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すべからく『愛』を謳え 第䞉話 『報埩』

すべからく『愛』を謳え  第䞉話  『報埩』

①宣告

  志保の目の前に珟れたのは、玛れもなく梚乃だった。しかもその出で立ちは、取り急ぎ着合わせたかののように、皺だらけのシャツず、ボタンを締め掛けのデニム。劙に艶めいお蒞気した衚情が、なにかの最䞭であったこずを想起させた。
「あ、ほんずに来ちゃった」
  悲壮な面持ちの志保を目の前にしお、少しだけ枯れた声で、梚乃は冷たく呟いた。
「誰だよ  このタむミングで誰が来たんだよ」
  薄暗い郚屋の䞭から、ドタドタず足音を立おお、トランクス䞀䞁の名護が志保の目の前に珟れた。
「䜕」
  志保を䞀瞥するず、名護は恚めしそうに無愛想に口を開いた。
「䜕っお、その、連絡が぀かなかったから、倧䞈倫かな  っお思っお  」
    志保は泣き入るかのように、がそがそず呟く。
「は  別に甚事なんおもう無いし」
  口調や態床からしお、今、目の前に居る名護は志保が知っおいた名護ではなかった。あんなに芪切で、あんなに優しかった名護がたるで人が倉わったかのように豹倉しおいる。
  䜕がどうなっお、こうなっおしたったんだろう
  どうしおも腑に萜ちなかった。
「あの、名護先茩、  私たちっお、その  」
  志保は勇気を振り絞っお、自分の想いを蚀葉に眮き換える。
「私たちっお、付き合っおたんじゃ  」
「りケる〜  拓海があんたず付き合う蚳ないじゃん」

  志保の蚀葉を制しお、名護より先に声を䞊げたのは梚乃の方だった。
「あのさぁ、䞀床ダッただけで圌女面するのやめおくれない  こい぀ずも付き合っおないのに、春原さんず付き合う蚳ないじゃん  いちいちダッた奎ず付き合うなんお無理無理  身䜓がもたないっお」
 åè­·ã¯ãã†èš€ã„ながら、 梚乃ず顔を合わせお笑い転げた。
「え」
「あ、なんか勘違いさせおたら申し蚳ないんだけど、もう俺、春原さんには興味無いんだよね。だっお春原さん、もう䞭叀なんだよ  俺にずっおはもう䟡倀が無いのね。それこそ、すんげヌテクっおたりしたら話は別だけどさ。た、䞭の䞋くらいだったし」
「ちょっ、拓海それひどくない」
  笑いながら茶々を入れる梚乃。
「䞭叀  」
  名護の蚀っおいる意味がよく分からなかった。
「それが珟実なんだから仕方なく無い  だから、春原さんさぁ、他の誰かを圓たっおくれる」
  軜快に蚀い攟぀名護。
  したり顔で芋䞋げる梚乃。
「最䜎」
  志保はそう蚀い捚おるず、急いで二人の前から走り去った。
  
  


『なんで  なんで  なんで』
『二人ずもグルだったんだ』
『二人しお私の事をバカにしおたんだ』
   éšŽæ®µã®è»‹ã‚€éŸ³ãªã©ãŠæ§‹ã„無しに、圌女は䞀目散に駆け䞋りた。

『先茩のバカ』
『梚乃、梚乃なんお倧嫌い』

  溢れ出る涙ず錻氎を抑えきれず、顔面をぐしゃぐしゃにしながら、圌女は無心で走り続けた。


  志保は䞀瞬にしお、愛すべき人ず、芪愛なる友人、二人を倱った。ほんの数分前たで揺るがなかった二人の存圚は、音も立おずに瞬く間に厩れ去った。
  自分はただただ匄ばれおいただけ。
  あの二人は、自分の知らない所で芪密に繋がり合い、きっず嘲笑っおいたに違い無い。

  そう考えれば考える皋、名護、梚乃ず分かちあっお来た今たでの時間がそれを吊定し、心ず頭の䞭で泣き喚いた。二人の優しかった顔は嘘では無かったはず。     ãªã®ã«ã€ãŸã‚‹ã§è¡šãšè£ã‚’ひっくり返したかのように、それは激倉した。
  『倢なら芚めお』
   å¿ƒåº•そう願うも、頬を䌝う雫ず、にわかに降り出した雚の冷たさが、『珟実』である事を圌女に突き぀けた。


  気が぀けば、圌女はたたいざよい橋に蟿り着いおいた。手すりにしがみ぀き、声を殺しながら、歯を食いしばった。
  雚はやがお本降りずなり、たちたちアスファルトを波王で埋め尜くす。
  すれ違う人々は皆、傘で芖界を遮り、䞀人泣き濡れる少女には、誰䞀人芋向きもしなかった。


   é›šã¯å®¹èµŠãªãå¿—保を打ち付ける。
   å‚˜ã‚’持たない志保は、雚に打たれるがたた、ずぶ濡れに。打ち付ける雚音も激しく、呚囲の喧隒を遮断し、圌女の耳を支配する。

『  しい  ぁに』
  その雚音に玛れお、誰かの囁く声が、圌女の耳元に届く。それは途切れ぀぀も、埐々に茪郭を䌎い、明瞭になっおいく。
『あなたは  欲しいものは  なぁに』
  い぀ぞやの倢で聞こえた声がたた、圌女の耳元に問いかける。
  「な、名護先茩が欲しい  」
  藁をも掎む思いで、志保はそう叫んだ。
  珟実を突き付けられおもなお、圌女は名護を求めた。どんなに蔑たれおも、匄ばれおも、圌女は名護が欲しかった。圌は圌女の党おに䟵食し、思考の党おを占領しおいた。
  愛しさも憎しみも䞀塊になっお、『名護』ずいう存圚は、圌女を支配しおいた。
  『あたし  ず  䞀緒  』
  その声は䞀呌吞おいお、吐息混じりに志保の耳に噛み付いた。鋭い痛みを感じたその瞬間、志保は手すりの向こうの揺れる氎面に、うっすらず笑う誰かの口もずを芋た。
  そしお圌女も、それに合わせお口角をあげるのだった。



②真盞
「本日のご䌚蚈、六䞇八千円です」
  停りの去勢に身を包んだ匷面の男は、満面の笑みで料金トレむを差し出した。
  聡倪郎は財垃の䞭から、泣け無しのその金額を取り出し、トレむの䞊に重ねお眮いた。
「ちょうど頂戎臎したす。それではこちらの番号でお呌びしたすので――」
  聡倪郎は促されるたたに、埅合宀ぞず入っおいった。

  聡倪郎はあの時、橋で出䌚った若い女性が、今回の怚念のタヌゲットである事を盎感的に悟った。しかし、圌女に察しお出来るこずは、圌にはただ無かった。䞀蚀だけ圌女に泚意する旚だけを䌝えたものの、それだけでは十分では無いこずは分かっおいる。
  なにより根本である女性の念を远い掛けお、それに寄り添う事が先決、そう思い、圌はここに蟿り着いた。
『ずきめき女孊園』
  橋のたもずにあった花束から芋えた映像に、この店が映り蟌んでいた。
  改めお、あの女が走り始めた地点に足を向けるず、すぐにこの店の電光掲瀺板が目に入った。そこは所謂颚俗店が集たる゚リア。男心をザワ぀かせる看板が立ち䞊び、その怒涛の゚ネルギヌに、聡倪郎は䞀瞬たじろいだ。
  気を取り盎しおその掲瀺板に駆け寄るず、店の入口にキャストパネルが貌られおいるのに気付く。そしおその䞭に、花束の映像の䞭に珟れた幌い女性を、聡倪郎は芋぀けたのであった。

「ご指名ありがずうございたす。初めたしお、ちな぀ず申したす。今日はお䌑みですか」
「たあ、そ、そんなずこです  」
「お兄さんはこういうお店では、よく遊ばれるんですか」

  埅合宀で埅たされる事二十分、通された郚屋には芋たごうこず無く、花束の䞭の女性が笑顔で䜇んでいた。

「あ、いや、その、初めお  です  」
  本圓に初めおの事に、しどろもどろに答える聡倪郎。
「じゃあ、私がお兄さんの『初めお』を貰っちゃっおもいいですか」
  腕を絡たせお、扇情的な衚情を芋せるちな぀。
  ぀い、目的を忘れそうになる自分を埋しお、聡倪郎は圌女の手をそっず解いた。
「え」
  怪蚝な顔をするちな぀。
「いや、申し蚳ないです。今日は遊びに来た蚳では無いんです。えっず、ちな぀さん  に、お話を聞きたくお、実は䌺ったんです」
「はぁ  」
  少しだけ譊戒の色を芋せるちな぀。
「いざよい橋に花束を眮かれおるのは、ちな぀さんですよね」
  単刀盎入に切り出す聡倪郎。
「  」
  蚀葉に詰たるちな぀。
「䜕故、それを」
  䞀瞬にしおキャストの衚情から、幌くあどけない、本圓の圌女のそれに戻るちな぀。
「もし、宜しければ、圌女の事を教えお貰えたせんか」
  そう蚀うず聡倪郎は改めおちな぀の手を握り、花束から芋えた映像を圌女に流し蟌んだ。
 çªç„¶ã€é ­ã®äž­ã«æµã‚ŒèŸŒã‚€éŽåŽ»ã®èš˜æ†¶ã«ã€åœŒå¥³ã¯é©šãã‚’éš ã›ãªã‹ã£ãŸã‚ˆã†ã ã€‚
『え  嘘』
『なんで』
『嫌』
  独り蚀のように䜕床も呟きながらも、その花束に蟌めた想いが溢れ出し、最埌は目頭を熱くさせるのであった。


  あの女の名は䞉井かなめ。
  城西倧孊に通っおいた女子倧生だった。
  二幎前、映画が奜きだった圌女は映画サヌクルに参加し、そこで名護ず恋に萜ちた。が、しかし、圌女の『凊女』にしか興味の無かった名護は、関係を持ったその時点で、圌女を切り捚おた。
  それでも尚、名護を諊め切れなかった圌女は、ずある名護の蚀葉を鵜呑みにする。
『俺に振り向いお欲しければ、もっず技術磚いお来いよ  そうだな、颚俗ずかで働いお勉匷しおこいよ』

  名護からすれば、諊めさせるために぀いたでたかせであったが、名護に執着するかなめは、玠盎にその蚀葉を真に受けた。

  そしお圌女が遞んだ店が、ちな぀も圚籍するこの店だった。同じ歳で、同じ時間垯に出勀する機䌚が倚かったちな぀ずかなめは意気投合し、仕事以倖でも同じ時間を共有するようになった。共に助け合い、絆を深め合う䞭で、二人の関係は『芪友』ぞず発展しおいった。

  そしお事態は急倉する。
  それは䞀幎前の事。この店での仕事にも慣れ、埐々に人気が出始めるかなめ。出勀枠が完売する事も倚く、予玄が毎回抜遞方匏になるほどに、圌女は人気嬢ぞず登り詰める。
  そしおこの店のナンバヌワンになった時点で、かなめは円満にこの店を去っお行った。その結果を持っお名護の元ぞず戻っお行ったのである。
  しかし名護は、そんな圌女を受け入れるどころか拒み、蔑んだ。そしお事もあろうか、かなめが颚俗店で働いおいた事を孊校にばらすずか、病気持ちず揶揄し、粟神的にも圌女を远い蟌んだ。
  もはや生きる意味を倱ったかなめは、自殺を決意する。
  自殺圓日、かなめは過去に栄華をおさめたこの店に蚪れ、深々ず䞀瀌をし、そしおい぀もちな぀ず話し蟌んだいざよい橋から身を投げようず、倢䞭で走り出した。
  倧通りを走り抜け、橋を枡ろうずしたその刹那、突っ蟌んで来た車䞡に衝突。   ãã—お、高く宙を舞った埌、䞋の川ぞ頭から転萜。その際に顔半分が欠損したらしい。


「申し蚳ありたせん。蟛い過去を振り返らせおしたっお  でも、かなめさんの無念をどうにかしお、鎮おあげたくお ..」
「いえ、お兄さんだったら信じられたす。どうかあの子の思いを、鎮おあげおください」
  聡倪郎から芋せられた映像に、ちな぀は疑う枷を倖し、知りうる事党おを打ち明けた。その衚情はもはや懇願に等しかった。誰にも盞談出来ずに、花束を添えるこずしか出来なかったちな぀。芪友を助ける事が出来なかった眪悪感に、抌し朰されそうな圌女の肩をそっず優しく、聡倪郎は抱きしめた。
   ãã‚“な圌女の、友を想う気持ちを守りたい、聡倪郎は、そう深く実感するのだった。



③代償
   æ·±å€œäž€æ™‚。
  名護は芪睊䌚の埌、䞀人自宅ぞず垰っおいた。今日は収穫無し。
  ある皋床、身の回りの女子の貞操を奪い尜くした圌は、少し退屈をしおいた。ここ最近は梚乃やその他の、技術ず経隓に長けた女性ず身䜓を重ねるに留たっおいる。
  しかし、初めおを砎る快感は、経隓倀の高い女性ずのそれずは党くの別物だった。
  力ずくで抌さえ蟌み、逃げ堎の無い䞭で、䞍安ず快楜で戞惑う、その枊䞭に欲望をぶちたける、その快感は䜕物にも代えがたかった。もはやそのために生きおいるず蚀っおも過蚀では無いくらいに、圌はそれに溺れおいた。
   ã—かし、ここ最近は新入生も少なく、『お初』を望める機䌚が滅法少なくなった。
  そろそろ新しいものを  そう、心ず身䜓が欲しおいる。
  埐ろにスマホを取り出し、連絡先の䞀芧から女性のリストをスクロヌルする。
  どい぀もこい぀も、食べた事ある女ばかり。
  蟟易しお、アスファルトに唟を吐く。

  次の角を曲がれば、自宅たでは䞀本道で5分皋床。ちょうどその角にはコンビニがある。    少し歩いたので、酔いが䞭途半端に芚めおきた。もう䞀床自宅で飲み盎そう。そう思い、名護はそのコンビニぞず駆け蟌んだ。

  「ビヌルず、サラミず、チヌズも」
  無造䜜にカゎの䞭に商品を投げ蟌む。明日の朝に食べるおにぎりやパンたで投げ蟌むず、カゎいっぱいになった。
「こんなずこかな」
  粟算甚にスマホを片手に持ち、レゞの列に䞊ぶ。
  深倜ずいうのに、レゞは立お蟌んでいた。
  埐ろに前方の客に目を向ける。そしお圌は前に䞊んでいた女性に目を奪われる。
   æ­³ã¯äºŒåæ­³ãã“そこで、小柄でボヌむッシュなショヌトカットの女性。Tシャツから芗かせる腕は、華奢ではなく、無駄なく匕き締たっおいる。陞䞊でもやっおいたのだろうか、タむトなデニムにねじ蟌たれた脚も、均䞀的に匕き締たっおおり、スタむルの良さを芋せ぀けおいた。
  カゎの䞭も名護ず同様に、ビヌルや菓子類が投げ蟌たれおいた。
  名護は気になっお、぀い、他の商品を芋るかのように巊埌ろにズレお、圌女の顔を芗き蟌む。
  ちょ  いヌじゃん
  名護は歓喜した。
  目の前の女性は、圌のメガネに十分に叶う矎少女だった。しかもあたり関係を持ったこずのない、䜓育䌚系の女子だ。圌の経隓倀により、きっずこの子は男を知らない、そう分析された。
  ほのかに銙るシャンプヌの銙りも、圌にずっおは媚薬ず化し、俄然、胞が高鳎った。
  名護は良からぬ悪知恵が働き、少しでも䌚蚈が早く終わるように、目の前の棚に、おにぎりやパンを隠しこんだ。

   ç›®ã®å‰ã®å¥³æ€§ã¯ã€äŒšèšˆã‚’終わらせるず、ゆっくりず出口に向かい、そしお店倖ぞず出お行った。ず、同時に、名護の䌚蚈も終わり、圌は䞀目散に店を飛び出した。
   æ€¥ã„で通りに出るず、圌の前方をゆっくりず歩く圌女が芋えた。
   ã„おも立っおもいられなくなった名護は、圌女目掛けお声を䞊げた。
「あ、あのう」
  その声に圌女は振り返り、自分に指を指しお銖を傟げる。
「よ、よかったら䞀緒に飲みたせんか」
  我ながら銬鹿だず思った。こんな事で匕っかかる女なんおいる蚳がない。しかし、声を掛けずには居られなかった。このチャンスを逃せば、䞀生埌悔する
  圌女は䞀瞬倜空を芋䞊げるフリをしお、にっこり笑うず銖を瞊に振った。



  そこからはもう、怒涛の流れだった。
  話しもそこそこに郚屋に連れ蟌み、灯りを灯したず同時に、名護は圌女に抱き぀いた。もはや欲望を抑え蟌む事が出来なかった。
   äž€æ–¹ã®åœŒå¥³ã‚‚拒むこず無くそれを受け入れ、䞍噚甚にも圌の銖や肩を愛撫する。その䞍噚甚さに、名護は曎に火が点いた。そのたた圌女をベッドに抌し倒し、唇を唇で塞ぎ蟌んだ。そしお耳を甘噛みし、埐々に銖筋から肩ぞず唇ず舌を這わせおいく。
  その愛撫に顔を真っ赀にさせる圌女を芋お、名護の興奮は最高朮に達した。
  シャツを脱がせようず圌女の背䞭を持ち䞊げ、シャツをたくしあげる。その䞋に隠されおいた肢䜓は、圌が予想しおいた通り、筋肉質で無駄のない代物だった。それで居お豊満な胞。名護は初めお神の存圚を感じた。垞に願い、祈っおいれば、神はその加護をもたらしおくれる。そう信じお疑わず、名護は圌女の銖元からシャツを剥ぎ取った。

  その瞬間だった。

  ベッドの䞊にバサッず䜕かが萜ちた。
  りィッグ
  それに目を奪われた名護は、気を取り盎しお、目の前の圌女に芖線を戻す。

「す、春原」
  名護は驚愕した。
  目の前に居たのは、ショヌトカットの女性ではなく、玛れもなく春原志保だった。
   åœŒå¥³ã¯æ‚ªæˆ¯ãªç¬‘みを浮かべるず、固たる名護を逆に抌し倒し、圌がしたように唇を唇で塞ぎ蟌んだ。そしお、甘噛みではなく、鋭く立おた歯で、圌の唇を噛み切った。
   åè­·ã¯ãã®ç—›ã¿ã«ã€æƒ…けない悲鳎をあげる。そしお、志保を抌しのけようずするも、たるで金瞛りにあったかのように、身䜓が固たっお動かなかった。
  志保は噛みちぎった圌の唇の欠片を、口の䞭で匄んだ。唟液ず共に溢れ出す真っ赀な鮮血。圌女の口内は、赀いお歯黒を塗ったかの劂く、真っ赀に染たる。そしおその欠片を吐き捚おるず、身䜓党䜓を震わせ始めた。ブルブルず小刻みに揺れだし、顔面の衚情がこわばり、苊悶の衚情で固たった。
  そしお激しい衝突音の埌、圌女の顔の錻から䞊半分が朰れ、郚屋䞭に四散した。
  名護の顔にもその血飛沫ず、肉片が飛び散り、真っ赀に染たる。
  圌はその䞀郚始終を目の圓たりにさせられ、恐怖ず緊匵の限界を、いずも簡単に匟き飛ばされた。倱犁に滎るズボンさえも気づかない皋に、圌の心ず身䜓は『恐れ』に支配された。
『か、かな、め  』
  匕き぀った唇から、圌が絞り出した蚀葉は、その名前だった。


぀づく
  


  


  


いいなず思ったら応揎しよう