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過去は変えられない。それでも、未来は選べる。

    人は、生まれる場所を選べない。
    育つ環境も、出会う人も、突然訪れる出来事も。
    だから私はずっと、人生は決められたレールの上を歩くものだと思っていた。
    でも、ある日気づいた。
    過去は変えられない。
    それでも、未来は選べる。

    第一章 「親ガチャ」

    「親ガチャ」という言葉を初めて聞いたとき、胸が少し痛んだ。
    親は選べない。
    どんな家庭に生まれるかも、自分では決められない。
    私も、「もし違う家庭に生まれていたら」と考えたことがある。
    子どもの頃の私は、自分の家庭が他の家庭と少し違うことに気づいていた。
    でも、それが私にとっては当たり前の日常だった。
    「普通の家庭」がどんなものなのか、正直よく分からなかった。
    小学二年生のとき、兄の影響で柔道を始めた。
    勝つことが嬉しかった。
    褒められることが嬉しかった。
    私は柔道が好きだった。
    そう思っていた。

    だけど今振り返ると、私は柔道を”自分のため”ではなく、誰かに認めてもらうために頑張っていたのかもしれない。

    当時の私は、そんなこと考えたこともなかった。

    第二章 「人生を変えた先生」

    高校で出会った柔道部の顧問は、とにかく怖い先生だった。
    口数は少なく、表情もほとんど変わらない。
    褒められた記憶もほとんどない。
    だからこそ、先生の言葉には重みがあった。
    高校二年生。
    一年間の怪我を乗り越え、ようやく迎えたインターハイ予選。
    失った時間を取り戻すように、私は必死で稽古をしていた。
    予選前、稽古を終えたあと、先生に呼ばれた。
    怒られるのだと思った。
    先生は静かに私を見て言った。

    「お前は、小学生の頃から親のために柔道をやってきたんやないか?」

    その瞬間、何も言えなかった。
    否定したかった。
    でも、否定できなかった。
    その一言は、自分でも気づかないふりをしていた本音を、先生が代わりに口にしたようだった。
    勝ちたい理由も。
    負けたくない理由も。
    全部、自分のためではなかった。
    柔道が好きだったはずなのに、いつの間にか「勝つこと」が目的になっていた。
    先生は続けた。
    「これからは、自分のために柔道を楽しめ。」
    その言葉は、今まで誰にも言われたことがなかった。
    先生は私の家庭環境も知っていた。
    「よく頑張ってきたな。」
    その一言を聞いた瞬間、張りつめていた糸が切れたように涙があふれた。

    一年間の怪我。
    家では言えなかった苦しさ。
    誰にも見せなかった弱さ。
    全部、先生には見えていたのかもしれない。
    そして先生は最後にこう言った。

    「親は変えられない。でも、自分の考え方は変えられる。これからは、自分のために柔道を楽しめ。」

    先生の表情は、最後まで変わらなかった。
    あの日の言葉は、私の人生で一番温かい言葉だった。

    先生が私の人生を変えてくれた。
    そう思っていた。
    でも今は少し違う。
    先生は、変わるきっかけをくれた人。
    人生を変えると決めたのは、私自身だった。

    第三章「未来を選ぶ」

    先生と出会ってから、少しずつ物事の見え方が変わった。
    それまでは、
    「親がこうだから。」
    「環境がこうだから。」
    そんなふうに、変えられないものばかり見ていた。
    でも先生は教えてくれた。
    変えられないものを嘆くより、
    変えられるものに目を向ければいい。
    親は変えられない。
    過去も変えられない。
    でも、自分の考え方は変えられる。
    そして、自分がどう生きるかは、自分で選べる。
    その言葉は、大人になった今も私の支えになっている。

    第四章 「母になった私」

    今、私は母になった。
    娘の小さな手を握るたびに思う。
    この子にも、この先たくさんの壁があるだろう。
    つまずく日もある。
    泣く日もある。
    親の私にできることには限界がある。
    だから私は、この子の人生を決める親にはなりたくない。
    「こうしなさい。」
    ではなく、
    「あなたはどうしたい?」
    そう聞ける母でいたい。
    好きなことに挑戦して、
    悩んで、
    失敗して、
    それでも、自分で選んだ人生を歩いてほしい。
    誰かの期待のためではなく、
    自分のために生きてほしい。
    それが、母になった私の願いだ。

    おわりに

    私は今でも、「親ガチャ」という言葉に答えは出せない。
    親は選べない。
    生まれる環境も選べない。
    それは紛れもない事実だ。
    でも、人生はそこで終わりじゃない。
    あの日、先生は私に教えてくれた。

    「親は変えられない。でも、自分の考え方は変えられる。」

    その言葉は、今も私の中で生き続けている。
    そして今度は、私が娘へ伝えていきたい。
    もし娘が人生に迷う日が来たら、私はきっと、あの日先生からもらった言葉を渡すだろう。
    過去は変えられない。
    それでも、未来は選べる。

    #創作大賞2026 #エッセイ部門

     
     
    名前を捨てたら、少しだけ楽になった。 ただの「わたし」として、ここにいます。 書くことでしか、救えなかったものがあるから。 言葉にするたびに、少しずつ自分を取り戻している気がします。 読んでくれる誰かの心にも、そっと届けば嬉しいです。

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