🎧針を落とせば、いつかの風景 Pt. 69〜The Animalsが鳴らした、英国ブルースの原点
ここは、とある街の音楽好きが自然と集まる喫茶店「フォックストロット」。
UKロックを愛するマスター・カズヒコのもと、駆け出しの銅版画家アミ、そして中学時代からの親友で音楽雑誌ライターのユキヒロが、ときおり立ち寄っては、レコードとコーヒーを肴に静かで熱い音楽談義を繰り広げている。
アニマルズ『アニマルズ(UK)』(1964年)60周年盤(2024年)
笑顔の奥にあるブルースの魂
(喫茶店「フォックストロット」の扉が開く)
ユキヒロ「よう、カズ、見てくれ。ついに手に入れたぞ」
カズヒコ「お、なんだそれ……おぉ、UK60周年記念盤の『The Animals』じゃないか!」
アミ「それって最近出たやつですか?」
ユキヒロ「そうそう、オリジナルは1964年のリリースだけど、これは2024年に出た60周年エディション。なんと、UK盤には本来入ってなかった“朝日のあたる家”が追加されてるんだ」
カズヒコ「それは熱いな。“朝日”はUS盤では目玉曲だったけど、UK盤のストイックな構成には入ってなかったからね。これは“いいとこ取り”ってやつか」
アミ「あっ、このジャケット、なんだかやんちゃですね。みんなで鉄の棒から顔出してて……なんか男子校のノリみたい」
ユキヒロ「その無邪気な笑顔の中に、ブルースの叫びが詰まってるんだよ。これぞアニマルズの真骨頂」
カズヒコ「まさにそう。エリック・バードンの声は10代とは思えない深みがあるし、他のメンバーもただのビートバンドじゃない」
アミ「えっ? そんなに渋い音楽なの?」
カズヒコ「うん。彼らはビートルズやストーンズと並ぶ存在だけど、より“黒い”音を鳴らしてた。“Boom Boom”“I’m Mad Again”なんて、もう魂の叫びだよ」
ユキヒロ「しかもアラン・プライスのキーボードがまたいい味出してる。ゴスペルっぽい雰囲気もあって、単なるカバーにとどまってない」
アミ「“朝日のあたる家”ってバラードっぽいですけど、それ以外はけっこう激しめなんですね」
カズヒコ「その“朝日”が有名になりすぎたせいで、本来の姿が見えにくくなった面もある。このUK盤こそが、彼らの“原点”なんだよ」

叫びと煙とグレイな空気
アミ「でも、この年齢でそんな渋い音を出せるって……どうして?」
ユキヒロ「ニューカッスルっていう、イギリス北部の工業都市の出身なんだ。灰色の空と、工場の煙の中で育った若者たちのリアリティがそのまま音に出てる」
カズヒコ「家にピアノがあるような家庭じゃない。レコードとラジオで黒人ブルースに出会って、楽器かき鳴らして自分たちの叫びにしたって感じ」
アミ「まっすぐすぎて、逆に今の音楽よりリアルかもしれないですね」
ユキヒロ「それにこの60周年盤、モノラル音源の重心がしっかりしててね。今どきの分離された音より、ズンと腹にくる。ホコリと汗の匂いが漂ってくるような音だよ」
カズヒコ「“Worried Life Blues”とか“Story of Bo Diddley”なんて、アニマルズじゃなきゃ成立しない曲だね。原曲の再現じゃなくて、自分たちの体温を入れてきてる」
アミ「このアルバム、ジャケットの雰囲気と中身のギャップがすごいですね。笑顔なのに、中身は怒りとか痛みとか……」
カズヒコ「そう、それが本物のブルースなんだよ。カッコつけじゃなくて、生きざまが音になる」
ユキヒロ「あの笑顔の下には、うまく言葉にできない葛藤や渇きがある。アニマルズはそれを音にして吐き出した。だから今聴いてもまったく色褪せない」
アミ「ちょっと今日、じっくり聴いてみます。この笑顔に、どんな叫びが隠れてるのか、耳を澄ましてみたい」
カズヒコ「いいね。じゃあ、レコードに針を落とそうか。アニマルズが鳴らす、英国ブルースの原点を──」
次回作・・・
■登場人物
カズヒコ:52歳。喫茶店「フォックストロット」のマスター。UKロックに詳しく、レコードコレクター。
アミ:26歳。ウェイトレス兼、駆け出しの銅版画家。美大卒で個展開催が夢。音楽はマスターの影響で興味を持ち始めた。
ユキヒロ:52歳。音楽雑誌のライターでカズヒコの中学時代からの親友。店にふらりと現れてはブラックコーヒーを飲む。
※喫茶店「フォックストロット」の名前は、ジェネシスの同名アルバムに由来。
