
第8話 華やかな夜の世界?!②
長谷に連れられて入った「ミンク」は、僕が知っているスナックとはまったく違う世界だった。
扉を開けた瞬間、思わず足が止まった。
店内には何人もの女性がいて、それぞれ男性客の隣で楽しそうに笑っている。
照明は落とされているのに、不思議と店全体が明るく感じた。
一言で言えば――
華やか。
銀行員として生きてきた僕には、ほとんど縁のない世界だった。
長谷は席へ向かうと、
「紹介するわ。」
そう言って、一人ひとりを紹介してくれた。
「こちらが大山さん。」
MCビルドシステムの副社長だった。
「はじめまして。」
少し緊張しながら頭を下げると、大山さんは穏やかな笑顔で言った。
「大山です。あなたのことは光さんから聞いています。」
「よろしくお願いします。」
肩書から想像していたような威圧感はまったくない。
丁寧で、物腰の柔らかい人だった。
続いて紹介されたのは専務の松井さん。
そして取引先の会社の跡取りだという二人の男性。
副社長の大山は紺のブレザーにグレーのスラックスという比較的ラフないでたちだったが、店内が薄暗かったこともあり、他の3人が着ていた濃い色のダブルのスーツは、僕には黒く見えた。
さらに印象に残ったのは、長谷と大山さんを除く二人の胸ポケットに差してあった黒いサングラスだった。
──これは、僕の知っている世界じゃない。
そんなことを思いながら席に着いた。
すると女性が一人、僕の隣へ来て笑顔で尋ねた。
「お飲み物は、水割りでよろしいですか?」
「ええ……薄めでお願いします。」
そう答えると、
「かしこまりました。」
女性は慣れた手つきでヘネシーの水割りを作り始めた。
その様子を見ていた長谷が笑いながら言った。
「こいつ、酒はほとんど飲まれへんねん。」
すると大山さんはすぐに隣の女性へ声をかけた。
「無理に飲ませなくていいよ。」
「何か食べるものでも持ってきてあげて。」
その一言に、少し肩の力が抜けた。
見た目だけなら近寄りがたい人たちだった。
でも、実際に話してみると、みんな驚くほど気さくだった。
──長谷が信頼している人たちなんだから、きっと悪い人たちじゃない。
そう思えた。
それでも、銀行しか知らなかった僕にとって、この夜はまだ始まったばかりだった。