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「生きてるうちにもう会えるかわかんないから」

    父方の祖母の家がある岩手へ帰省した最近のこと。

    もう大人と呼んでも差し支えない年頃になった私たちを、あの時と変わらない笑顔で抱きしめてくれた祖母。

    最後に帰省したのはいつだっただろうか。

    まだテレビを見上げていた年頃だとは覚えている。

    あの頃の自分に映る景色は広かったのに、

    久しぶりにお邪魔したそこは家族全員入れば窮屈になるほど狭く見えた。

    けれども、あの頃と同じ場所に飾ってある写真。
    昔の記憶を思い出す優しい香り。

    数年も経て大きく成長してしまった私を
    あの頃のまま迎え入れてくれた景色は、
    なんと温かかったものか。

    記憶はないはずなのに懐かしく感じる自然の景色。

    道中たぬきと出くわしたことには大層驚いた。

    少しずつ変わっていく都会の景色に比べて
    田舎の風景はやわらかく残り続けている。

    食事に出された卵のおかずも、あの頃の
    記憶のままの味がした。

    祖父は私が物心つかぬ頃にすでに亡くなっていた。

    亡き祖父が残した倉庫は、
    猟銃の弾や鹿の角で溢れていた。

    そこには見たことのない祖父のかつての面影が
    蘇るように残っている。

    帰らなければいけない日の朝
    ニュースでは音楽家の特集をやっていた。

    瀧蓮太郎。

    大きな才能を持ちながら若くして病で旅立った
    偉人。

    その時は何気なく見ていただけだった。
    けれどなぜかその「早すぎる別れ」という言葉だけが胸に残っていた。

    なぜかそれだけが記憶に残っていた。

    別れが惜しかった。

    私のもう一つの故郷は、
    生活する場所とは簡単に行き来できないほど
    離れている。

    祖母は元気な姿ではあるが悲しくも
    この先長いとはいえない。

    だからだった。

    車に乗る前、最後のあいさつを玄関でして
    いたとき。

    最後に記念写真を撮ろうと兄と私が祖母を挟むようにして撮影してもらった。

    その時の祖母の背中は小さかった。

    祖母は私たちを抱きしめてくれた。

    涙をこぼしながら

    「生きてるうちにもう会えるかわからないから。」

    そう何度も繰り返して。

    溢れそうになる感情を隠すように、
    私も抱きしめ返した。

    とても温かく、これほど非情な時の流れを
    恨んだ日はこれがはじめてだった。 

    遠くに消えていく景色を惜しむように眺めながら
    私の中であの言葉がこだましていた。

    光が何重にもぼやける視界を擦りながら
    過去と、残酷にも訪れる未来に
    思いを馳せたあの日。


     
     
    日常や旅の軌跡を綴ってみる。

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