような彼の話は、まるでフィクションみたいで。

    彼と出会ったのは、ふと立ち寄ったイベントだった。
    「普通の仕事に、ちょっと疲れた人へ」と書かれた告知に、なぜか惹かれて。
    ―疲れてるつもりなんてなかったのに。


    でも、会ってみて気づいた。
    私は「自分の気持ちに鈍感になってただけ」だったんだ。

    彼は、言葉を選びながら、こちらのペースに合わせて話してくれた。
    押しつけがましくもなく、距離を詰めすぎるでもなく。
    ただ、人生に起こったことを、まるで旅の途中みたいに語るその姿に、
    「人生って、やり直せるんだ」と初めて思えた。

    船の上では、お金もほとんど使わない。
    だから、休暇の時には人と会ったり、自分の活動に投資するのだと、彼は言った。

    「休んでるときに、ちゃんと人生を味わいたいんですよ」と笑って。

    “陸にいる時間を大切にしてる人”なんて、初めて見たかもしれない。
    私が今まで出会ってきた人たちは、みんな「いつも頑張ってる」ことに必死だったから。

    「異世界転生」は、どこかにあるんじゃなくて、自分の中にあるのかもしれない


    私は今、少しずつ「自分の人生を選び直す」準備をしている。

    “現実転生”とは、
    他人の物語に憧れるのをやめて、
    自分の物語に名前をつけることかもしれない。

    まだ、なにかを大きく変えたわけじゃない。

    でも、日常の選択肢がほんの少しずつ変わってきたのは、
    あの日、“自分の航海図”を思い出すような時間を過ごしたから。

    異世界転生は、空から落ちてくるものじゃない。
    目の前の景色はそのままで、気づいたら“別の自分”が動き出している。

    そういう魔法が、現実にもあるんだって。


    【あとがき】



    ※この文章は、以前、イベントで出会った女性のお話をもとに構成しています。

    このエッセイは、イベントで出会った女性の話と、自分自身の感情を重ねながら書きました。 「このままでいいのかな」と思った夜の記憶がある方へ。

    “自分を選び直す”勇気が、あなたの中にもきっとあると信じています。











     




     
     
     
    文藝春秋SDGsエッセイ大賞2025グランプリ/『文藝春秋』本誌掲載。 サンクチュアリ出版「第3期 正直レビュアー」選出。 市場調査、漁師、船乗りを経て、人生の分岐点を書くエッセイスト。 10月、武蔵大学社会学部ゲスト登壇。メディア取材対応実績あり。

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