まちぶせ|ショートショート『マッチョ華道』
お稽古帰り、街角でいつも見かける男がいる。
鮮やかなタンクトップに太い腕。
近くのジムの人だろうか。
窮屈そうに屈んで歩道脇の花壇を手入れしている。
最初はその取り合わせが可笑しかった。
けれど枯れた花を摘む指先は驚くほど丁寧だった。
倒れた茎を起こし、枝を切り、
小さな花に光が当たるよう葉を整える。
華道を習う笙子には
ただの手入れとは思えなかった。
この人も、花を生けているのかもしれない。
一度話してみたいと思った。
花のことなら聞きたいことはいくらでもある。
けれどいつも、男の背中を見ながら通り過ぎてしまう。
ある火曜日、男はいなかった。
思いのほか残念だった。
次の火曜日。笙子はお稽古を早めに切り上げ、
向かいの喫茶店に入った。
一時間。
我ながら何をしているんだろう。
華道家がマッチョを待っている街角。
「これじゃ…マチョ伏せじゃない」
その取り合わせにちょっと可笑しくなった。
交差点の向こうに鮮やかなタンクトップが見える。
笙子は襟元を直して、席を立った。
(了)
まちぶせ|ショートショート『マッチョ華道』
416文字
先週に引き続き田原にかさんの『毎週ショートショート』に参加しました!
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