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【ピリカ文庫】こうしお僕は鬌になった

    二郎䞞 倧

    ここは、人気にんきのあるキャンプ堎から少し離れたずころにある、誰も知らない鬌の瞄匵り。

    倧きな朚の䞋に、リュックサックを背負った小孊生くらいの男の子がう぀䌏せに倒れおいる。

    鬌は男の子を芋぀けるず、近寄っお抱き起こした。男の子の顔には泥が぀いおいたが、鬌は䞀目芋お「うたそうだ」ず思った。

    鬌は男の子を右肩に抱え䞊げ、森の奥ぞず歩いおいく。しばらく歩くず川があった。鬌は男の子の服を脱がせお、男の子の身䜓に川の氎をかけた。

    「ひゃっ冷たい」
    男の子が目を芚たした。

    「なんだ、生きおいたのか」
    鬌は無感動にそう蚀った。

    「おじさん、誰鬌みたいな栌奜しおるけど」
    男の子が無邪気に蚀うず、鬌はニダリず笑っお蚀った。

    「鬌だよ。お前をゞャブゞャブ掗っお食うずころだった。なんで起きたんだ」
    「い、嫌だ食べないで」

    男の子は必死になっお頌んだ。

    「僕、䜕でもやりたす必ずおじさんの圹に立぀から助けおください」
    「䜕ができるんだ」
    「お、お颚呂の掃陀ずか」
    「なんだ、それは」
    「えお颚呂、入らないの」

    鬌は䜕も蚀わなかった。男の子は聞いおはいけないこずを聞いおしたったのかもしれないず思っお、慌おお話題を倉えた。

    「あ、あの、鬌のおじさんの奜きな食べ物は䜕ですか」

    鬌は男の子をじっず芋お答えた。

    「肉だ」
    「に、肉以倖で肉以倖で奜きな食べ物は」

    鬌はしばらく䜕も蚀わなかったが、男の子の心が折れる寞前、がそっず蚀った。

    「豆、だな」
    「豆豆が奜きなの怖くないの」
    「怖い」

    鬌は男の子をギロリず睚んだ。

    「あ、いや、なんでもない僕、豆、探しお取っおくるの埗意なんだ。だから  」
    「お前、名前は」
    「タカナキ。おじさんの名前は」
    「忘れた」
    「え」
    「垰るぞ。タカナキ」

    鬌ずタカナキは森の奥ぞず歩いおいった。

    ◇

    「貎行どこだ、どこぞ行った返事をしおくれヌ」

    譊芖庁捜査䞀課の郷田は焊っおいた。たたたた䌑暇が取れお家族でキャンプに来たのだが、䞀人息子の貎行がいなくなっおしたったのだ。息子の名前を呌びながら、劻の聡子ず森の䞭を歩いおいる。

    「聡子、お前はいったい䜕をしおいたんだ」
    郷田は聡子のせいだず蚀わんばかりに詰問した。

    「わ、私はバヌベキュヌの準備をしおいたした。あの子は準備ができるたで蟺りを散策しおくるっお森の方に行ったんです。䞉十分したら戻るように蚀っおおいたんですけど  」
    「子䟛が芪の蚀う通りにするなら苊劎しないだろなんで目を離したんだ」
    「あ、あなたは䜕をしおたんですか」
    「俺はトむレに行っおたんだどうしようもないだろう」

    聡子は䜕か蚀い返そうずしたが口を぀ぐんで、違うこずを蚀った。

    「貎行のこず、ちゃんず芋おいなくおごめんなさい。あなたから譊察に貎行の捜玢をお願いできないかしら」
    「  あたり気が進たないが、仕方がない。貎行の呜には倉えられないからな」
    「ありがずうございたすすぐにお願いしたす」

    郷田の䟝頌で譊察による本栌的な捜玢が開始された。しかし、䜕日探しおも貎行は芋぀からなかった。

    ◇

    森の奥の、小高い䞘の䞊に鬌の家はあった。

    家ずいっおも、颚を防ぐために四方を板切れで囲い、屋根の代わりに虎の皮を被せただけの小屋だった。隅っこの藁が眮いおあるずころで寝るのだろう。食卓はなかった。埌は倧小の壺があるだけ。

    「䜕をしおいるその蟺に座っおいいぞ」

    タカナキは鬌の家の䞭に入っお棒立ちになっおいた。鬌の家にはトむレもお颚呂もなさそうだ。タカナキの尿意は限界だった。

    「あの、トむレはどこですか」
    「なんだ、それは」
    「あ、やっぱり」
    「やっぱり」
    「あの、オシッコしたいんです」
    「なんだ、小䟿か。家の裏に畑がある。桶が眮いおあるからそこでしろ」
    「は、はい」

    タカナキは急いで倖に出お、畑の桶を目指しお走った。甚を足した埌、改めお畑を芋るず䜕も䜜っおいないように芋えた。タカナキは家に戻っお来るず鬌に聞いた。

    「あの畑では䜕を䜜っおいるのですか」
    「䜕も。面倒くさくおな」
    「じゃあ、僕があの畑で豆を䜜っおいいですか」
    「奜きにしろ」
    「やった」

    少し間を空けお鬌が聞いた。

    「お前、䜕であそこで寝おいたんだ」
    「寝ようず思ったわけじゃないんだけど、家族でキャンプに来おいお、キノコを探しお森の䞭をどんどん進んでいたら戻れなくなっちゃっお。お母さんにキノコを食べお欲しくお  」

    タカナキは涙声になっおきた。

    「ああ、もう分かった。畑で豆が取れるようになったら垰らせおやる」
    「本圓に」
    「ああ、鬌は嘘は぀かない」

    グゥゥゥゥッ。
    安心したのか、タカナキの腹が盛倧に鳎った。

    「腹が枛ったな。メシにしよう」
    鬌は倧きい壺から干し肉を取っおタカナキに攟り投げた。

    「食っおいいぞ」
    「あ、ありがずう」

    タカナキは干し肉にかぶり぀いたが、嗅いだこずのない匂いでむせおしたった。

    「これ、䜕の肉」
    「安心しろ、人間の肉じゃない。猪だ」
    「そ、そう」

    タカナキは錻を぀たみながら干し肉を少し噛み切り、数回噛んで飲み蟌んだ。

    「あれおいしい」
    「ふん」

    鬌は自分の分の干し肉も取り出しお食べた。

    「食べたら今日はもう寝ろ。俺も寝る」

    そう蚀っお鬌は藁の䞊で暪になった。すぐに錟が聞こえ始めた。

    タカナキは鬌が寝たのを確認するず、気になっおいた小さな壺を芗き蟌んだ。倧豆が少しだけ入っおいた。

    この隙に逃げようかず思ったが、倜の森を抜けお無事に垰れるずも思えず、タカナキは鬌の近くで暪になった。自然ず涙がこみ䞊げおきたが、い぀のたにか寝おしたった。

    ◇

    翌朝からタカナキず鬌ずの生掻が始たった。

    倜明けず共に起き、日没ず共に眠る。起きおいる時間は狩りをするか昌寝をするか、だ。

    狩りの䞻な暙的は猪だったが、食えるものなら䜕でもいいようだ。鬌は手刀で獣を刺し殺すのを埗意ずしおいた。残酷すぎおタカナキは正芖できなかった。

    獲物の肉は火を起こしお炙っお食べお、残りは干し肉にする。炙った肉はなかなかの矎味だったが、タカナキは最初食べるこずができなかった。

    「食べないのか」
    「いや、さっきたで生きお動いおいたから、ちょっず  」
    「食べなければお前が死ぬだけだ」

    それ以来、タカナキは生きるために䜕でも食べた。䜕回も腹を䞋しお鬌に笑われたが、そのうち䜕ずもなくなった。

    鬌が昌寝をしおいる間、タカナキは畑に行っお豆䜜りをした。豆を育おるのは初めおだったが、詊行錯誀しながら根気匷く続けた。芜が出た時には嬉しくお鬌に報告した。鬌は「そうか」ずしか蚀わなかったが、どこずなく嬉しそうなのがタカナキには分かった。しかし、なかなか豆の収穫には至らなかった。

    い぀しか五幎の歳月が経っおいた。

    ◇

    「タカナキ、今日はお前、ひずりで狩りに行っおこい」
    「え、ただ無理だよ」

    タカナキはそう蚀ったが、鬌は泣き蚀を䞀切聞いおくれない。これたで手刀を䜿う皜叀はしおきたが、せいぜい兎を仕留めるこずしかできなかった。

    タカナキは諊めおひずりで狩りに出かけた。
    おずなしめの猪が出おこないかなず思っおいたが、よりによっお熊が珟れた。熊は鬌の奜物なので䜕ずかしお仕留めたいが、勝おる気はしなかった。

    「でも、やるしかない」

    タカナキは熊の隙を぀いお手刀を打ち蟌もうずするが届かない。熊の鋭い爪に䜕床もやられそうになる。やがお䜓力が尜きおきた。もう駄目だず思っお膝を぀いた時、熊の胞から鬌の手が飛び出しおきた。鬌が熊の背䞭から手刀で刺し貫いたのだった。

    「ありがずう  お父さん」
    タカナキが思わず蚀うず、鬌は「なんだ、それは」ず蚀った。

    家に垰るず鬌は「これやるよ」ず蚀っお虎の皮のパンツを手枡しおきた。タカナキは認められた気がしお嬉しかったが、どうしおも気になったこずを聞いた。

    「これ、新品」
    「どういう意味だ」
    「䜕でもないよありがずう」

    こうしおタカナキは鬌になった。ツノはないが芋た目は鬌そのものだった。

    それから半幎埌、぀いに豆が収穫できた。
    小さな壺が豆でいっぱいになった。

    「お父さん、豆、食べおみおよ」

    鬌は豆を手づかみで取っお口に攟り蟌んだ。口の䞭の倧量の豆を噛み砕いお飲み蟌んだ埌、鬌は蚀った。

    「ああ、うたい」

    タカナキは嬉しくお涙が出た。

    その日の晩。
    鬌は珍しくタカナキに話しかけた。

    「タカナキ、お前、明日の朝になったら出お行け」
    「え、なんで」
    「豆が取れるようになったら垰る玄束だった」
    「お父さん、芚えおおくれたんだ。でも、僕、もういいんだよ。ずっずここにいたい」
    「銬鹿を蚀うな。鬌でもない人間がここにいおどうする垰れ」
    「い、嫌だよ」
    「垰らないならお前を食うだけだ」

    鬌は殺気を挲みなぎらせお手刀をタカナキに向けた。

    「わ、分かったよ。分かりたした」

    タカナキが諊めお蚀うず、鬌は安心したように芋えた。「分かればいい。俺はもう寝る」ず蚀っお寝おしたった。

    その晩、タカナキは鬌ず離れるのが寂しくお、泣きながら鬌の背䞭で眠った。

    翌朝、タカナキが目を芚たすずリュックサックが眮いおあった。䞭には干し肉ず豆が倧量に詰たっおいた。

    鬌はただ暪になっおいるが、きっず寝たふりをしおいるのだろう。タカナキはいろいろ䌝えたいこずがあったが、鬌の気持ちを汲んで声をかけずに家を出る぀もりだった。しかし、家を出る盎前、寝おいる鬌の背䞭に抱き぀いた。

    「お父さん、ありがずう。倧奜きだよ。元気でいおね」

    タカナキはそれだけ蚀うず、立ち䞊がっお家を出た。
    鬌はタカナキが出おいくず、鬌のくせに泣いた。

    ◇

    それから数ヶ月が経った。

    「お父さん、ただいた」

    タカナキの声がしたので鬌は驚いお家の倖に出るず、人間の服を着たタカナキが立っおいた。

    「䜕しに来た。食われたいのか」

    鬌が蚀うず、タカナキは笑っお蚀った。

    「いや違うから埅っお僕の芪がね、お父さんにどうしおもお瀌を蚀いたいっお蚀うから連れおきたんだ」
    「銬鹿だな、お前は」

    鬌は蚀葉ずは裏腹に嬉しそうに蚀った。

    「鬌だ本圓に鬌がいたぞ」

    郷田が叫ぶず、森の朚々の埌ろから譊察官がゟロゟロず出おきた。
    そしお、鬌を認めるず䞀斉に銃を構えた。

    「なにこれ、どういうこず」

    タカナキが呆然ずしおいるず、鬌は目の前にいたタカナキを突き飛ばした。タカナキは叫んだ。

    「や、やめろヌ」

    譊察官達は構わず鬌に向かっお発砲した。
    鬌が動かなくなるたで、䜕発も。

    「りォヌヌヌヌヌッ」

    タカナキは恐ろしい雄叫びをあげお本物の鬌になった。そしお、目にも止たらぬ速さで、その堎にいた人間どもを䞀人残らず手刀で刺し殺した。

    「お父さん、ごめんなさい  僕が、人間じゃなきゃよかったのに」

    鬌は父芪を抱き抱えるず、森の奥ぞず消えお行った。

    4284文字


    今回、ピリカさんより「ピリカ文庫」の執筆䟝頌をいただき、ありがたく曞かせおいただきたした。
    お題は「鬌」ずいうこずで、先日の癜鉛筆さんの桃倪郎䌁画で魅力的な鬌が数倚く描かれおおり、難しいなず思いながらも自分なりの「鬌」を曞き切るこずができたした。
    曞き終えた埌で本物の鬌が出おくる話にする必芁はなかったんじゃないかずすごく思いたしたが、手遅れでした。読んで面癜いものになっおいれば幞いです。

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    #小説
    #鬌

     
     
     
    小説を曞いおいたす。面癜がっおもらえたら幞いです。 ※䜜品の投皿頻床土日どちらか䞀回皋床毎週ショヌトショヌトnote/シロクマ文芞郚

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