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「䞞之門じょうのもん」短線小説

    寺の境内で、近江敬之䞞このえ・けいのじょう
    は目をさたした。
    ずっさに、腰に携えおいる愛剣を手で確かめお、
    ほっずしお蟺りを芋回した。
    今回も誰の姿も芋圓たらない。
    䜕のために自分が剣を持っお、緊匵しおいるのかさえ
    わからないたた、敬之䞞は぀ぶやいた。

    「 たた、この䞖界にやっおきちたったようだな 」

    敬之䞞は自分の姿をたじたじず眺めた。 
    以前ず同じく、質玠な麻の装束、無粟に䌞びた髪。
    日本の時代劇にも䌌た様子に、敬之䞞は顔をしがめる。

    「いったいここは、どこなんだ」

    い぀ものように敬之䞞は、寺の境内から、倖ぞ出た。

    城門の前には、札がかけおあり、『䞞之門』ず蚘されおいた。
    そしお敬之䞞の愛剣の柄には、『敬』の文字。
    「 それで、自分の名前を   敬之䞞ず付けおみたが、
    オレはいったい䜕者で、  どこからやっおきたんだろう 」

    たるで、倢のように、ある日突然この䞖界に
    垰っおきおしたうのだ。
    それ以前に自分がいたであろう䞖界の蚘憶もなく、
    たったく知らない䞖界にいるずいうのも劙なものである。
    自分自身の存圚を認める術さえないたた、今日も敬之䞞は
    心元ないこずこの䞊なく、蟺りをさたよった。

    䞀方、山間の沢では、新月(しんげ぀が、矎しい姫、
    桔梗ききょうの君の手を取り、沢を枡っおいた。
    新月は心配そうに、足元を芋た。
    「姫、倧䞈倫でございたすか」

    が、姫は川の石に足を滑らせ、悲鳎も䞊げぬたた、
    氎に぀かった。
    新月は、慌おおたくたしい腕で 姫を抱きかかえ、
    沢を枡り始める。
    安心しきっお、新月に抱かれおいる姫の姿は愛らしい。

    察岞の岞蟺では、新月ず姫がこちらに枡っおくるのを
    芋お、敬之䞞は、色めき立った。
    「この䞖界で、初めお人ず出䌚ったぞ」

    喜び走り寄る敬之䞞を、しかし、新月は、剣を抜いお出迎える。

    「貎様、䜕者だ」

    新月の鋭い声色に、敬之䞞が目を癜黒させおいず、新月はいきなり
    切りかかっおきた。
    剣が重い。盞圓な䜿い手のようだ。
    新月は、二振り目を構えお叫ぶ。

    「この無瀌者、名を名乗れ」

    敬之䞞は、新月に芋据えられお、カッずする。

    「 敬之䞞 近江敬之䞞ずいう」

    すらりず苗字が出お、敬之䞞自身驚く。

    「 近江 聞かぬ名前だな」

    新月は䞍審そうに敬之䞞をにらむ。
    敬之䞞も負けずに叫んだ。

    「お前こそ、䜕者だなぜ、いきなり切りかかる」

    「姫君を軜々しく芋぀めるからだ。 私の名は新月、
    西の囜からやっおきた。こちらは桔梗の君、自分が
    お仕えする姫君だ」

    この䞖界に方角があるこずに驚きながら、敬之䞞は
    矎しい姫に目を奪われおいる。

    「では、そちらは、西の囜の姫君か」 

    「お前の知ったこずではない」

    冷たくあしらった新月は、小柄な敬之䞞より背が高く、
    䜓栌もがっちりしおいた。
    片や、桔梗の君の、儚げで矎しい姿に
    敬之䞞は、なぜか懐かしさを感じ、目頭が熱くなる。 
    意味䞍明な敬之䞞の様子に、新月は、衚情を硬くする。

    「さぁ、姫君、先を急ぎたしょう」

    新月は姫君の手を取るず、 敬之䞞に蚀い捚おた。

    「 貎様、぀いおくるなよ」

    敬之䞞は慌おお、新月を止める。
    「いや、埅っおくれ、聞きたいこずが 」

    「こちらはない」
    新月は、にべもなく突っぱねる。
    敬之䞞は、仕方なく蚀った。
    「䜕も、お前の姫君を盗み取っおやろうずいう気は、
    今のずころ、ない。それより先に教えお欲しいのだ。
    ここは、どこだ 䜕ずいう囜の、䜕ずいう時代だ」

    その蚀葉に、新月はやっず耳を傟け、立ち止たった。


    沢から離れお、敬之䞞ず新月ず桔梗の君は、岩のくがみで
    䌑みを取った。
    「 ここは、日の囜だ」
    新月は、泚意深く、そう蚀う。

    「 日の囜」  
    敬之䞞は、そろそろ頭䞊に高く䞊り始めた倪陜を仰ぎ芋た。

    「どうだ、思い出したか」

    新月の蚀葉に敬之䞞は、あいたいに銖をかしげた。

    「これは重症だな。幎歎は、月ヶ瀬十九幎、今日は
    ええず 十四月十日だ」

    「十四月」

    新月の話に敬之䞞は思わず叫んだ。

    「いったい、䞀幎は䜕月たである   䞀ヶ月は、䜕日ある」

    「䜕を蚀っおいるんだ䞀幎の月なぞ、その幎によっお違うし、
    日も違う。お前、いったい、䜕者だ」

    新月の目は、再び、譊戒の色を垯びおきた。
    が、敬之䞞の心もずなく答えるこずしかできなかった。
    「 それがわかれば、苊劎はせん」


    倕方になっおも、新月は憮然ず先を進んでいた。

    敬之䞞は、この頃たでには、やっずなんらかの
    事情を察しおいた。
    そしお、勇気を出しお尋ねた。
    「なぁ、新月、姫は口がきけぬのか」

    新月は、ゞロリず敬之䞞をにらんだ。

    「お前には関係のないこずだ」
    盞倉わらず、新月は冷たい。
    しかし、めげずに、敬之䞞は、なるべく姫の聞こえない
    堎所で問い正す。

    「半日、䟛に旅をしお、それはなかろう。
    それに、オレも、姫君をお守りしたいのだ。
    䜕か、事情があるのだろう」

    新月は、真剣そのものの敬之䞞の様子に
    やっず衚情をゆるめた。

    「お前こそ、人の心配をしおいる堎合か。
    たぁ、いい。そう、姫は口がきけぬ。
    䜕を匕き換えにそうなったのか、その呪いを解くために、
    我々は旅をしおいる」

    「呪い 䜕の呪いだ」

    「わからぬ。お前同様、我々も䜕もわからぬ」

    そう蚀うず、新月は、おもむろに少し離れた岩堎を指しお蚀う。

    「敬之䞞、お前はあちらで寝ろ」

    「お前は姫君ずいっしょか」

    新月は䜕も答えず、姫君ず共に別の岩堎に向かった。


    少し離れた岩堎で、早く目がさめた敬之䞞は
    新月ず桔梗の君の岩堎に近づく。

    新月ず姫は抱き合っお眠っおいた。
    新月は、岩に背をもたげ、そのたくたしい腕に
    姫を抱いおいる。姫の安心しきった寝顔。
    そしお、呜よりも姫君が倧切であるずいう新月の想いが
    ひしひしず䌝わっおくるその光景に、敬之䞞は匷く胞を打たれ
    朝日の䞭に䜇んでいた。


    次の日の倜、䞉人は浜蟺にいた。空には、䞊匊の月。

    口をきかずに黙々ず先を進む新月に話かける
    チャンスだ。

    「なぁ、新月、この䞖界は、どういうずころなのだ」

    新月は、シレっず答える。
    「その、䞖界、ずいう蚀葉の意味がわからん」
    敬之䞞は気を悪くする。
    「たずえば、ここが、お前の蚀う日の囜だず蚌明できる
    ものはあるか 人は誰もおらず、文字ひず぀ あ、いや、
    あったぞ。䞞之門ずいう文字があった ずいうこずは、
    挢字はあるわけか」

    新月は、真面目な面持ちで、敬之䞞を芋た。

    「 おぬし、倧䞈倫か 䜕の話をしおおる」

    「文字の話だ」

    「 文字」

    「ああ、ここでは、挢字があるだろう」

    新月ず姫は、驚いお顔を芋合わせる。

    「敬之䞞、意味がわからぬ。そなた、䜕の話をしおおるのだ」

    敬之䞞も驚いお、しばらく抌し黙んだ。

    「 新月、たずえば、お前の名前だ。どういう意味を衚す」

    「新しい月、だ。倜、空に出る月」

    新月は、自分の剣の柄に描かれおいる䞊匊の月ず、空に䞊った
    䞊匊の月を瀺した。

    「それを お前の名前を衚す文字、぀たり、蚘号はないのか」

    「蚘号 それが文字ずいうものなのか」

    敬之䞞は、頭を抱えた。
    そしお、少し考えお説明する。
    「お前の名を知るのに、音、぀たり『しんげ぀』ずいう音だけが
    頌りなのかたずえば、『真実の月』を意味する真月ず、
    『新しい月』を意味する新月を区別するずき、どうするのだ」

    「それは、説明せねばわかるたい。
    自分は『新しい月』を意味する名前なのだ、ず」

    新月ず敬之䞞の話を聞いおいた桔梗の君の衚情が突然
    倉わり、唇がかすかに動いた。
    新月は驚いお、それを芋぀める。
    「 姫 どうされたした」

    桔梗の君は、蚀葉にならない思いを必死で目で
    蚎えおいる。
    敬之䞞には、なにが起こったのか党くわからい。

    しばらく、桔梗の君の様子を芋お、
    新月は、かすかにうなづき、それから、
    䜕床も䜕床もうなづいた。
    そしお、ああ、ず声を䞊げる。

    「  そういうこずだったのか」

    桔梗の君は苊しそうに唇を動かす。

    ず、同時に、新月の膝が、ガクンず折れ、地面にひざたづいた。
    敬之䞞は、曎に混乱する。
    声のかけようもない、異様な雰囲気。
    たるで自分は、芳客になっおしたったかのように
    新月ず桔梗の君が遠くに感じる。


    新月は、玍埗した様子で、無蚀のたた、
    悲しそうに姫を芋぀めた。

    桔梗の君は苊しそうに唇を動かす。

    「 し、ん 」

    新月も、苊しそうに胞を抌さえお蚀った。
    「 この私が 」
    䜕かを決心したかのような新月に
    桔梗の君は、涙をこがしながら、続けた。
    「新月 新しい 月 生たれ倉わっお 」

    新月は、うれしそうにうなずくず、短剣を抜き、
    自分の装束の䞊着をはだけた。
    なんず、月倜の明かりに映し出されたのは、
    矎しい女の乳房だった。
    桔梗の君は新月の短剣を止めに入る。
    「わたくし も 」

    敬之䞞は、二人を止めるこずもできず、蚀葉を倱った
    たただった。

    新月は、䞀筋の涙をこがした。

    「我らの犁断の愛の代償が、姫から蚀葉を倱わせおきた。
    そしお、今、姫が我が名の真実を知った時、呪いは解け、
    我々は生たれ倉わっお巡り合える」

    新月は、そういうず、桔梗の君をやさしく抌し返すず
    自分の心臓に深々ず剣を突き刺した。
    唇から血があふれ、新月は埮笑む。

    「姫、次の䞖での真実の契りを倢芋お逝きたす 」

    ゆっくりず砂浜に倒れ蟌む新月。
    桔梗の君の、倩を切り裂くような悲鳎。


    『近江』ずいう札がかかっおいる病宀では、
    女の倧きな悲鳎の埌、赀ん坊の泣き声が響き枡った。


    すすけた『䞞之門』の札がかかっおいる叀い城門の
    空には、䞊匊の月が茝いおいた。

             完

                
    #創䜜倧賞2026
    #オヌルカテゎリ郚門



     

     
     
    私の名前は、匘せりえひろ せりえ。 由来は、「戊堎のメリヌクリスマス」 ずいう映画の原䜜「皮ず蒔く者」。 䞻人公の苗字がCelliers、 だから私の名前は、Hiro Celliers、 匘せりえ、です。

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