
32分の寄り道
梅雨の合間の晴れた平日。
この日は、少しだけ変な方向に寄り道することになる。
荒れ果てた部屋を修復しようと思い、見ないようにしていた衣類の山を2回に分け洗濯機に放り込んだ。
そのあとは、濡れて重くなった洗濯物をIKEAの袋にパンパンに詰めて、小銭を握りしめ外に出る。
洗濯物が多い時は、徒歩5分の小さなコインランドリーに乾燥だけおまかせしている。
いつも果物を買う数百円はケチるくせに、干す作業を避けるための数百円なら厭わない。
そのコインランドリーにはかれこれ7年以上お世話になっている。
8分100円の乾燥機、大体いつも300円でちょうど良いくらい。洗濯物が多い日は、なんとなくもう100円入れる。
乾燥している間の暇つぶしも慣れたものだ。隣のセブンでカフェオレを買って一番奥の椅子でスマホをいじる。
どうぶつの森にハマっていた時はSwitchを持参、魚釣りをしていれば一瞬で過ぎ去った。
コインランドリーでは、町の住人によく出会う。
その日も先客がいた。
いつも大きな声で誰かと電話しているおじいさんと、近所の大学名が入ったスウェットの若い男性。
椅子はラスト1脚。年季の入ったテーブルも相まってやや食卓のようなセットに、おじいさんと大学生と私。
若干気まずい。
洗濯物を乾燥機に入れながら、昔ボランティアでやっていたエキストラのことを思い出す。
名前も知らない人と、撮影の数時間だけ親しい間柄のように振る舞う非日常的な空間。
ひとまわり歳の離れた女性と腕を組んでおしゃべりもしたし、同世代の男性と恋人として駅前で待ち合わせもした。
女優 彦山を召喚。
今だけこの2人のことを、不器用な祖父と反抗期の弟だと思えば気まずさも紛れそうな気もした。
私は最後のひと席に、なぜか控えめに浅く腰掛けてスマホをいじる。
「あいつは信用ならねえからダメだ。」とかなんとか。電話する祖父の大きな声と、壊れそうなくらい大きく揺れる乾燥機の音。弟のヘッドホンから漏れる重低音。
すみません、調子に乗りました。
私だけが勝手に気まずくなって、ものの数分でギブアップ。
すぐ席を立つのも変かと思って、洗濯物の様子をのぞいて「まだまだだな〜」みたいな顔して立ち上がる。
「ちょっと散歩行ってくるわ」と心の中で2人に言い残し、外へ出た。
帰るのも面倒くさかったので、乾燥暇つぶし史上初の「川沿い散歩」を採用。
家から見て、駅やスーパーの反対側にあるので普段はあまり足を運ばないが、近所に川がある。
辿っていけば隣駅に着くらしい。
川が流れるずっと先には、数年前に建ったばかりの超高層ビルが小さく見えている。
田舎者の私にとって、実体のイメージが伴っていなかった「摩天楼」という言葉は、ああいう建物のためにあるんだなとぼんやり思った。
川沿いを少し歩いてみると、対岸にカラフルな遊具がたくさんある公園を見つけた。
ベンチも見えたので、ぐるっと回って橋を渡り公園に入る。
考えてみれば、働き始めてからはこんなふうに平日の昼間に歩くことはほとんどなかった。
休みを取ったとしても予定があるか体調不良だったので、のんびり散歩は初めてかもしれない。
平日の昼間も意外と人たくさんいるんだ、なんてありきたりなことを考えていたら、凄まじい勢いでチャリに乗った小学生の女の子2人が登場。
「えー最高!この公園貸切じゃん!」と言いながら、ほぼチャリを投げ捨てて公園にイン。
「何する何する!」とハイテンションで2人で話している。
「まずはブランコ好きなだけ漕ぐでしょ〜」
「あとは〜、保育園の時できなかったこと、しちゃう?」
保育園の時できなかったこと!?
大人が「子供の時できなかったことやろうぜ!」って、一番くじをラストワンまで買い占めるとか、スタバでベンティ頼むとか、ガチャガチャコンプリートできるまで回すとかそういうノリの?
台詞がほぼ社会人と変わらないよ。
今時の子はそんなにおませさんなのか。
一体なにが始まっちゃうんだ。
遊具に背を向ける形でベンチに腰掛けていたので、私は思わず振り返る。
「じゃあひとまず、滑り台、逆から登ってみちゃう?」
階段ではなく滑る方から四つん這いで登っていく少女2人。
すごい。
自由だ。
なんだかその2人が、きらきらして見えた。
あんな自由、いつぶりだろう。
現在、会社を休職中。
せっかく上京したのにな、将来どうなるんだろう、お金はどうしよう、自分はなにがしたいんだろう。
不安になる日もある。
あの小学生を心に召喚。
「会社員の時できなかったこと、しちゃう?」