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「キーボード」では届かない言葉が、ペンにはある|余白が語る、もうひとつの真実 #8

一年ほど前に書いて、そのまま眠っていた文章がある。



なぜ今なのかは、よく分からない。



ただ、久しぶりに読み返してみると、
書いた頃よりも今のほうが、
この文章の続きを少しだけ知っているような気がした。



だから、もう一度書いてみる。



今回のテーマは、余白について。


✎______________


美術館で一枚の絵を見るとき、
あなたはどこに目を惹かれるだろう。



描かれた人物。
色。
光。
筆の跡。



けれど、ときどき私は、
何も描かれていない場所が気になる。



人物と人物のあいだ。

絵と額縁のあいだ。

そして、作品と作品のあいだに残された、
白い壁。



何もないはずなのに、
不思議とそこにも何かがある。


Même s'il ne devrait rien y avoir,
aussi étrange que cela puisse paraître,
il y a quelque chose.


言葉も、同じなのかもしれない。


✎______________


行間を読む


小説を読んでいると、
書かれている言葉より、
書かれていないところが気になることがある。



登場人物の沈黙。

何気ない風景描写。

会話と会話のあいだに生まれる、一瞬の間。



そこに書かれているのは、
文字ではない。



けれど、その沈黙からしか
受け取れないものがある。



日常も似ている。

誰かと話していて、
ふと会話が途切れる。



すぐに何かを言おうとせず、
ただその時間にいる。



そんな瞬間に、
さっきまで気づかなかったものが
見えることがある。



言葉とは、
書かれているものだけではないのだと思う。


✎______________




ペンを持つと、速度が変わる



普段、文章を書くときは
ほとんどキーボードを使っている。



速いし、便利だ。



文字の大きさも、
改行も、
レイアウトも、
あとからいくらでも整えられる。



けれど、ときどきペンを持つ。

すると、不思議なくらい速度が落ちる。



一文字書く。

少し考える。

また書く。



間違えれば、跡が残る。



文字が大きくなったり、
行が曲がったりする。



そして紙の端には、
何も書かれていない場所が残る。



その空白まで含めて、
ひとつの文章なのだと思う。



キーボードでは、思考に追いつこうとする。



ペンでは、
思考がこちらへ追いついてくるのを待つ。



そんな違いなのかもしれない。


✎______________


手紙の余白


大切な人から届いた手紙を
思い浮かべてみる。



紙いっぱいに言葉が並んでいる手紙。



ところどころに、
大きな空白が残されている手紙。



どちらがいい、ということではない。



けれど、その空白に、

「ここで少し立ち止まってほしい」

という書き手の気持ちを
感じることがある。



書かないことで、伝わる。


Cela passe sans être écrit.


言葉を置かないことで、
ひとつの言葉が深くなる。



余白とは、
何もない場所ではないのかもしれない。


✎______________


人生というキャンバスの余白



人生にもまた、
文字になっている時間と、
文字になっていない時間がある。



何かを達成した日。

誰かと出会った日。

大きく環境が変わった日。



そうした出来事は、
人生の中で分かりやすく残る。

けれど、そのあいだにある時間はどうだろう。



歩いていた時間。

ぼんやり窓の外を見ていた時間。

何も決めず、
何も生み出さなかった時間。



振り返ってみると、
そういう場所で考えていたことが、
ずっとあとになって
自分を動かしていることがある。



人生というキャンバスは、
描かれた部分だけでできているわけではない。



何も描かれていないところも含めて、
ひとつの風景なのだと思う。



だから、ときどき。

言葉を足すのではなく、
少し残してみる。

答えを急がず、
空白のまま置いてみる。


Ne vous précipitez pas pour trouver une réponse ;
essayez de laisser le champ vide pendant quelque temps.


その余白が、
いつか自分でも気づかなかった
もうひとつの真実を、

そっと語り始めるかもしれない。




この文章は、一年ほど前に書いたドラフトをもとに、
今の自分でもう一度整えたものです。

読み返していて、もうひとつ気づいたことがありました。

以前の記事では、ペンや紙に加えて、
人物を置いた画像を選ぶことがよくありました。

けれど今回は、
ペンと紙だけでいいような気がしています。

何かを足して伝えるより、
少し残しておく。

文章だけではなく、
画像の選び方にも、そんな変化が表れているのかもしれません。

過去の記事を眺めていると、
書いてきた言葉だけではなく、
添えてきた画像にも、その時々の自分が残っていました。

この変化については、
また別のところで、少し振り返ってみようと思います。

あとがき|余白は、画像に│clutch0105




📚 余白の本棚


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