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ダンゴムシには、ダンゴムシの葉っぱがある。

    窓を開けると、
    おひさまの光がぽかぽかと入ってきた。

    外はよく晴れていて、
    葉っぱはやわらかい風に揺れていた。

    なんだか少し歩きたくなって、
    わたしはいつもと違う道を歩いてみた。


    木のかげで休もうと腰を下ろしたとき、
    小さなダンゴムシを見つけた。

    ころんと丸くなって、葉っぱのかげで
    穏やかそうに暮らしていた。

    「ぼくはここで暮らしていて、
    毎日のんびり幸せだよ」

    ダンゴムシは、そう教えてくれた。

    .....

          世界は広いって、みんなは言うのに。
    小さな世界も、幸せなのかな。

    わたしは少し、くびを傾げた。


    「君はね、がんばれば、
    オオグソクムシみたいに
    大きくなれるかもしれないよ?」

    ダンゴムシは、トコトコと
    そばまでやってきて、
    ころんと丸まってみせた。

    「ふふっ、そんなはずないよ」

    くすくす笑うみたいに、
    小さな足をちょこちょこ動かした。

    「だってぼくは、ダンゴムシだよ」

    誇らしげに、
    小さな体をぴしっと伸ばしてみせた。

    その日からわたしは、なんだか気になって
    ダンゴムシに会いに行くようになった。

    わたしを見つけると、ダンゴムシは
    いつものようにのんびりと、
    トコトコとわたしのもとへ来てくれた。

    きれいな穴を掘る楽しさや、
    おいしい葉っぱの見分け方を話してくれた。

    わたしも、楽しくなって
    散歩道で見つけた小さな花や、
    帰り道に見た、大きな
    かいじゅうみたいな雲の話をした。


    互いのことを少しずつ知るうちに、
    もっといろんなことを一緒に
    したいと思うようになった。

    ダンゴムシが教えてくれる世界。

    それは小さくて、静かで、やさしかった。

    反対に、わたしの知っている世界は
    広くて、賑やかで、きらきらして見えた。

    そんな世界もこの子に見せたくなった。

    葉っぱだけじゃなくて、
    もっとおいしいものも。

    木のかげだけじゃなくて、
    もっと広い世界も。

    そうしたらこの子は、
    もっと楽しくなるんじゃないかと思った。

    それからわたしは、
    やわらかい布を敷いて、
    きれいなお皿を用意して、
    おいしいステーキを
    小さく切って並べるようになった。

    「お肉を食べると大きくなれるよ」
    「大きくなったら、少し遠くに遊びに行きたいね」
    「森もいいけど、一緒に海が見たいね」

    わたしは、
    ダンゴムシと幸せになる道を
    たくさん考えた。

    いつもダンゴムシはお皿の前で、
    少し困ったようにしていた。

    「ぼくは大丈夫だよ」

    そう言って、
    遠慮しているように見えた。

    そんなダンゴムシに
    「大きくなれなくても
    知らないからねーっ」と
    わたしはおどけてみせた。


    十日ほどたったころだった。

    ダンゴムシは申し訳なさそうに、
    小さな声で言った。

    「ぼくは、葉っぱでいいよ」

    ......
    わたしは少し、くびを傾げた。

    ただ、一緒に食べたいだけなのに。
    やりたいこともたくさんあるのに。

    「葉っぱだけじゃ、
    オオグソクムシになれないよ?」

    ダンゴムシは、
    にこっと笑った。

    「ダンゴムシでも幸せだよ。
    君は、ステーキを食べて幸せ?」

    ......


    わたしは胸の奥がもやっとして、
    お皿を片付けるのも忘れて、その日は家に帰った。

     
    それから、
    わたしの胸の奥のもやのように、
    おひさまは隠れて、雨が降った。

    二日ぶりに晴れた日。
    わたしはまた、ダンゴムシに会いに行った。


    葉っぱのかげに、君はいなかった。

    わたしはしばらく、小さなお皿を見ていた。

    その近くに、乾いた葉っぱが一枚。

    吹いてきた風にゆられて、
    わたしの目の前をすっと飛んでいった。

    ......

    君は、何になりたかったんだろう。

    わたしは、何を見ていたんだろう。

    これは、ちょっとした寄り道。

    わたしは、
    いつもの散歩道に戻ろうと思う。

     
     
    日々の間に... まわりはトコトコ進んでいく。 わたしはふと寄り道して、小さな石ころで穴を掘っていた。 宇宙の謎か、ダンゴムシの心の中か。 考えることが、どうしようもなく好き。 今日も思考の穴にもぐってみる。

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