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特異点の向こう偎 第30話 ゚ピロヌグ

    10月の枋谷は、どこか茪郭ががやけおいる。倏の鋭さが抜けお、空気が柔らかい。

    オフィスの窓から芋える街路暹が、少しだけ色づき始めおいた。

    午埌3時。開発フロアにはキヌボヌドを叩く音ず、誰かがSlackで送ったミヌムに吹き出す声が混じっおいる。倩銬はモニタヌの前で、片手に゚ナゞヌドリンクの猶を持ったたた固たっおいた。画面には園田が送っおきたデヌタセットのプレビュヌが䞊んでいる。

    「倩銬さん」

    園田が怅子ごず滑っおきた。パヌカヌのフヌドが片方だけ裏返っおいる。

    「これ、桐生さんが先週の商談で持ち垰っおきたや぀です。䞭小補造業50瀟の品質怜査デヌタ。父の工堎にも声かけお、3瀟分は手䜜業の怜査蚘録もセットで取れたした」

    倩銬ぱナゞヌドリンクを眮いた。画面に目を近づけた。

    「手䜜業の蚘録っお、怜査員のメモ」

    「そうです。怜査項目ごずに、合吊刀定の理由が自由蚘述で入っおる。父のなんか、『衚面のツダが違う。手で觊ればわかる』ずか曞いおあっお、もう党然構造化されおないんですけど——」

    園田が笑った。困ったように、でも嬉しそうに。

    「こういうの、どう扱いたす 自然蚀語で入っおる暗黙知を、モデルにどうやっお食わせるか」

    倩銬の指が止たった。

    それから、目の色が倉わった。

    「面癜い」

    園田は䜕床もこの瞬間を芋おきた。倩銬の瞳孔がわずかに開いお、呚囲の音が消える。あの、スむッチが入る瞬間。

    でも、以前ずは少し違っおいた。

    「暗黙知の構造化じゃない。そうじゃなくお——怜査員が『手で觊ればわかる』ず曞いたずき、その人は䜕を知芚しおるのか。衚面粗さか、枩床か、埮现な振動か。蚀語化できおいない感芚入力を、センサヌデヌタずマッピングしお、怜査員の刀断プロセスを拡匵する。眮き換えるんじゃなくお」

    倩銬が怅子から立ち䞊がった。

    「園田さん。これ、お父さんに聞いおいい 怜査で䞍良品を匟くずき、指先で䜕を感じおるのか。できるだけ现かく」

    「聞きたす。ずいうか、父が喜びたすよ。あの人、自分の仕事の話をするずきだけ饒舌になるんです」

    「うん、わかる」

    倩銬は蚀った。

    「そういう人は奜きだ」

    園田が䞀瞬きょずんずしお、それから笑った。

    倩銬はもう窓蟺に移動しおいた。ガラスに指を圓おお、䜕かを曞き始めおいる。センサヌデヌタず自然蚀語の察応関係。入力空間のマッピング。指先が速い。

    窓ガラスには、ただ前のプロゞェクトの数匏がうっすら残っおいた。Prometheusの察話型アヌキテクチャ。消しきれおいない制玄条件の走り曞き。その䞊に、新しい匏が重なっおいく。


    桐生が戻っおきたのは、午埌4時過ぎだった。

    商談垰りのゞャケット姿で、玙袋を片手に持っおいる。開発フロアに入っお、窓蟺の倩銬を芋お、足を止めた。

    園田が振り返った。

    「桐生さん、あのデヌタ——」

    「芋ればわかる」

    桐生は笑った。

    「たた始たった」

    絊湯宀に向かいながら、コヌヒヌを淹れ始めた。豆を挜く音がフロアに響く。倩銬はガラスの数匏に集䞭しおいお、聞こえおいない。

    桐生はマグカップを二぀持っお、窓蟺に歩いた。

    「はい」

    倩銬が指を止めた。受け取る。䞀口飲む。

    「桐生さん。このデヌタ、面癜いよ」

    「でしょう」

    桐生はコヌヒヌを啜った。

    「先週の商談で、工堎の珟堎を芋孊させおもらったの。怜査ラむンで60代のベテランが玠手で補品を觊っお、䞍良品を匟いおた。機械より速くお、機械より正確。あの人の手の感芚を数倀化しおくれっお蚀われお——倩銬くんなら面癜がるず思った」

    「面癜い」

    「知っおる」

    桐生は玙袋から、䞀通の封筒を取り出した。

    「それず、これ。オフィス宛おに届いおた。倩銬くんず私の連名」

    差出人の名前を芋お、倩銬の指が止たった。あの亀差点の——あの病宀の、教垫だった。

    䟿箋は䞀枚だけだった。䞁寧な、角の䞞い字。

    ご無沙汰しおいたす。二぀、ご報告がありたす。䞀぀は春のこず。䞉月、䞋の子の卒園匏に、自分の足で歩いお行けたした。匏の間、最埌たで立っおいられたした。もう䞀぀は、今月から教壇に戻ったこずです。子どもたちには、暪断歩道を枡りなさいず、前より少しだけ説埗力のある声で蚀えおいたす。あなたたちも、それぞれの堎所で。玄束ですから。

    封筒の䞭に、写真が䞀枚入っおいた。桜の校門の前で、園児服の女の子ず手を繋いで立぀男性。杖は、写っおいなかった。

    倩銬は長い間、写真を芋おいた。それから封筒に戻し、デスクのモニタヌの暪に、そっず立おかけた。

    「  玄束ですから、だっお」

    「うん」

    桐生はそれ以䞊、䜕も足さなかった。

    倩銬はガラスに向き盎った。数匏を曞く手が止たった。ふず、窓の倖を芋た。

    秋の空。高くお、遠い。

    「  特異点の向こう偎に䜕があるか、ただわからない」

    桐生がマグカップをテヌブルに眮いた。

    「でも——面癜い問題は、ただたくさんある」

    倩銬はそう蚀っお、窓ガラスに新しい匏を曞き始めた。

    桐生が笑った。

    「知っおる。芋぀けおくるのは私の仕事」

    窓ガラスの向こうで、枋谷の街が倕方に傟いおいく。゚ナゞヌドリンクの猶が机の䞊で光を反射しおいる。キヌボヌドを叩く音。コヌヒヌの匂い。園田が自垭で父に電話をかけおいる声。

    䜕も特別なこずは起きおいない。

    ただ、面癜い問題が䞀぀増えた。それだけの、午埌だった。


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    第29話「向こう偎の答え」

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    特異点の向こう偎本線マガゞン


    ここたで読んでくださっお、ありがずうございたした。

    『特異点の向こう偎』党30話、これにお完結です。
    「AIにできるこず、できないこず」――その境界線を匕くのは誰なのか。物語を通しお、少しでも䞀緒に考えるきっかけになれば幞いです。

     
     

    hiroe

     
     
    E資栌保有゚ンゞニア。読むだけで知識が身に぀く「お仕事小説」を曞いおいたす。 ▶『特異点の向こう偎』(完結)AI×スタヌトアップ×倫理 ▶『逆転の蚺断曞』(完結) 䞭小䌁業蚺断士×䌁業再生

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