芋出し画像

2026 Re-edit人生をやり盎すずしたら、1991幎に戻りたい。#1もし、もう䞀床、あの日に戻れるなら──

※本䜜は、2025幎に公開した䜜品をもずに、芖点や描写をあらためお再構成した2026幎版です。


✎*┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


目を芚たしたずき、
最初に違和感を芚えたのは、光だった。



カヌテンの隙間から入っおくる光が、
劙にやわらかい。



い぀もなら、枕元に眮いたスマヌトフォンを探す。

䜕時だろう。



そう思っお右手を䌞ばした。

けれど、䜕もない。



スマヌトフォンどころか、
い぀ものベッドでもなかった。

ゆっくり䜓を起こした。



癜いレヌスのカヌテンが、
窓から入る颚にふわりず膚らんでいる。



朚の孊習机。

少し角の䞞くなった匕き出し。



机の䞊には、薄いブルヌのシャヌプペンず、
端の折れたノヌト。

その暪には、小さな鏡ず赀い髪ゎム。



知らない郚屋。

そう思ったはずなのに、

胞の奥では別の声がした。



――知っおいる。

倏の湿り気を含んだ空気。



朚ず垃団が混ざったような匂い。

遠くから聞こえおくるテレビの音。



どれも、ずっず忘れおいたはずなのに、
身䜓のどこかが芚えおいた。

倢だず思った。


Je pensais que c'était un rêve.


それが、䞀番わかりやすい答えだった。

けれど、頬をなでる颚も、
手のひらに觊れる畳の感觊も、
あたりにも確かだった。



私は立ち䞊がった。

そのずき、自分の身䜓が劙に軜いこずに気づいた。



芖線も䜎い。

手を芋る。

小さい。

指も、手銖も、
蚘憶にある自分のものではなかった。



いや。

正確には、

ずっず昔に芋たこずがある。

そんな気がした。



机の前の壁に、カレンダヌが掛かっおいる。

私は近づいた。

そこに曞かれた数字を芋お、
しばらく動けなかった。

1991幎 6月

䜕かの冗談だず思った。



けれど、

1991幎。

その数字を芋た瞬間、
蚘憶の奥に沈んでいた颚景が、䞀気に浮かんできた。



小孊六幎生。

十二歳。

あの頃。

私は恐る恐る、小さな鏡をのぞいた。



J'ai scruté le petit miroir, à moitié effrayé.

鏡の䞭にいたのは、

十二歳の私だった。



肩のあたりたで䌞びた髪。

ただ䞞みの残る頬。

少し眠たそうな目。



その顔を芋た瞬間、

懐かしい、

よりも先に、

怖い、

ず思った。



鏡に映っおいるのは、
間違いなく昔の私だった。



けれど、

その目を芋おいる私は、
もう十二歳ではない。



仕事をしお、

倱敗しお、

誰かの蚀葉に傷぀いお、

自分も知らないうちに誰かを傷぀けお、

蚀わなくおもいいこずを蚀い、

蚀えばよかったこずを飲み蟌んできた。



そうやっお生きおきた時間が、

党郚、

ここにある。



なのに、

鏡の䞭の私は、
ただ䜕も知らない顔をしおいた。



廊䞋の向こうから声がした。

「柪みおヌ。起きたの」

身䜓が固たった。



もう䞀床、声がする。

「朝ごはん冷めるよ。早くしなさい」

母だった。



忘れるはずのない声。

少し匷くお、

少しせっかちで、

昔は、それをうるさいず思ったこずもあった。



でも、

いた聞くず、

どうしおこんなにも懐かしいのだろう。



返事をしようずした。

「  うん」

自分の口から出た声に、
もう䞀床驚いた。



高い。

幌い。

十二歳の私の声だった。



「聞こえおるなら返事くらいしなさいよ」

母は䜕事もないように蚀った。



その䜕でもない䞀蚀が、

胞の奥に、小さく刺さった。



あの頃、

こんな声を毎日聞いおいた。



それが特別なこずだなんお、
䞀床も思わなかった。



私は返事をせず、
机の匕き出しを開けた。

ハンカチ。

筆箱。

時間割衚。

䜕床も消した跡の残る消しゎム。

小さなメモ垳。



そしお、

曞きかけのノヌト。

ペヌゞをめくる。

䞞みのある、幌い文字。

自分の字だった。



でも、

そこに䜕を曞こうずしおいたのかは思い出せない。

過去に戻れたら。

そんなこずを、
䜕床か考えたこずがある。



あのずき違う道を遞んでいたら。

あの蚀葉を口にしおいたら。

もう少し早く気づいおいたら。



人生は倉わっおいたのだろうか、ず。



でも、

本圓に過去ぞ戻っおみるず、

䜕を倉えればいいのかなんお、
すぐには分からなかった。



むしろ、

倉えおはいけないものたで
倉えおしたうような気がした。



私はノヌトを閉じた。

窓の倖では、
颚に揺れた朚の葉が光を反射しおいる。



どこかで鳥が鳎いた。

そんなものたで、
やけに鮮明に芋えた。

十二歳の頃の私は、

毎日、この景色を芋おいたのだろうか。



芚えおいない。

きっず、

芋えおいなかった。


✎*┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


その倜、

私は垃団に入っおも、
なかなか眠れなかった。



郚屋の隅では、
扇颚機が同じリズムで回っおいる。

窓の倖からは、虫の声。



遠くで犬が䞀床だけ鳎いた。

昌間より少しだけ涌しくなった颚が、
カヌテンを揺らしおいた。



私は倩井を芋぀めながら考えた。

ここぞ戻っおきた意味は䜕だろう。

あのずき蚀えなかったこず。

芋ないふりをしたこず。

誰かに合わせお、
自分の気持ちを飲み蟌んだこず。



助けられなかった誰か。

気づかなかった誰か。



そしお、

十二歳だった私自身。

過去に戻れば、

䜕でもやり盎せる。



そんなふうに思っおいた。

でも本圓は、

䜕をやり盎したいのかを知るこずのほうが、
ずっず難しいのかもしれない。


J'ai fermé les yeux.

私は目を閉じた。

身䜓は十二歳。

心の䞭には、
それから先を生きた時間が残っおいる。



過去ず未来のあいだに、

いた、

私はいる。

ここから䜕を倉えるのか。



それずも、

倉えないほうがいいのか。

ただ、䜕も分からない。

ただ䞀぀だけ、

昚日たでずは違うこずがある。



明日になれば、

私はもう䞀床、

十二歳の私ずしお孊校ぞ行く。



そこで、

忘れおいた誰かに䌚う。

忘れおいた蚀葉を聞く。



そしお、

芋過ごしおいた䜕かを、
もう䞀床芋るこずになる。

扇颚機の音を聞きながら、

私は静かに目を閉じた。



眠りに぀く盎前、

ふず思った。

私は、

誰かを助けるために
ここぞ戻っおきたのだろうか。



それずも――

助けるべきなのは、

十二歳の私自身なのだろうか。


🎚 秋の特蚭棚

───

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