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「27歳、赤ん坊を抱えて離婚した。私を救った一冊」

    きなこ

    27歳、生まれたばかりの子どもを抱えて離婚した。

    養育費はなかった。

    これから、どうやって食べていけばいいのだろう。

    この子を、どうやって育てていけばいいのだろう。

    考えても、答えは出なかった。

    そんなとき、一冊の本に出会った。

    三浦綾子さんの『奇跡は起こる』だった。

    苦難の中を生きた人たちに起こった、さまざまな出来事が書かれていた。

    なかでも忘れられなかったのが、三浦綾子さん自身の話だった。

    肺結核と脊椎カリエスを患い、長い療養生活を送った三浦さんは、ギプスベッドに横たわり、寝返りさえ自由にできない時期があったという。

    それでも、動かせる手でこぎん刺しなどの手仕事をした。

    その収入で療養中にできた借金を返し、両親に炊飯器まで贈ったという。

    私は、そこを何度も読んだ。

    寝返りさえできない人が働いている。

    借金を返している。

    そのうえ、両親に贈り物までしている。

    驚きだった。

    だったら私は、まだ何とかなる。

    歩ける。

    手も動く。

    働くこともできる。

    子どもを抱いて、外へ出ることだってできる。

    それから私は、不安になるたびに心の中で唱えた。

    「奇跡は起こる。奇跡は起こる」

    もちろん、唱えているだけで暮らしていけるわけではない。

    働いた。

    子どもを育てた。

    生活のためなら、できる仕事は何でもした。

    うまくいかないこともあった。

    でも、止まっていられなかった。

    そのときできることを一つずつやった。

    そうしているうちに、人生は少しずつ動いていった。

    会社で管理職になった。

    やがて、自分で会社をつくった。

    本を出した。

    講演を頼まれるようにもなった。

    27歳のあの日、

    生まれたばかりの子どもを抱えて、

    「これから、どうやって生きていけばいいのだろう」

    と思っていた私には、想像もできなかった人生だった。

    私は、あのとき一冊の本に救われた。

    だから今、文章を書いている。

    あのころの私のように、

    先が見えなくて不安な人がいるかもしれない。

    自分の人生は、この先どうなるのだろうと、
    眠れない夜を過ごしている人がいるかもしれない。

    そんな人が私の文章を読んで、

    「明日、もう一日だけやってみよう」

    と思ってくれたら、それでいい。

    若いころの私は、奇跡とは、何か特別なことが起きることだと思っていた。

    今は少し違う。

    あの日、途方に暮れていた私が、

    次の日も起きて、

    働いて、

    子どもを育てて、

    また次の日を生きた。

    その繰り返しの先に、今の私がいる。

    もし、生まれたばかりの子どもを抱えて途方に暮れている
    あの日の私に、出会えたら

    今の私は、こう言うと思う。

    「大丈夫。

    あなたが思っているより、人生はうまくいく」

    あのころ、何度も自分に言い聞かせた言葉がある。

    奇跡は起こる。

    今でも、私はそう思っている。

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    #創作大賞2026 #エッセイ部門

     
     
     
    事務職、証券会社勤務などを経て、人材派遣・人材紹介会社を経営、何万人と言う働く人たちを見てきて分かった、 仕事に困らない人の生き方。 (何かを感じていただきたいので、エッセイにしました) PHP研究所、ベスト新書より著書。月刊「OLマニュアル」3年間エッセイ連載。