
気だるい朝
朝起きて、起きてしまって、今日は、昼からの勤務だからまだ十分に時間がある。
とりあえず冷たい水をグラス一杯義務感で飲みほす。寝起きの冷たい水は喉から胃によく染み込む。1ヶ月前に買った歯ブラシで歯磨きをして、鏡を見ずにシェーバーで髭を剃る。"ジチリジチリ"音を鳴らし剃っていく感覚は、少し快感で気持ちがいい。この"ジチリジチリ"がなくなるまで剃りきりたくなる。何度も音がなくなるまで往復させ深く剃っているうちに、誤って皮膚を切ってしまう。痛い。
血も出てしまったしとりあえず顔を洗う。ついでにヘッドシャワーで髪も濡らしてドライヤーで乾かす。あとは髪を整えるだけだが、気だるい今日はすぐセットする気が失せた。
狭いリビングのラグに尻をついて、クッションを背もたれにグッと反り返る。背中の筋肉が伸びるのを感じながら、あぁーっと言いながら太陽光だけで照らされた薄暗い真っ白な石膏ボードの天井を見上げ、「仕事行きたくないなあ」と誰もいないのに語りかける。誰も答えてくれない。共感してくれるのはこの部屋の僕のみで、声も反響しない真っ白な部屋は、僕の声と魂も全部吸い込んでいる。
スマホをだらだら、普段興味のない人の炎上がタイムラインに流れて、なぜこの人たちはこんなにも他人を責め立てるコメントを書き込めるのだろうとやるせない気持ちをもわもわさせ、不快なので流しスクロールし、たまに可愛い動物の動画見て癒され、なにを話しているのかもわからない海外の人の喧嘩の動画や、明らかにAIで作られた美女のアカウントに騙されて群がっているおじさんたちを憐れみ、あっという間に時間は過ぎていく。
よっこいしょのかけ声の代わりに「仕事、行きたくないなあ」と吐き出して起き上がり、適当に髪をセットして服を着替える。
朝食のバナナを一本食べ珈琲を飲み、気だるい仕事前のコーヒーは全く美味しく感じないなと思いながら、苦味だけ味わってぐっと飲み干す。
一気に飲むとコーヒーの苦味とコクがギュインときて、「うしっ」とスイッチをいれてドアを開ける。
マンションの通路って何でこんな涼しいんだろうと思いながらエントランスを出ると、陽の光が目の前に広がって外に出たのを実感し、ふぅとかはぁとか声を漏らしながら歩き出す。
気だるくて気だるくて、ただため息を吐くだけの人間の僕は、ここからあと30分もすればあの憂鬱な職場に着くのかと思うと、なお憂鬱だ。
マンション前の路地で、日向を全身で浴びて口を大きく開きアスファルトへ前足を伸ばして延びをする艶のいい黒猫が、眩しい。