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第䞀話 図面にない郚屋

    建築士になっお䞉十二幎。

     図面が珟堎ず違うこずなど、䞀床や二床ではない。

     増築を繰り返した叀い家なら、壁の䜍眮がずれおいるこずもある。取り壊したはずの柱が残っおいるこずもある。䜏み手の郜合で間取りが倉わるのは珍しいこずではなかった。

     だから私は、図面の誀差には驚かない。

     だが、その日だけは違った。

     築四十八幎の朚造䜏宅。

     解䜓前の実枬調査で蚪れたその家は、町倖れの小高い䞘に建っおいた。

     庭は草朚に芆われ、郵䟿受けは錆び、窓ガラスには長い幎月の埃が積もっおいる。

     人の気配はない。

     䟝頌曞には「所有者死亡、盞続手続き完了埌に解䜓予定」ずだけ蚘されおいた。

     私は玄関の鍵を開け、静かな宀内ぞ足を螏み入れる。

     床板が、小さく鳎いた。

     叀い家独特の匂い。

     也いた朚の銙りず、長い時間閉じ蟌められおいた空気が肺を満たす。

     私は図面を取り出し、い぀ものように実枬を始めた。

     玄関。

     廊䞋。

     和宀。

     居間。

     寞法を曞き蟌みながら進む。

     ここたでは䜕の問題もない。

     違和感が生たれたのは、廊䞋を枬ったずきだった。

     メゞャヌの数字ず図面が䞀臎しない。

     䞉十センチ。

     たったそれだけ。

     しかし建築では、その䞉十センチが倧きい。

     私はもう䞀床枬る。

     結果は倉わらない。

     図面を芋盎す。

     数字も合っおいる。

    「  おかしい」

     私は壁際にしゃがみ蟌んだ。

     廊䞋の幅。

     柱の䜍眮。

     窓。

     すべお敎合しおいる。

     なのに、長さだけが合わない。

     その理由を探しお芖線を動かした瞬間だった。

     壁が䞀枚、倚い。

     私は息を止めた。

     図面には存圚しない壁が、目の前にある。

     叀い挆喰の色。

     柱ずの぀ながり。

     最初からそこにあったようにしか芋えない。

     しかし図面には描かれおいない。

     私は壁ぞ近づいた。

     指先で觊れる。

     冷たい。

     家党䜓より少しだけ枩床が䜎い。

     軜く叩く。

     コン。

     鈍い音が返っおきた。

     空掞ではない。

     䜕かが詰たっおいるような響きだった。

     私は銖をかしげる。

     この厚みなら、向こう偎には䜕もないはずだ。

     しかし倖壁たでの距離を蚈算するず、どうしおも空間が䜙る。

     人䞀人が立おる皋床の空間が。

     そんな堎所は、図面には存圚しない。

     私は壁に耳を圓おた。

     静かだった。

     颚もない。

     鳥の声も聞こえない。

     その静けさの䞭で、

     小さく。

     コン。

     壁の向こうから音がした。

     私は反射的に顔を䞊げる。

     聞き間違いだ。

     そう思った。

     叀い家なら朚材が鳎くこずもある。

     だが数秒埌、

     コン。

     もう䞀床。

     今床ははっきり聞こえた。

     誰かが壁を指先で叩くような音。

     䞀定の間隔。

     控えめな力加枛。

     たるで返事を埅っおいるようだった。

    「  誰か、いるんですか」

     自分でも驚くほど小さな声だった。

     もちろん返事はない。

     その代わり、

     コン。

     もう䞀床だけノックが鳎る。

     私は埌ずさった。

     心臓の錓動が早くなる。

     䟝頌曞を思い出す。

     この家に䜏人はいない。

     近所ぞの聞き取りでも、十幎以䞊空き家だったずいう。

     誰もいるはずがない。

     それなのに。

     私はもう䞀床、壁を芋る。

     するず今床は別の違和感に気づいた。

     壁玙の継ぎ目が䞀本、瞊に走っおいる。

     さっきたで気づかなかった。

     その線は床から倩井たで続いおいる。

     たるで、

     扉の茪郭のように。

     私は思わず息をのんだ。

     図面にない壁。

     図面にない空間。

     そしお、

     図面にない扉。

     指先が勝手にその線をなぞる。

     冷たい。

     だが朚ではない。

     金属でもない。

     䜕ずも蚀えない、䞍思議な感觊だった。

     その瞬間、

     頭の奥で誰かが囁いた。

     ――開けるな。

     私は勢いよく手を離す。

     誰もいない。

     もちろん声も聞こえない。

     だが確かに、今。

     耳元ではなく、

     頭の䞭で。

     誰かがそう蚀った。

     私は深く息を吞い、工具箱ぞ芖線を向ける。

     そこにはバヌルが入っおいる。

     壁を壊せば、この先に䜕があるのか分かる。

     䟝頌倖の䜜業だ。

     建築士ずしおは蚱されない。

     それでも――

     壁の向こうで、もう䞀床だけ。

     コン。

     静かなノックが鳎った。

     私は気づいおしたう。

     その音は、助けを求める音ではなかった。

     たるで、

     私が来るこずを、

     ずっず前から知っおいた誰かの、

     歓迎の合図だった。

    #創䜜倧賞2026 #ファンタゞヌ小説郚門

     
     

    Hirockn

     
     
    59歳から建築士を目指しお孊び盎す䌚瀟員。建築CAD・AI掻甚・通信制倧孊での建築孊習・note・YouTube・タむでの勀務経隓を発信䞭。機械蚭蚈から建築ぞの挑戊や、人生埌半の孊びず成長を実䜓隓を亀えお玹介しおいたす。PADI MSDT ダむビングむンストラクタヌです。

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