
白球レヴォリューション 第20話
オリジナル小説 白球レヴォリューション
第20話 これってデート?
海老原真凛がアメリカへ去った翌日。月曜日の朝。
野球部ミーティングルーム。
スクリーンの前に立った彩人が、部員たちを見回して口を開く。
「三回戦の相手は、順当に南葛飾女学院に決まった。みくり先生、お願いします」
「コホン」
促された東雲みくりが、一つ咳払いをして前へ出た。
今日はふんわりとしたピンクブラウンの髪を片側でまとめ、伊達メガネをかけた秘書モードだ。
スクリーンへ資料を映し、レーザーポインターを当てながら説明を始める。
「南葛飾女学院は、機動力と主軸の長打力に特化したチームです。特に赤井梓奈、島村翔子、三田舞弥。この俊足三人をきっちり抑えることが重要になります」
画面には三人の走塁データや盗塁成功率が表示される。
「投手陣のデータは、各自タブレットを確認しておいてください」
みくりはぺこりと頭を下げ、彩人と入れ替わった。
「今日から新しい個別練習メニューを追加してある。あと、必要があればDMで細かい指示も送るから確認よろしく。既読つけたら解散していいよ。以上!」
部員たちが一斉にタブレットを開く。
ルルカが画面をスクロールしながら顔をしかめた。
「スライダー打ちのタイミングをマスターせよ……やっぱそこ来るかー」
隣では凪沙も自分のメニューを確認している。
「バント練習と盗塁練習? ゆあちゃんと一緒にできるね!」
「私は祈里先輩とサイン合わせ、牽制、クイック対応ですね。完全に南葛飾対策です」
ゆあが真面目に頷く。
黒髪ハーフアップの後藤祈里は、彩人から届いたメッセージを開いたまま固まっていた。
『三回戦の先発は祈里に任せた! クイック練習と、ゆあと牽制サインの確認よろしく! 彩人より』
(私が……先発――!?)
ごくりと喉が鳴る。
一方、部屋の隅では。
みおが、自分のタブレットを胸の前で抱えていた。
(私にも監督からメッセージ……)
(練習メニューだって分かってる。分かってるけど……)
そっと通知を開く。
『今日の放課後、付き合ってくれる? 彩人より』
「……えっ?」
数秒みおの時が止まる。
「ええっ!?」
思わず大きな声が飛び出し、みおは慌てて両手で口を塞いだ。
部員たちの視線が集まる。
みおは顔を真っ赤にしたまま、無言で部屋を飛び出した。
「ん? みおどした?」
ルルカが声をかけるが、みおは気付かず走り去っていく。
取り残されたルルカが、宙に浮いた手をそのまま止めた。
「え〜……めっちゃニヤけてたんだけど?」
◇◇◇◇
教室。二年三組。
ガラッ。
教室へ飛び込むように入ってきたみおが、一直線にルルカの席へ向かった。
「ルルカ、どうしよう!」
(来た来た)
ルルカは頬杖をついたまま、余裕の表情を崩さない。
「んー? 何があったのー?」
みおは周囲も気にせず身を乗り出した。
「監督に『付き合って』って言われた!」
「は!?」
ルルカは慌てて周囲を見回し、みおの口元へシーっと指を当てた。
「声デカいって!」
みおが訴えるような目で見つめてくる。
「どうしよう、ルルカ……!」
「いや落ち着きなよ。冷静に考えて? 付き合うって、そういう意味じゃないっしょ絶対」
「そんなの分かってるもん!」
みおが頬を膨らませる。
「でも……デートのお誘いかもしれないじゃん」
「うーん……」
ルルカは少しだけ考えた。
ここで全否定するのも、なんだか可哀想な気がする。
「……チャンスかも?」
片目を閉じてニヤッと笑う。
「でしょ!?」
みおの顔がぱあっと明るくなった。
その反応がちょっと悔しくて、ルルカは意地悪を追加する。
「昨日、真凛にキスされちゃってたもんねー」
「ほっぺだし! 向こうじゃたぶん挨拶だし!」
「はいはい」
むーっとむくれるみおを見ながら、ルルカは窓の外へ視線を向けた。
絶対デートじゃないと思う。
でも、もし本当にそうだったら――
ちょっとだけ、面白くないかもしれない。
そんなことを考えながら、ルルカは小さく息を吐いた。
◇◇◇◇
放課後。
みおは急いで寮に戻り、自室でクローゼット開けて服を引っ張り出す。
どの服を着て行くのかは、授業中に既に考え終えていた。
「これと、これと……」
選んだのは、白の半袖ショート丈パーカーと、黒のプリーツショートパンツ。
鏡の前で合わせ、制服を脱いで着替える。
「うん。よし」
鏡の前でくるりと回った。
部屋を出る前に振り返り
「監督のことだし……一応、持っていこうかな」
グローブを鞄に入れた。
◇◇◇◇
みおが校門前に戻ると、彩人が待っていた。
彩人は平常通り、白の半袖カットソーにグレーのパンツ姿。
「お、お待たせしました」
柄にもなくモジモジするみお。
彩人はみおが着替えてきたことに気付き、あっと少し驚いた表情をしたが、服のことには触れず頬を少し掻いて言った。
「行こっか」
みおは彩人の反応を見て――
(えーっ、どっちの反応? 有りなの? 無しなの?)
「清澄白河まで付き合ってくれる?」
「何しに行くんですかー?」
みおは横を歩く彩人の顔を覗き込む。
「まだ秘密」
「えーっ」
二人は押上駅で地下鉄に乗り、清澄白河駅で降りた。
清澄白河周辺には、お洒落な雰囲気のカフェが沢山ある。
彩人はレトロな雰囲気の喫茶店の前で立ち止まり、振り返ってみおに言った。
「ここのレトロプリン食べたいんだけど、付き合ってくれる?」
「……えっ、喫茶店……。これって……」
(デートじゃん!!)
みおの背筋がピンと伸びた。
「あっ、私も、飲みたかったんです! ここの、生いちごジュース」
「あ、ほんと? 良かった」
「経費で落ちるから、好きなもの頼んでいいよ?」
「もーっ。そういうことは言わないでくださいっ」
「あはは、ごめん」
側から見たら、普通の少し背伸びしたカップルのように見える。
奥の席に座り、みおの心は少し落ちついてきた。
「部活出なくて平気なんですか?」
「うん。今日はみくり先生に任せてあるよ」
当たり障りのない部活の話をしている間に、彩人の前にはアイスコーヒーとレトロプリンが、みおの前には生いちごジュースが運ばれてきた。
「ここのプリン、固くて美味いんだ」
そう言って彩人はプリンを口に運び、至福の表情。
「固いのが好きなんですかー?」
みおが生いちごジュースを飲みながら茶化す。
「固いほうが美味いって!」
「柔らかくてプルプルのほうが良くないですか〜?」
「じゃあ食べてみて」
彩人が何気なくスプーンをみおの前に差し出した。
「……はい」
みおはほんの一瞬だけ俯いて、しかし差し出されたプリンに素早く口をつけた。
「あむっ」
「ほんとだ……美味しい」
みおの顔は、生いちごジュースのように真っ赤だ。
彩人が、自らの失態に今更気付く。
「あっ……」
しかしみおはここで攻めに転じた。
「生いちごジュースも美味しいですよ?」
そう言って、みおはストローを彩人に差し出した。
「う、うん……いや、でも」
そこへ――
「彩人くん、お待たせ」
別の女性から声がかかった。
振り返ると、そこに現れたのは――
清澄女子の監督であり、姉・神矢綾華の高校時代の先輩だった沢渡美月。
「あっ、沢渡さん」
彩人とみおはパッと離れ、平静を装う。
(清澄白河の時点で、なんとなく察しはついていたけど、これはいきなりすぎるよ〜〜!)
俯いてストローを啜る。
そんなみおの気持ちはいざ知らず。彩人は、隣に座った沢渡に、いきなり躊躇なく言った。
「沢渡さんのスライダー、みおに教えてくれませんか?」
◇◇◇◇
#創作大賞2026
#エンタメ原作部門
白球レヴォリューション 第21話へ続く