芋出し画像

すべからく『愛』を謳え 第九話 『着岞』

 ã™ã¹ã‹ã‚‰ãã€Žæ„›ã€ã‚’謳え  第九話  『着岞』



①真意
    聡倪郎は、己を恥じた。
    圌が珟を抜かしおいる間に、事は倧きく動き出し、今、最悪の結果を迎えようずしおいる。
   ãã—おたた、圌は倧きく怜蚎違いをしおいた。もっず少幎に螏み蟌んで、耳を傟けおいればこんな事にはならなかったのかも知れない――


     åœŒãŒã‚¹ãƒžãƒ›ã‹ã‚‰ã€ã•おりず柄江の映像が芋えたあの日より案の定、激しい頭痛ず高熱、そしお『枇き』に圌は打ちのめされた。
  およそ䞀ヶ月ほど『枇き』はなりを朜めおいた為か、その分を取り返すかのように、圌の身䜓を痛め぀ける。
   ãƒˆã‚€ãƒ¬ã«è¡Œãã®ã‚‚億劫で、高熱のあたり意識朊朧ず化し、ここ数日の蚘憶も曖昧なほど。ほがほが寝たきりの状態が数日間続いおいた。
   ãã‚“な䞭、あの少幎がたた圌のもずに珟れた。
   å£ã¯å›ºãé–‰ã–されおいるものの、今にも泣き出しそうなその目は、聡倪郎に䜕かを蚎えおいるようだった。
    聡倪郎は意識朊朧ずする䞭、震える巊手を圌の頬に圓おる。指に匟く埮匱な電流。その粒子ひず぀ひず぀が匟け合い、あらゆる映像が聡倪郎の䞭に流れ蟌む。そしお少幎はその口を開いた。




   è¡å€ªéƒŽã¯ã€è‡ªåˆ†ãŒæ€ã„違いをしおいた事に気づく。
  もっず早く少幎の気持ちに気付いおいれば、もっず簡単にもっず早くこの件は片付いおいたはず。そう考えるず『枇き』ずそれを蚎える圌の䞭の『誰か』に苛立ちを芚えた。奎はこの状況になるたで息を朜め、今曎になっお猛嚁を振るう。その狡猟さに、圌は舌打ちをせずにはいられなかった。

   è¡å€ªéƒŽã®å³ç›®ã¯ã€äž€å±€çŽ…ã¿ã‚’åž¯ã³ã‚‹ã€‚
   å°‘幎の念の軌道を蟿っお、圌はひた走る。
   å€œã®åž³ãŒèœã¡ã‚‹è¡—䞊みは、少幎の哀しみを嗅ぎ぀けお矀がる䜎俗霊ず、行き堎を倱った情念達がその色を際立たせ、犍々しい極圩色の䞖界に染たっおいた。





「ばあちゃん  倧䞈倫?!」
  さおりは階段を駆け䞊がるず、狭くお暑苊しい、屋根裏郚屋の隅で打ち震える柄江の元ぞ駆け寄った。
「なんたんだぶ、なんたんだぶ  」
  い぀ものように、必死になっお念仏を唱える柄江。
  圌女の呚囲にはなぎ倒された扇颚機ず、倕食だったのか、サラダず酢豚ず思しき食材が、呚囲に飛び散っおいた。合わせお錻腔を刺激する屎尿臭。䞍衛生か぀、䞍快極たりない状況に、さおりは怒りを芚えた。
  「ばあちゃん  倧䞈倫だから  ね  もう倧䞈倫だから」
  柄江を抱きしめ、必死になだめるも、圌女の震えは䞀向に止たらなかった。
「もう、いい加枛にしなさいよ」
  さおりは、柄江が怯える芖線の先にそう叫び、圌女もその薄闇に目を凝らす。
  するず、その暗がりの䞭に、うっすらず少幎の姿が浮かび始めた。その姿は埐々に鮮明になり、怒りず哀しみに歪んだ衚情の少幎が珟れた。圌はさおりの目をたっすぐに芋据え、己の䞭にある感情を無蚀で蚎えおいた。
   ã•おりも気圧されないように歯を食いしばっお、それに察峙する。
   ãã—お少幎は急にさおり目掛けお走り出した。あたりに急な展開に、さおりはそれを避けきれずに、圌の䟵入を蚱しおしたう。

  その刹那、さおりに枊巻く怒りず、少幎の䞭に堆積した怒りが共鳎する。

「蚱さない  ばあちゃん『お母さん』をいじめる奎は蚱さない」
   ã•おりず則倫はひず぀の身䜓に怒りを同居させ、憀怒の衚情で階䞋を芋据えた。
   ã¡ã‚‡ã†ã©ãã®æ™‚、䞋の方から誰かの声が聞こえた。
   å…ˆçš‹ãŸã§å±…なかった䌞子が垰っおきたのか
   ã•おりず則倫は柄江を抱き抱え、急募配の階段をたるで滑るように駆け䞋りた。




「䞀䜓なんだったのかしら」
  自宅に戻っおきた䌞子は、面倒臭そうに口を尖らせた。
   åœŒå¥³ã¯æ€¥ãªèª°ã‹ã®æ¥å®¢ã«çŽ„é–¢ãžå‡ºãŸã‚‚ã®ã®ã€èª°ã®å§¿ã‚‚ãã“ã«ã¯ãªã‹ã£ãŸã€‚ã—ã‹ã—ãªãŒã‚‰èª°ã‹ã®æ°—é…ã‚’ç¢ºå®Ÿã«æ„Ÿã˜ãŸã®ã¯ç¢ºã‹ã€‚ä»Šäž€åºŠå‘šå›²ã‚’èŠ‹æž¡ã™ã€‚ã™ã‚‹ãšèŠ–ç•Œã®éš…ã«å°‘å¹Žã‚‰ã—ãåœ±ãŒèŠ‹ãˆãŸã€‚ãã£ãšã„ãŸãšã‚‰ã ã‚ã†ã€æ•ãŸãˆãŠå±ã‚Šã€ã‘ãŠã‚„ã‚ã†ãšã€åœŒå¥³ã¯ãã®åœ±ã‚’è¿œã£ãŸãŒã€è‡ªå®…ã‹ã‚‰ãŠã‚ˆãæ•°åãƒ¡ãƒŒãƒˆãƒ«ã®æ‰€ã§ã€åœŒå¥³ã¯ãã®åœ±ã‚’èŠ‹å€±ã†ã€‚
「なんなのよ  䞀䜓 ふざけんじゃないわよ」
    苛立ちを隠せずに、圌女は悪態を぀く。するずたた芖界の隅に少幎の圱。慌おお目で远いかけるず、その少幎は圌女の家の門扉を朜り、䞭ぞず入っおいった。
「いい加枛にしなさいよ」
  たたもや憀慚するず、圌女は自宅ぞず走っお戻っおいった。


    サンダルを脱ぎ捚お、䌞子はドカドカず郚屋䞭を走り回る。
「どこに居るのよ〜  さっさず出おきなさい」
  どこを芋お回っおも、先皋の少幎らしき圱はない。
  「あたし、疲れおるのしら」
    芋間違いにしおは鮮明過ぎお、珟実にしおは違和感を感じる少幎の圱。考えるのも面倒になっお、䌞子はその䞀蚀で少幎の姿を打ち消した。
    そしお䞍意に振り返るず、䞀瞬圌女は固たった。
 

「さ、さおりちゃん  来おたの  ど、どうしたのよ  急に」
  䌞子が振り向いたすぐ目の前には、柄江を抱き抱えたさおりが立ちはだかっおいた。
    い぀ものように枩和な印象ずぞ異なり、さおりの衚情は怒りを顕にしおいた。
「䜕が楜しく暮らしたしょうね  笑わせんじゃないわよ  話が違うじゃない  ばあちゃんをあんな汚い所に閉じ蟌めお」
   æ€¥ã«æ€’りを撒き散らすさおり。日頃から感情を衚に出さない分、䌞子はその様に気圧されそうになった。     ã—かし、圌女ずお口では負けなかった。
「どうしたの  さおりちゃん   èª°ã‚‚あんたが思っおいるような玄束なんお、した芚えはないわよ  それに『汚い』だなんお、厄介なもの匕き取っお貰ったのに、䜕よその蚀い草は」
「厄介だなんお  ばあちゃんを殺す気  あんな堎所に閉じ蟌めお、しかもあんな油っこいご飯なんか食べさせお」
「あんたね  蚀わせおおけばいい気になりやがっお  舐めた口聞いおんじゃないわよ」
   äŒžå­ã¯å”‡ã‚’震わせながら、さおりの頬を匕っぱたいた。
「䜕様の぀もり  借金も返枈しお貰っお、䜏む家も準備しお貰っお、ずっずこっちが助けおあげおきたのに、䜕よ  その態床は  こっちはね、感謝されおも、文句蚀われる筋合いはないんだけど」
   äŒžå­ã¯æœ¬æ€§ã‚’むき出しにしお、さおりに食っおかかった。
「蚱さない  ばあちゃん『お母さんをいじめる奎は蚱さない』」
    さおりず少幎の声が重なるず、郚屋の䞭に砎裂するような衝撃が走り、䌞子は吹き飛ばされるように廊䞋に倒れ蟌んだ。
   ãã—おさおりは䞀心に䌞子を睚み぀ける。するずどこからか電源コヌドが、蛇のようにのたうち回りながら珟れ、䌞子の銖に絡み぀いた。

「ちょっず䜕よ」
  䌞子は慌おおそのコヌドを銖からはずそうずするが、もがけばもがくほどそれは銖にめり蟌んで行く。


「ただいたぁ、今日も疲れたぁ」
  䌞子がもがく䞭、調子っぱずれな情けない声をあげながら健二郎が垰っお来た。
「おヌい、䌞子  おい  䜕やっおるんだ」
   çŽ„é–¢ã‹ã‚‰å»Šäž‹ã«ã‚ãŒã£ãŸé€”ç«¯ã€å¥äºŒéƒŽã¯ç›®ã®å‰ã®æƒšåŠ‡ã«ç›®ã‚’ç–‘ã£ãŸã€‚
   ã•おりを抌しのけ、健二郎は慌おお䌞子のもずに駆け寄る。
「おい 倧䞈倫か」
  顔を真っ赀にしお苊しむ䌞子の銖に手をあおがい、健二郎は必死になっお、その電源コヌドをほどこうずする。
「邪魔するな」
  さおりの口から少幎則倫の声が飛び出し、曎に郚屋䞭のあちこちから匕き抜かれた電源コヌドが、健二郎達の呚りに集たっおくる。
  「ひぃぃぃ」
   ãã®æ€ªç•°ãªçŸè±¡ã«ã€å¥äºŒéƒŽã¯æƒ…けない声をあげ、モグラ叩きのようにしお、這い寄るコヌド達に持っおいた鞄を叩き぀ける。しかし、党おには察凊出来ずに、い぀の間にか健二郎の銖元にも、オヌブントヌスタヌのコヌドが絡み぀いた。
   äºŒäººã®éŠ–ã«çµ¡ã¿ã€ã„ãŸã€ã‚³ãƒŒãƒ‰ã®å…ˆã®ã‚³ãƒ³ã‚»ãƒ³ãƒˆã¯ã€å£ã‹ã‚‰å€©äº•ãžãšé€™ã„äžŠãŒã‚Šã€äŒžå­é”ã‚’åŠã‚‹ã—ã‚ã’ãŸã€‚
「やや、め  ろ  」
  二人は必死にもがくも、もはや声にならなかった。
  コヌドをはずそうずしお掻きむしった銖には、幟筋もの傷が出来、そこから血が滲み出おいた。
  さおりはその様を芋お、より䞀局に鬌の圢盞をその顔に宿した。
   ã™ã‚‹ãšå°æ‰€ã‹ã‚‰æ¿€ã—い金属音が聞こえ、包䞁やフォヌク、ペティナむフなど数本がさおりのもずに飛んできた。それらは圌女の呚りで浮遊し続け、その切っ先を健二郎ず䌞子に向ける。
「よくも  よくもお母さんをいじめたな」
   å‰‡å€«ã®æ€’号ず共に、それらは健二郎ず䌞子ぞず飛んでいく

「や  めお  」
  䌞子が息も絶え絶えに懇願するも、勢いよく滑走する包䞁達。
「ぎゃぁ」
  包䞁達が二人に突き刺さろうずした刹那、それらは音を立おお、健二郎達の足元に萜ち、銖に絡み぀いおいたコヌドも、たるで意思を無くしたかのように、その堎に抜け萜ちた。
  途端に、廊䞋に叩き萜ずされる健二郎ず䌞子。
   äºŒäººã¯ã‚たりもの脅嚁に、泡を吹きながらその堎に厩れ萜ちた。

「誰だ」
  鬌の圢盞で叫ぶ則倫は、埌ろに目をやった。
  そこには、右目が玅く染たった聡倪郎が、圌の巊肩を匷く握り締めおいた。

「邪魔しないで」
  聡倪郎を芋るなり、怒りを顕にする則倫。
「君はそんな事をする為に、今たでこの䞖に残っおいた蚳ではないんでしょ  そんな事をしおも、お母さんは喜ばないよ  喜ぶどころか、たた悲しさたせおしたうよ」
  優しく諭す聡倪郎。圌は則倫の巊肩をより匷く握りしめた。その途端、今たで鬌の圢盞だった則倫の圱がすうっず消え、さおりの衚情に戻った。

「あ、あれ  私  」
  則倫に身䜓を占領されおいたさおりは、倢から芚めたように、目の前の惚状に唖然ずした。
「安心しおください。そこのお二人は気を倱っおいるだけです。」
  目の前にいるのがさおりず分かるず、聡倪郎は手短に状況を説明した。
「則倫君は先皋たで、さおりさんの怒りに同調しお、あなたの身䜓を占領しおいたした。そしお、お祖母様、柄江さんを無䞋にするそこのお二人に、包䞁を突き立おようずしおいたんです」
「え  ど、どうしたらいいんですか 」
  今の状況に慌おふためくさおり。取り敢えず圌女は居間に柄江を䞋ろした。
「ばあちゃん、ごめんね。倧䞈倫」
  震えながらも無蚀で頷く柄江。

「則倫君は、怚みだけでお二人の前に珟れおいた蚳ではありたせん」
  聡倪郎は、則倫の本圓の気持ちに぀いお、さおりに話し始めた。
「勿論、怚みも激しく残っおいたす。それよりも圌は
母芪である柄江さんが心配で仕方なかったようです。生前も急に䌚わせお貰えなくなり、柄江さんを『護る』事が出来なかった、それが䞀番の心残りだったようです」
「じゃあ、怚みで祖母を怖がらせおいた蚳ではない、ずいうこずですか」
  柄江の肩を擊りながら、さおりは聡倪郎の話に耳を傟ける。
「則倫君は意図しお捚おられた事で、その哀しみが怚念ずしお残ったのは事実です。ですが、それ以䞊に圌は柄江さんの事が倧奜きで、ずっずそばに居たかった。だから、さおりさんのご䞡芪が火事で亡くなられる前に、それを予芋しお、どうにかしお䌝えようずもしおいたようです」
「え  そんな事たで分かるんですか」
   äž¡èŠªãŒç«äº‹ã§äº¡ããªã£ãŸäº‹ã¯ã€ã•ãŠã‚Šã¯è¡å€ªéƒŽã«ã¯è©±ã—ãŠã„ãªã‹ã£ãŸã€‚ãã‚Œã‚’ã•ã‚‚çŸ¥ã£ãŠã„ãŸã‹ã®ã‚ˆã†ã«å–‹ã‚‹è¡å€ªéƒŽã®å£ã¶ã‚Šã«ã€åœŒå¥³ã¯ç›®ã‚’äžžãã—ãŸã€‚
「そしお最近になっお、認知症も酷くなっおいくこずに、我々にさえ姿が芋えおしたうほど、圌も心配しおいたんだず思いたす。だけど、圌自身、どうすればいいのかも分からずに、ただただ、柄江さんを怖がらせおしたっおいたようです」
   è¡å€ªéƒŽã¯ã“の家に蟿り着く前に、則倫の口から溢れ出た、蚀葉にならない想いを、可胜な限り蚀語化しお、さおりに䌝えた。

  そう、則倫は哀しくお、寂しくお、自分を捚おたにも関わらず、それでも母芪が愛しくお、そしお心配で、その想いが氞い間怚念ずなっお、柄江の呚りを浮遊し続けおいたのだった。尚䞔぀怚念ではあっおも、決しお柄江やさおりに、危害を加える意思などは持ち合わせおいなかったのだ。しかし、捚おられた事ぞの哀しみや、母芪をいじめおきた祖母ぞの憎しみもたた、蚈り知れず圌の䞭に枊巻いおおり、その気持ちをコントロヌル出来なくなる事も少なくは無かった。故に、怖がるばかりで、い぀たで経っおも圌を芋おくれない柄江に、駄々をこねるようにしお郚屋のものを滅茶苊茶にしたり、圌女を虐げる者には殺すこずも厭わぬ皋に、憎しみをぶ぀けるのだった。そしお、このたた圌を攟眮しおしたえば、䌞子他、柄江に仇なす者は党おを手にかけ、その眪はさおりに降り掛かる事は間違いない。
   ãã‚Œã ã‘は、䜕がなんでも回避しなければならない。

「どうすれば則倫さんの、その哀しみを鎮めおあげられるのでしょうか」
  本題を切り出すさおり。
「圌の願いはひず぀です。我が子ずしお、柄江さんに抱き締めお貰いたい、その䞀心なんです。僕ずしおも圌を悪霊のようにはしたくありたせん。子䟛のたた、玔粋な気持ちのたた、旅立たせおあげたいず思っおいたす。その為には、柄江さんの協力が必芁です」

   ã•おりず聡倪郎は、顔を芋合せた埌、震える柄江に芖線を移した。




â‘¡åž°å®…
   æŸ„江は、聡倪郎に今䞀床則倫の気持ちを䌝えられた埌、その堎に泣き厩れた。圌が話した内容は理解は出来た。しかし、子䟛を捚おた母芪ずしお、たっすぐに我が子の顔を芋るこずが出来なかった。日々付き纏う眪悪感に、圌の母芪ずしお、顔をあげる事がどうしおも出来ずにいた。湧き出る蚀葉は、ひたすらに謝眪の䞀点。そしお、則倫の気持ちなど考えずに、ただただ怚み殺されるずしか思っおいなかった自分は、母芪ずしお、則倫を抱き締める資栌などないずさえ、自分を責めた。

「柄江さん、あなたがどんなにご自分の事を批難しお、嫌いになったずしおも、それでも則倫君はあなたが倧奜きで、ずっずあなたが埮笑みかけおくれるのを埅っおいたす。母芪ずしお、もう䞀床則倫君を抱き締めおあげお貰えたせんか」

  聡倪郎のその蚀葉に感化され、圌女は芚悟を決めた。自分の過ちに蓋をするのではなく、責任を持っおそれを受け入れる芚悟を。
「わかりたした  」
  震える声でそう呟き、圌女は唇をき぀く噛み締めた。

「則倫君はたださおりさんの䞭に居たす。先ずは僕がさおりさんの䞭に入っお、圌を呌び出したす。そしお柄江さんの所ぞ連れお行きたすので、それからは柄江さん、思いっきり圌を抱き締めおあげおください」

   è¡å€ªéƒŽã®èª¬æ˜ŽãŒçµ‚わるず、䞉人は居間の䞭で鎮座し、互いに手を繋ぎあった。



   
『則倫君  則倫君  お母さんが呌んでるよ』
   ã•おりの䞭で薄暗い闇を纏い、則倫はその䞭に隠れおいた。
『則倫君  お母さんが呌んでるっおば』
   ç›žæ‰‹ã¯å­äŸ›ã€‚努めお明るく優しく、聡倪郎は語りかけ、右手を差し出した。
   åœŒã®å‘Œã³æŽ›ã‘に、則倫は野良猫のように譊戒をし぀぀も、様子を䌺いながら、近づいおくる。
『倧䞈倫  誰もお母さんや則倫君をいじめたりはしないよ。やっず、ちゃんず䌚えるんだから、そんな暗い顔しおたら駄目だよ』
   è¡å€ªéƒŽãŒãã†èš€ã£ãŠæš«ãçµŒã£ãŸåŸŒã€è–„暗がりから酷くやせ现った右手が䌞びお来た。



   æŸ„江は気が付けば、遠い過去、則倫ず暮らしおいた長屋の玄関の前に立っおいた。身なりも圓時の出で立ちで、䜕床も掗濯をしお着回しおいた、ブラりスずズボン。䞡方ずも幎季が入っおおり、色耪せず擊り切れそうなくらいに生地が薄くなっおいた。そしお顔も身䜓も圓時のそれに戻っおおり、しわくちゃだった顔も、真っ癜だった頭も、ツダずハリのある肌で、黒々ずした髪の毛が、颚になびいおいた。


『  お母さあん』
   ã™ã‚‹ãšé ãã‹ã‚‰ã€æ‡ã‹ã—い声が圌女の耳に届いた。     ãã®å£°ã«åœŒå¥³ã¯èº«æ§‹ãˆã€å”‡ã‚’噛み締める。蚱しお貰えるずは思っおいない。よもやこのたた地獄ぞ連れ去られるかもしれない。もう、それでも構わない。それだけの過ちを冒したのだ。

『お母さん』
   æ°—が぀くず、目に涙をいっぱい浮かべた則倫が、目の前に立っおいた。
   ãã®é¡”を正芖した途端、眪悪感や自責の念を飛び越えお、母芪ずしおの子を想う愛しさが、圌女の身䜓䞭を駆け巡った。
   åœŒå¥³ã¯è†ã‚’着いお、則倫ず目線を合わせるず、䞡手を䌞ばした。

『則倫や、ほら、おいで』
  その声に、則倫は盎ぐさた圌女に飛び぀いた。
  そしお柄江も則倫をひしず抱きしめた。いがぐり頭から少し䌞びおちくちくする髪の毛も、颚呂を嫌がっお、しょっちゅう黒く汚れおいた腕や足、そしおそれに着いお回る汗臭さ、それら党おが、圌女がお腹を痛めお産んだ、心血を泚いで愛し育おた、玛れもない『則倫』だった。
『ごめんね  寂しかったね、蟛かったね、ごめんね  』
   äºŒäººãšã‚‚、汗ず涙で顔はくしゃくしゃになっおいた。匷く匷く抱き締めあった埌、もう䞀床二人は顔を芋合わせた。
   ã“の数十幎、その芖線を避けお来た柄江は、今、圌女の䞭に湧き䞊がる気持ちのたた、しっかりず則倫の目を芋据えた。
   æ³£ããªãŒã‚‰ã‚‚、屈蚗のない笑顔を向ける則倫。
   æŸ„江は圌のその頬に䌝う雫を、芪指で拭き取り、今䞀床優しく埮笑んだ。
『お母さん、䌚いたかった  』
『お母さんも、則倫ず䌚いたかったよ』
   çœªæ‚ªæ„Ÿã‚’隅に抌しやっお、柄江は今、沞き立぀本心をそのたた、息子に䌝えた。息子は声をあげお笑い、今䞀床、圌女に抱き぀いた。


  どのくらい時間が経ったのだろうか
  二人は氞遠ずも䞀瞬ずも思しき時間を共有し、お互いの想いを確かめあった。 
   ãã“にあったのは互いに想いあう芪子の『愛』ず、生死を隔おおも切れる事のない『絆』だった。それは未来氞劫、倉わる事もなく、衰える事もない、唯䞀普遍のもの。

『お母さん、僕、もう行かなきゃ  』
  則倫は寂しそうな顔をするも、その衚情には曇りはなかった。
『たた、䌚えるから  』
  柄江は、則倫ずたた来䞖で芪子になれる、そんな気がした。
『お母さん、負けないね  匷くなる』
  その蚀葉に則倫はにっこりず埮笑んだ。

   ãã—お則倫の背埌から、そっず聡倪郎が姿を衚した。
『則倫をどうぞ、よろしくお願いしたす』
  柄江がそう呟くず、聡倪郎は笑顔で䌚釈をしお、則倫の手を優しく掎んだ。



   ãã®çž¬é–“、聡倪郎の䞭で抑え付けられおいた『枇き』が、もはや抑えきれない皋の勢いで、圌の䞭を蹂躙する。可胜な限り『自分』を保ちながら、圌は巊手を則倫の頭に眮いた。
『じゃ、行こうか』
  はやる気持ちを抑えながら、聡倪郎は優しく則倫に語りかける。則倫も目を瞑り、無蚀でそれに頷くのだった。
   ãã—お、聡倪郎は『枇き』を解攟する。








   è¡å€ªéƒŽã¯ãŸãŸã‚‚やいざよい橋の䞋で、目を芚たした。柄江ず則倫が以前暮らしおいた長屋は、この川沿いに建おられおいたらしい。
   
  枅貧を䜙儀なくされる生掻から、䞀瞬にしお自由を倱い暗闇の䞭での生掻。それを経おの母芪から芋捚おられるずいう悲劇。そしお地震ず措氎に芋舞われ、聡倪郎は身も心もズタズタになった。
   ãŒã€ã—かし最埌に行き着いた先には、愛する母芪が埅っおいおくれたので、目を芚たした瞬間は、満たされおいたず蚀っおもいい皋に、気持ちは晎れやかだった。
    されど右脚は倒れ蟌む皋に、激痛に芋舞われた。則倫が波に飲み蟌たれた際に、その右脚は瓊瀫に挟たれたた、ちぎれおしたっおいたようだ。その為、たたもや脚を匕き摺りながら、長い時間を掛けおの垰宅を䜙儀なくされた。
    しかし、聡倪郎は愚痎を零すこずなく、䞀歩䞀歩、力匷く螏み締めながら、自宅ぞず急ぐのであった。











③意思
   äž€ãƒ¶æœˆåŸŒã€‚
   æŸ„江は自分の意思で、老人ホヌムぞ入るず宣蚀をした。勿論さおりも䌞子も反察をしたが、圌女はそれを頑ずしお受け入れなかった。費甚を心配するさおりだったが、圌女は䌞子が奪おうずしおいた預金を思い出し、晩幎はそれで生蚈を立おるず、匷く意芋を通した。
   äŒžå­ã¯ãšã¯èš€ãˆã°ã€ãŸã£ãŸæ•°é€±é–“の同居だったにも関わらず、あの時はこうしおやった、あヌだこヌだず、その金をせびり取ろうず必死だった。しかし第䞉者を埌芋人に立おた事で、それも自由にするこずは叶わなくなった。
    

  たた、則倫が起こした今回の件も、蟛うじお事なきを埗た。
   äž€å…ˆãšã¯äŒžå­é”が倒れおいた所に、さおりが駆け぀けお救急車を呌んだ、ずいう筋曞きでさおりもシラを切り通した。ずいうか、途䞭からは則倫の蚘憶になり、圌女自身もよく芚えおはいない。
   äŒžå­é”は運ばれた病院でその霊障を蚎えたが、二人の銖もずには䜕も痕跡は残っおいない為、圌女らの蚀い分は䜕䞀぀蚌拠にならなかった。それどころ二人しお血盞を倉えお蚎える様に、心療内科の受蚺を勧められた皋だった。しかしながら、䌞子ずさおりには少なからずしこりは残った。䜕かに぀けお䞀方的に事を荒立おようずする䌞子。されど健二郎は、母、柄江の意志を通す姿に觊発され、叔父ずしお、血瞁者ずしお、自分の意思の通り、さおりを擁護する偎に回った。それにより今回の件は、これ以䞊は明るみに出るこずは無くなったようだ。

    そしおさおりも団地を匕き払い、柄江の老人ホヌムの近くのアパヌトに匕越した。
   ä»•事はい぀ものようにお局達のいびりず、店長の埮劙なセクハラは続いおいたが、それは瑣末な事ずしお、圌女の䞭では昇華出来るようになった。今は䞉日に䞀回の柄江ずの面䌚が、䜕よりの楜しみだった。


「さおりは、いい人ずか居ないの」
  最近の柄江はずおも調子が良かった。たくさんの人ず接する事で、それが刺激ずなり、以前に比べおも認知症の症状が出る機䌚も少なくなった。それにも増しお顔色もずいぶんず良くなった。
「もうね、そんな䜙裕なかったからね。だけどたた絵を描こうず思っおる」
  痛いずこを突かれお、話題を倉えるさおり。
「それは良かった  私はあんたの絵奜きやけ。感芚を取り戻したら、䌌顔絵でも描いおね」
「うん  ぜひ」
  さおりは二぀返事で即答する。


   


『いい人ずか居ないの』
   è€äººãƒ›ãƒŒãƒ ã‹ã‚‰ã®åž°ã‚Šé“、柄江の蚀葉が、なんずなく圌女の心を突いた。
   æ„›ã ã®æ‹ã ã®èš€ã£ãŠã„い幎代はずっくに過ぎおおり、お䞖蟞にも自分は綺麗だずは思えない。故にそれずは違う䞖界で生きおいくのが、自分の人生だず思っおいた。しかし、枅貧ずは蚀え、少しばかりの『自由』を手に入れた圌女は、たるで思い出したかのように、それらの事柄が気になり始めた。
「店長は  圏倖」
  圌女に奜意ずいうより䞋心のある、いわゆる『オス』は論倖だった。考えながらさおりは独りで吹き出した。
  そしお頭の䞭を過ぎる、䞀人の男の寂しそうな衚情。倏の盛りに完党防備で厚着をする、挙動䞍審な男ではあるが、人は悪くはないようだ。そしお、なんずなく萜ち着いお話が出来る雰囲気は、正盎心地良くもあった。

「たあ、無いかな」
  もう䌚う機䌚も無いだろう。圌女は考える事をやめた。


   è€äººãƒ›ãƒŒãƒ ã‹ã‚‰æ•°åˆ†æ­©ã„たずころで、自宅のアパヌトが芋えおきた。
   å€•方から雚の予報だっただろうか  快晎だった空はい぀の間にか曇倩に染たり、雲の流れが早くなっおいた。もしかしたら䞀雚来るかもしれない。傘を持っおいなかった圌女は、少しだけ歩く速床を早めた。
   åŸã€…に芋えおくる自宅のアパヌト。
   é–€å¡€ã«èŠ–ç·šã‚’å‘ã‘ã‚‹ãšã€ãã“ã«ã¯å‘šå›²ãšã¯é•ã†æ˜ŽåºŠã§ã€äž€äººã®å¥³æ€§ãŒç«‹ã£ãŠã„ã‚‹ã®ãŒèŠ‹ãˆãŸã€‚
『あれ  誰か立っおる』
  そう思いながら埐々に近くなる、その女ずの距離。
  その女の呚囲は明らかに呚りずは違う色圩で、異質で䞍気味だった。そしおその女はさおりの芖線に気づいたのか、項垂れおいた頭を急に持ち䞊げ、圌女にその目を向けた。
「」
  息を飲むさおり。
  その女の顔は、たるで鉄球で朰されたように陥没し、朰れおはみ出た目だけが、癜く爛々ず光っおいた。そしおケタケタず笑い出し、さおりずすれ違いざたに、口から倧量の血飛沫を吐き出した。
「きゃぁぁぁ」
  あたりの恐怖にさおりはその堎にうずくたった。そしお、ズボンのポケットに入っおいたメモ玙を握りしめた。


   ãã—お数秒  数分経っお、さおりは顔をあげた。
  もうそこには女は立っおいなかった。
  そしお、曇倩に染たっおいた空もい぀の間にか、先皋たで目にしおいた快晎に戻っおいた。
  恐る恐る立ち䞊がり、呚囲を芋枡すさおり。
  䜕も倉わらない、い぀も通りの自宅のアパヌトが、そこにはあるだけ。
「」
   å”Ÿã‚’飲み蟌み、圌女はメモを握り締めおいた事を思い出す。そしおそれをポケットから取り出しお、目を通した。
   ãã“には汗で滲んでしたった、聡倪郎の電話番号が曞かれおいた。



   ã€ã¥ã


   

いいなず思ったら応揎しよう