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人は見たいものしか見ない

    🎧️愛の誓いの曲を作りました♪
    よかったら聴きながらお読み下さい♪

    「人は、見たいものしか見ないんですよ」

    その言葉が、今でも忘れられない。

    そう話してくれたのは、元テレビ局の部長だった。

    その場には、時々テレビにも出演している漫画の脚本家の男性もいた。

    私は、その脚本家と東京で開かれた出版セミナーで知り合った。

    彼の講演などにも呼んでもらい
    食事を一緒にして、親しくさせてもらっていた。

    元テレビ局の部長は、彼の昔からの知り合いだった。

    その日、私は何気なく、昔見た恋愛番組の話をした。

    男女十人ずつが出演し、お互いに気になる相手を
    選んで告白する番組だった。

    その中で、自衛官の男性三人が、それぞれ女性の前で
    中世の騎士のように片膝をつき、

    「僕にあなたを一生守らせてください。お願いします」

    と頭を下げて愛を告白する場面があった。

    私はテレビを見ながら胸がときめいた。

    なんて誠実な人たちなんだろう。

    自衛官という仕事にも、ますます憧れを持った。

    「あれ、本当に素敵でしたよね」

    そう言うと、元テレビ局の部長が笑いながら言った。

    「あれはね、やらせているんですよ」

    私は思わず聞き返した。

    「えっ?」

    すると、漫画の脚本家の彼も笑いながら続けた。

    「全部、演出ですよ。僕もクイズ番組にAKB48と
    一緒に出演したことがあるんですが、『わざと答えを間違えてください』と言われましたから」

    私は言葉を失った。

    あの感動は何だったのだろう。

    自衛官の人たちは、なんて素敵なんだろうと思っていた私の幻想が、
    音を立てて崩れた気がした。

    元部長は穏やかな口調で言った。

    「人は、見たいものしか見ないんです。
    だからテレビは、視聴率が取れるように演出するんですよ」

    その言葉を聞いて、以前、子どもが十一人いる大家族の
    お母さんが話していたことを思い出した。

    テレビの取材を受けたとき、スタッフが家の中に
    服や物をわざと散らかしたという。

    「こんな家じゃないのに」

    そう抗議しても、「この方が伝わるから」と言われたそうだ。

    放送後、そのお母さんは怒っていた。

    もう二度とテレビには出ないとも話していた。

    確かに、十一人家族がきれいに片付いた家で
    穏やかに暮らしているよりも、

    部屋が散らかり、毎日が戦争のような暮らしの方が、
    見ている人には印象に残るのかもしれない。

    テレビ局は、現実そのものではなく、
    多くの人が見たくなる物語を作っているのだろう。

    二人の男性は、「そんなことは業界では当たり前ですよ」
    と言いたげな顔で笑っていた。

    でも私は、心のどこかで思っていた。

    もし本当に、あの騎士のように片膝をついて、

    「あなたを一生守らせてください」

    と真剣に言われたら、やっぱりうれしいだろうな、と。

    人は、見たいものしか見ない。

    テレビだけではない。

    ネットも、広告も、人の噂も、そして自分自身も。

    私たちは事実を見ているようで、

    いつの間にか、自分が信じたい物語を見ているのかもしれない。

     
     
    事務職、証券会社勤務などを経て、人材派遣・人材紹介会社を経営、何万人と言う働く人たちを見てきて分かった、 仕事に困らない人の生き方。 (何かを感じていただきたいので、エッセイにしました) PHP研究所、ベスト新書より著書。月刊「OLマニュアル」3年間エッセイ連載。