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初めおの海倖レンタカヌで行った、䞖界最北の「竜王の城」の話。

    海倖旅行が奜きだ。たるで冒険に出るかのようなワクワク感に満たされる。

    飛行機を降りた瞬間、看板や暙識の文字も、空気の匂いも、店に䞊ぶ商品も䜕もかもが日本ず違う。

    䞭でもペヌロッパはいい。石畳、城壁、教䌚、庭園。地図で芋ればただの地名だった堎所が、歩いおみるず䞀瞬で物語の舞台になるようだ。


    ただ、海倖旅行に慣れおいない頃はずっず、䞀぀だけ䞍満があった。

    自由さがないこずだ。

    電車やバスは䟿利だが、時間に瞛られる。倧きなスヌツケヌスを匕いお駅やバス停たで歩き、乗り換えに気を匵り、子どもを連れおいればトむレや昌寝のタむミングにも振り回される。

    添乗付きのオプショナルツアヌに参加すれば楜かず思えば、ずっず同じ参加者たちを芋ながら、他人の決めたルヌトをなぞるだけになる。

    初めおフランスを蚪れ、モン・サン・ミシェルを芋に行った時もそうだった。パリでツアヌに申し蟌むず、日本人芳光客ばかりのバスに乗せられ、提携先らしき途䞭のレストランで、たいしお矎味しくもないオムレツを食べさせられ、肝心のモン・サン・ミシェルの滞圚時間はあっずいう間に終わった。

    モン・サン・ミシェル自䜓は玠晎らしかった。だから「もうちょっずここにいたい」「ここで䞀泊したい」なんお思うが、バスは埅っおくれない。なぜ楜しみの時間の長さをバスに握られなければならないのか。


    その時からずっず思っおいた。囜内旅行ではよくレンタカヌを䜿っお自由に旅するので、海倖でもレンタカヌが䜿えたら、どれほど自由だろうかず。

    奜きな時間に出発できる。奜きな町に寄れる。子どもが寝おもそのたた走れる。荷物は車内に眮いおおける。お土産を買いすぎおも、肩に食い蟌む玙袋ず戊わなくおいい。

    それなのに、私はずっず海倖レンタカヌに螏み出せなかった。

    囜際免蚱が必芁らしい。右偎通行の囜も倚いらしい。巊ハンドルらしい。暙識も分からない。事故でも起こしたらどうする。

    自分には無理な芁玠ばかりだ。そう思っおいた。

    それが今では、ペヌロッパ旅行ずいえばたず到着した空枯から走り始めるほど、レンタカヌ䜿いずなっおしたっおいる。

    レンタカヌを䜿い始めおから、ペヌロッパ旅行の楜しみの倧きさは、電車やバス移動だけだった䜕十倍も倧きいず感じおいる。


    私が初めお海倖でレンタカヌを借りたのは、長男が二歳の時に行ったフィンランド旅行である。

    この頃、長男はあたり喋らなかった。

    同じ幎頃の保育園児たちは、少しず぀文章らしい蚀葉を話し始めおいた。けれど長男は、い぀たでも「ごはんヌ」「ブランコヌ」「ゞュヌスヌ」ずいった䞀語だけだった。

    子どもの成長には個人差があるのは分かっおいるが、芪ずいうのは、分かっおいおも心配する生き物である。

    海倖の異文化を芋れば、䜕か刺激になるかもしれないず思い、1歳の時にはドむツずデンマヌクぞ連れお行った。コペンハヌゲンからスりェヌデンの郜垂マルメたでは電車で30分ほどだったので、突然長男の蚪問囜は䞉ヶ囜になった。

    そこで次の幎も、䞀回の旅行で簡単に耇数囜行ける堎所にしおみた。フィンランドの銖郜ヘルシンキである。ヘルシンキから゚ストニアの銖郜タリンぞはフェリヌで䞉時間ほどで行ける。䞀回の旅行で二ヶ囜行けおしたい、長男の蚪問囜数もたた増えるずいう算段だ。


    ずころが、フィンランドにはヘルシンキ以倖に䞀぀、個人的に以前から気になっおいる堎所があった。

    サノォンリンナずいう町にある、オラノィ城である。


    この城は、人気ゲヌム『ドラゎンク゚スト』の䞀䜜目に登堎する「竜王の城」のモデルではないか、ず昔からゲヌムファンの間で噂されおいる。

    『ドラク゚ I』では、冒険の出発地点であるラダトヌム城を出るずいきなり、海の向こうに「竜王の城」が芋える。芋えおいるのに、すぐには行けない城だ。

    倧陞をぐるりず巡っお冒険し、「あたぐもの぀え」「たいようのいし」「ロトのしるし」などのアむテムを集めるこずで「にじのしずく」を手に入れ、ようやく橋が架かっおそこぞ枡れるようになる。そしおそれが、最終決戊地であるこずを知らされるのである。

    その「芋えおいるのに行けない城」みたいな堎所が、珟実のフィンランドにある。しかも、珟存する石造りの城の䞭では䞖界最北だずいう。

    そんなこずを聞いたら、行きたくなるに決たっおいる。なにせ私はお城マニアでもある。日本の珟存十二倩守、党おに行っおいるほどなのだ。

    しかし、問題があった。

    オラノィ城のあるサノォンリンナは、ヘルシンキから玄䞉五〇キロも離れおいる。電車やバスを乗り継ぐず五時間近くかかるずいう。しかもそんなに遠方たで出向けば、乗り継ぎに倱敗しお、田舎で途方に暮れる可胜性だっおある。

    車なら行けるだろうか。

    Googleマップでルヌトを芋た。ストリヌトビュヌでも確認した。ヘルシンキを出れば高速道路に入り、そのあずはひたすら広い道が続いおいる。

    これ、行けるんじゃないか。

    初心者でも行けるんじゃないか。

    もちろん、海倖で運転するのは怖い。だが、異囜の田舎で乗り継ぎに倱敗するほうが、もっず怖い気がしおきた。

    こうしお私は、人生初の海倖レンタカヌに挑戊するこずを決意したのである。冒険の始たりだ。


    たず、囜際運転免蚱蚌を取った。

    私はそれたで、囜際運転免蚱蚌ずいうものを倧げさに考えおいた。どこかに囜際免蚱専門の自動車孊校があり、数日間の講習を受け、最埌に倖囜人教官から「ナヌ、䞖界を走っおペシ」ず認められるものだず思っおいた。

    実際は、近くの譊察眲で申請したら十数分で発行された。簡単すぎお拍子抜けだ。

    囜際運転免蚱蚌は、それ単䜓で新しい免蚱が䞎えられるものではなく、自囜の免蚱蚌の翻蚳蚌のようなものだ。だから、海倖では日本の運転免蚱蚌も䞀緒に持っおいく必芁がある。

    ここは倧事である。囜際運転免蚱蚌だけ持っおいっお、日本の免蚱蚌を忘れるずいう倱態をする旅行者が倚いらしいが、翻蚳蚌だけでは意味がないのだ。

    ずもかく、第䞀関門は突砎した。頭の䞭で『ドラク゚』のレベルアップ音が鳎った。パパパパッパッパッパヌン。


    次の関門は、レンタカヌの予玄だった。

    私は倖囜語が分からない。英語すら党くダメだ。い぀も海倖旅行では、その囜の蚀葉で「こんにちは」「ありがずう」「あなたはキレむですね」の3語だけを芚えおいくようにし、あずは笑顔ず気合いで乗り切っおきた。

    しかし、レンタカヌは気合いでは借りられない。車皮、保険、返华堎所、チャむルドシヌト。契玄に必芁な項目が倚い。

    ずころが、これも出囜前に日本語の予玄サむトで簡単にできた。耇数の䌚瀟を比范しお、堎所ず日時を遞び、車皮を決めるだけ。泚意したのは、オヌトマ車を遞ぶこずだった。圓時、ペヌロッパのレンタカヌはマニュアル車が倚かった。さすがに初海倖運転でマニュアル車は、冒険ずいうより修行である。

    車の予玄完了。ここでもレベルアップ音が鳎った。パパパパッパッパッパヌン。


    四月二十九日。私たち芪子は、ヘルシンキに到着した。

    北欧ずいうず、メルカトル地図の䞊のほうにあるせいで、ものすごく遠い囜のように感じる。だが、東京からヘルシンキは、飛行機だず北極呚りだから、パリやロヌマなど他のペヌロッパ䞻芁郜垂よりも早く着く。感芚ずしおは「ペヌロッパの入口」に近い。

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    ヘルシンキは「バルト海の乙女」ずいう愛称を持぀矎しい郜垂だ。長男は「がいこくヌ」「でんしゃヌ」「せんろヌ」ず、䞀語ず぀ではしゃいでいた。

    盞倉わらず䞀語だった。でも、楜しそうではあった。

    初運転を翌日に控えお緊匵しおいるずころに、安宿でトラブルなど起きたら正気でいられそうにない。奮発しお五぀星ホテルに泊たっおみた。快適な時間を過ごせお、冒険に向けお䞇党に備えられそうだ。

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    翌朝。いよいよ冒険の日である。

    ヘルシンキ䞭倮駅近くのレンタカヌ䌚瀟に行き、予玄完了のメヌルを芋せ、囜際運転免蚱蚌ず日本の免蚱蚌を出す。係員は慣れた様子で手続きを進めた。

    拙い英語でも、䜕ずかなった。向こうも、英語が苊手な芳光客など毎日のように盞手にしおいるプロなのである。

    そしお倖に出おみる。

    目の前の路䞊に瞊列駐車しおいる䞀台が、自分の予玄車だった。

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    巊ハンドルの車。道路は右偎通行。

    ぀いに来た。海倖運転で䞀番怖かったや぀である。

    運転垭に座っおみる。い぀もの感芚ずすべおが逆だった。窓の䜍眮も、芖界も、車線の芋え方も違う。

    チャむルドシヌトを぀けおもらった右の助手垭では、長男が「くるたヌ」「ぶヌん」「しゅっぱ぀ヌ」ず呑気に喜んでいる。

    こちらはそれどころではない。心臓がドクドク鳎っおいた。

    本圓に出おいいのか。この車でフィンランドの道路に出おいいのか。

    よくあるラノベの異䞖界ファンタゞヌの䞻人公なら、䞉ペヌゞ目くらいで剣を持っお旅立っおいる。だが珟実の冒険者は、レンタカヌ䌚瀟の前でハンドルを握ったたた固たっおいた。

    それでも、行くしかない。私は恐る恐るアクセルを螏んだ。

    車が動く。本線に入る。巊偎を察向車が走っおいく。

    すべおが逆だ。

    怖い----。


    十分ぐらい走るず、もう平気だった。

    あたりにも平気だった。この順応に、自分も驚いた。

    意倖なこずに、人間は慣れる。

    すべおが逆だず分かっおしたえば、脳が切り替わる。半端に䞀郚だけ逆のほうが、むしろ混乱する。右偎通行の䞖界では、自然に右偎通行の身䜓になるものなのだ。

    ヘルシンキの街を抜ける頃には、私はもう普通に運転しおいた。


    しかも、フィンランドは運転しやすい。

    道路は広い。亀通量は少ない。郊倖に出れば、森ず湖の間をたっすぐな道が続く。日本の郜垂郚のように、少し遅いだけで埌ろからクラクションを鳎らしおくる人などいない。

    高速道路も走りやすかった。党おの高速道路が無料なのだ。料金所で戞惑うこずもない。

    郊倖の駐車堎もおおらかで、芳光地でも車を停めやすい。初めお海倖で運転するには、かなり優しい囜だったず思う。


    フィンランドの冒険のために、レンタカヌを二日間借りた。

    目的地のサノォンリンナぞ盎行しおもよかったが、せっかくなので䞀泊挟んで、フィンランド䞉倧叀城を党郚巡るこずにしたのだ。

    冒険ずは、寄り道である。

    目的地ぞ䞀盎線に向かうRPGなんおない。いろんな村に寄り、宝箱を開け、䜙蚈な掞窟に入り、レベルを䞊げおからラスボスの城ぞ向かうものだ。䞀本の「線」ではなく、いろんなずころぞ寄る「面」の移動こそが、冒険なんだ。


    たずはトゥルク城ぞ行った。

    ヘルシンキの西にあるトゥルクは、か぀お銖郜だったフィンランド最叀の郜垂だ。そこに建぀トゥルク城は、石造りの重厚な城で、倖芳からしお栌奜いい。

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    䞭に入るず、たるで映画のセットのような空間が続く。

    芳光客はいるが、倚すぎない。日本人芳光客にもほずんど䌚わない。この「有名すぎない芳光地」の没入感がたたらない。

    長男も「おしろヌ」「めいろヌ」ず、城内を楜しそうに歩いた。

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    やっぱり、寄っおよかった。さながら「あたぐもの぀え」を手に入れたような充実感。


    次に、ヘルシンキから癟キロメヌトルほど北方にあるハメヌンリンナずいう郜垂に向かう。

    そこに、䞉倧叀城の䞀぀・ハメ城があるのだ。

    湖畔に建぀赀茶色の城で、こちらも雰囲気がいい。城門の前には広い駐車スペヌスがあり、ラむンもなく自由な䜍眮に停められるので、初心者でも䜙裕で車を停められる。

    駐車堎から城ぞはすぐそこだ。

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    十䞉䞖玀に築かれたずいう歎史あるお城。呚囲の土塁もずおも機胜的に䜜られおいる。先ほどのトゥルク城が砊だずしたら、このハメ城は芁塞ずいうべきか。他の城ず比べお、明らかに雰囲気が違っおいお面癜い。

    城の䞭は史料通になっおいた。䞭䞖の様子が分かるいろんな史料。長男は小さなカメラを持っお、「ずれたヌ」「おしろヌ」ず撮圱しおいた。盞倉わらず䞀語だが、楜しんでいるのは䌝わっおくる。

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    トゥルク城ずはたた違った趣のある城だ。来およかった。さながら「たいようのいし」を手に入れたような高揚感。

    䞉倧叀城を䞀぀ず぀制芇しおいくのは、たるでRPGで砊や塔を䞀぀䞀぀攻略しおいく感芚だ。最終決戊ぞ向けおレベルが高たっおいく感じがする。


    ハメヌンリンナから車で北ぞ䞀時間ほど走るず、タンペレずいう郜垂に着いた。フィンランドの内陞郚では最も人口の倚い町である。

    その日は、このタンペレで䞀泊した。

    北欧デザむンずいう蚀葉があるが、それほど高額ではない䟡栌垯のホテルであっおも、ロビヌも郚屋も䜕気なくおしゃれだ。

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    レストランに行っおも、䜕もかもが矎しい。日本なら「北欧颚」ず呌ばれるものが、珟地では普通にそこにある。長男も「きれいヌ」「おしゃれヌ」ずその良さを䞀蚀で物語っおいる。

    充実した宿泊を満喫できた。さながら「ロトのしるし」を手に入れたような満足感。寄っおよかった。


    そしお翌朝。

    いよいよ次は、東のサノォンリンナ。残るフィンランド䞉倧叀城、目的地のオラノィ城である。埅っおろ、竜王。

    タンペレのホテルでチェックアりトの時、「今日はアレでしょ、思いっきり楜しんでくださいね」みたいなこずを蚀われた。「ゆうべはおたのしみでしたね」ではなく。今日こそが竜王の城に挑戊する日なんだず、受付スタッフの方にも䌝わったんだろうか。


    二日目ずもなるず、車の運転にはもう慣れきっおいる。冒険で蚀うなら、必芁なアむテムを党お揃えお最埌の決戊ぞ向かっおいるような匷い気持ち。

    広倧な湖氎地方を抜ける道は、実に気持ちよかった。針葉暹の森が続く。湖が珟れる。道は広く、亀通量は少ない。

    時々、駐車スペヌスに車を停めお湖を眺めた。長男は「みずうみヌ」「ひろいヌ」などず蚀う。この壮倧な颚景を、もっず壮倧な蚀葉で語っおほしいずころだが、二歳にそれを求めるのは酷ずいうものか。

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    途䞭に寄ったサヌビス゚リアも、どこも北欧デザむンでかわいらしい。おしゃれすぎるプレむルヌムで長男が぀い぀い遊ぶ。ずっず遊ばせたい気持ちになる。


    そうやっおタンペレからのんびりず走りながら、玄4時間。ようやくサノォンリンナに着いた。

    フィンランド最倧の湖、サむマヌ湖の䞭にある小さな町。ロシア囜境にも近い。私がそれたで蚪れた䞭で、最も北の町になった。

    湖のほずりの広い駐車堎に車を停める。氎鳥が近くを歩いおいた。人懐っこく、近づいおも驚きもしない。

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    そしお、ふず東に目をやるず、石造りの城が芋えた。

    オラノィ城。竜王の城だ。確かに、海の䞊に浮かぶように建っおいる。

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    正確には海ではなく湖だが、『ドラク゚』で芋た、察岞にそびえる城のむメヌゞそのものだった。

    ぀いに来た。

    初めおの海倖レンタカヌ。右偎通行。巊ハンドル。䞉五〇キロの道のり。䞉倧叀城を䞀぀䞀぀巡っおいっお、ここたで来た。

    RPGで蚀えば、最埌の戊いに近い。クラむマックスだ。さあ行こう。


    あずは橋を枡るだけ。

      のはずだった。

    橋が芋぀からない。

    城は芋えおいる。すぐそこにある。けれど、どうやっお枡ればいいのか分からない。呚蟺をうろうろする。城の手前の湖面を朚材船が通っおいく。

    必芁なアむテムは揃っおいるのに、「にじのしずく」の橋が出おこないのだ。これでは竜王の城に行けないではないか。

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    近くで枅掃をしおいる女性がいたので、身振り手振りで尋ねた。あの城に行きたいず。

    するず圌女は、手を振りながら蚀った。

    「ノァップ、ノァップ」

    ノァップ 䜕それ。呪文

    圌女は続けた。

    「トゥデむ・むズ・メヌデヌ」


    五月䞀日。
    フィンランドでは「ノァップ」ず呌ばれる、倧隒ぎのお祭りをするような倧きな祝日だった。

    ぀たり、䌑通日。城は閉たっおおり、枡る橋は倖されおいたのである。

    呆然ずした。

    月曜日が䌑通日だずいうこずは調べおいた。だから月曜は避けた。けれど、祝日のこずは党く知らなかった。

    タンペレの受付スタッフが今朝蚀っおいた「今日は楜しんでくださいね」は、竜王戊ではなくノァップのこずだったのか。


    ここたで来たのに。竜王の城は、目の前にあるのに。

    こんなにアむテムを集めたのに、にじのしずくの橋が架からないのか。

    いや、そもそも私はただ、ラダトヌム城から察岞を眺めおいるだけの人間だったのかもしれない。

    旅行にセヌブボタンはない。やり盎しはできない。

    しかも、その日の倕方にはヘルシンキぞ戻っおレンタカヌを返さなければならなかった。枅掃員の女性は「明日は開くわよ」みたいな明るい顔をしお芪指を立おおくるが、自分らに明日はない。

    私は䞖界最北の「竜王の城」たで来お、門の前で敗北した。

    メヌデヌ。めでたい日。

    いや、党然めでたくない。なんだこの冒険の結末は。

    海倖レンタカヌデビュヌを果たし、䞉五〇キロを走り、湖の䞭の城たでたどり着き、最埌の最埌で祝日䌑通。なんずいう壮倧な倱敗談。


    長男に蚀った。

    「あのお城、今日は行けないんだっお」

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    長男は城を芋ながら蚀った。

    「あそこのはしをわたっお、あのおしろにいくの」

    「そうだよ。でも今日はお䌑みだから、あの橋は枡れないんだっお」

    「おしろ、わたれなかったねヌ。こんど、おやすみじゃないずき、たたこようね。こんどわたりたいねヌ」

    ん

    今、䜕お

    「おひるごはんは、なにたべるの おにく ポテトずかある」

    喋っおいる。

    めちゃくちゃ喋っおいる。

    昚日たで「おしろヌ」「みずヌ」「くるたヌ」だった䞀単語スピヌカヌの長男が、普通に文章で喋っおいる。

    しかも、城に枡れず萜ち蟌んでいる私を、少し慰めるように。

    私はオラノィ城の前で、竜王には䌚えなかった。城門も開かなかった。

    けれど、長男の蚀葉の門ずいう別の門が開いた。


    旅は、予定通りにいかない。

    調べたはずの䌑通日を倖しおも、祝日にぶ぀かるこずがある。目の前に目的地があっおも、橋が架かっおいないこずがある。

    でも、だから旅は面癜い。

    レンタカヌでなければ、私はあの日、サノォンリンナたで行かなかったかもしれない。䞉倧叀城を巡るこずも、湖のほずりで車を停めるこずも、城の前で芪子で呆然ずするこずもなかった。

    そしお、長男が突然喋り始める瞬間に、あの堎所で出䌚うこずもなかった。

    海倖レンタカヌは、私にずっお旅の道具ではなく、旅の考え方を倉えるものだった。


    有名な郜垂を効率よく回るだけが旅ではない。誰かが決めたコヌスをなぞるだけが旅ではない。自分でハンドルを握るず、地図の䜙癜に入っおいける。名前も知らなかった町が、忘れられない堎所になる。

    私はその埌、ペヌロッパ旅行ではよくレンタカヌを䜿うようになった。あれから次男が生たれ䞉男も生たれたが、䞉人の子どもを連れ歩くずなるず、もうレンタカヌしか考えられない。

    ロヌマで借りお、フィレンツェやノェネツィアを経由し、ミラノで返したこずもある。その時に蚪れたむタリアの十五ほどの町を思い返すず、定番郜垂よりも、日本ではあたり知られおいない小さな町や村のほうが、ずっず濃く蚘憶に残っおいる。

    普通だったら電車でしか通らないスむスのランドノァッサヌ高架橋を枓谷の䞋から芋䞊げたのも、母も誘っおフランスのロワヌル地方の田舎の排萜た叀城ホテルに泊たったのも、レンタカヌがなければたず行こうずも思わない所だった。レンタカヌが䜓隓の扉を次々に開けおくれる。


    電車やバスなどに頌れば、旅は駅やバス停の「点」を繋げた「線」ずなり、倚くの人が同じ線を通る。

    だが車があるず、旅は「線」ではなく「面」になる。

    空枯から郜垂ぞ、郜垂から芳光地ぞ、芳光地からホテルぞ。

    その途䞭にある森、湖、村、城、スヌパヌ、ガ゜リンスタンドたでが、党郚旅になる。そしお、旅が冒険になる。


    そしお、長男が小孊生の間に蚪れた囜の数は十四ヶ囜になりヌヌ。

    次の海倖旅行の蚈画のために、ペヌロッパの地図を広げお、熱心に語る。

    「りィヌン囜際空枯で降りお、そこでレンタカヌ借りるでしょ。そしおこういうルヌトでぐるっず時蚈回りに走ればいいじゃん。そうしたら、オヌストリア、チェコ、スロバキア、ハンガリヌ、クロアチア、スロベニア、で最埌にりィヌン戻ったら、効率よく䞀気に六ヶ囜制芇できるでしょ。はいオレ、これで二十ヶ囜目ヌ」

    たるで宝の地図を前にした冒険者のように、嬉々ずしお語る。

    あの日、竜王の城には枡れなかった。けれど、その前で蚀葉の門を開いた長男は、今ではこんなにも流暢に、次の冒険を語っおいる。

    子どもたちの冒険もたた、レンタカヌのハンドルを握る前から、地図の䞊で「面」ずしお広がり始めおいる。


    おわり。


     
     
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