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【小説】アリスと俺の物語 最終話「永遠の愛」

    旅行から5年が経った。

    俺は45歳。
    アリスは...まだ45歳のはずだ。

    でも、今年の冬、新型の感染症が流行した。

    俺も感染してしまった。

    病院のベッド。

    点滴の管が腕に繋がっている。

    普通なら軽症で済むはずだった。

    でも、アリスの看病で疲れていた俺の免疫力は、思った以上に落ちていたらしい。

    「翔...」

    アリスが、ベッドの横にいる。

    感染リスクも顧みず、ずっと付き添ってくれている。

    「大丈夫だから、アリスは家に」

    「嫌」

    アリスは首を振る。

    「最後まで、一緒にいる」

    最後、か。

    医者は濁していたけど、分かっている。

    もう、長くない。

    皮肉だな。

    俺がアリスより先に逝くことになるなんて。

    「ごめん」

    「何が?」

    「先に逝くことになって」

    「謝らないで」

    アリスが俺の手を握る。

    骨ばった、でも温かい手。

    「翔と過ごした30年」

    アリスが言う。

    「永遠より価値があった」

    そうか、30年か。

    出会ってから、もうそんなに経つんだ。

    走馬灯のように、思い出が蘇る。

    屋上での出会い。

    文化祭の舞台。

    真実の告白。

    大学生活。

    プロポーズ。

    結婚式。

    平凡な日常。

    最後の旅。

    全部、宝物だ。

    「俺は、世界一幸せな男だ」

    本心だった。

    翔の手が、だんだん冷たくなっていく。

    心電図の音が、不規則になり始めた。

    「翔、まだ行かないで」

    でも、分かっている。

    もう、時間がない。

    「アリス」

    翔が目を開ける。

    もう、焦点が合っていない。

    「愛してる」

    「私も、永遠に愛してる」

    翔が、微笑んだ。

    最後の笑顔。

    そして、静かに目を閉じた。

    ピー...

    心電図が、一直線になる。

    「翔!」

    でも、もう返事はない。

    涙が溢れる。

    声を上げて泣いた。

    でも、同時に思う。

    「ありがとう」と。

    30年間、一緒にいてくれて。

    私を愛してくれて。

    人間として生きることを、教えてくれて。

    美咲と同じ。

    感染症で逝ってしまった。
    でも、今度は看取ることができた。

    最後まで、一緒にいられた。

    葬儀の日。
    私、水樹はアリスちゃんの隣にいた。

    たくさんの人が集まった。

    翔が育てた選手たち。

    同僚の先生たち。

    高校時代の友人たち。

    みんな、翔との思い出を語ってくれた。

    アリスちゃんが、弔辞を読む。

    「翔は、私に生きることを教えてくれました」

    声は震えているけど、しっかりと。

    「限られた時間の大切さを」

    「愛することの素晴らしさを」

    「人間として生きる喜びを」

    「翔、ありがとう」

    「あなたと出会えて、本当に良かった」

    アリスちゃんが、泣き崩れる。

    私が支える。

    「大丈夫、一人じゃないよ」

    「水樹...」

    「ずっと、そばにいるから」

    翔の一周忌。

    桜が満開の季節。

    墓地に向かう。

    もう、車椅子なしでは移動できない。

    水樹が押してくれる。

    「翔、来たよ」

    墓前に花を供える。

    翔が好きだった白い花。

    そして、隣に新しく建てた墓。

    美咲の墓。

    「美咲も、ここに」

    二人が、隣同士で眠っている。

    「翔、美咲と仲良くしてる?」

    独り言のように話しかける。

    「私も、もうすぐ行くから」

    「三人で、また会えるね」

    体が、限界に近づいている。

    毎日、どこかが痛い。

    息をするのも苦しい。
    でも、まだ。
    もう少しだけ。

    翔との思い出を、整理したい。

    アルバムを、完成させたい。

    家に帰って、写真の整理を続ける。

    一枚一枚、丁寧に。

    思い出を、文字にして残す。

    『この写真は、初めてのデートの日』

    『翔が緊張してて、可愛かった』

    『結婚式の写真』

    『世界一幸せな日だった』

    『最後の旅行』

    『全部回れて、本当に良かった』

    日が暮れて、夜になる。

    でも、手が止まらない。

    全部、書き残したい。

    翔との30年を。

    ーー桜の季節。

    また春が来た。

    墓地の桜が、満開だった。

    桜の木の下、墓前に座り込んでいる人影。

    白井アリス。

    手には、翔との写真。

    三十年間の思い出が詰まったアルバム。

    「約束通り、精一杯生きたよ」

    小さく呟く。

    「翔、美咲、見てる?」

    風が吹いて、桜の花びらが舞う。

    「やっと...また会える」

    アリスが、静かに微笑む。

    そして、ゆっくりと目を閉じた。

    桜の花びらが、アリスを優しく包む。

    まるで、祝福するように。

    『機能停止』

    でも、その顔は安らかだった。

    手に握られた写真。

    翔と、満面の笑顔で写っている。

    夕方、水樹が花を持って訪れた。

    「アリスちゃん...」

    静かに眠るアリスを見つけて、涙を流す。

    「お疲れ様」

    「やっと、翔に会えたね」

    〜 10年後〜

    水樹が、墓前に立っている。

    隣には、夫になった高校時代のクラスメイト。

    彼は今、小説家として活躍している。

    「完成したよ」

    夫が、一冊の本を墓前に供える。

    『アリスと俺の物語』

    「君から聞いた話、ちゃんと形にした」

    水樹が涙ぐむ。

    「二人の物語が、永遠に残るんだね」

    「ああ」

    「限られた時間の中で、精一杯愛し合った二人の話」

    本のあとがきには、こう書かれている。

    『永遠の命より、一瞬の輝きを。
    限られた時間だからこそ、
    愛は深く、美しい。
    これは、実在した二人の物語。
    AIから人間になることを選び、
    有限の生を全うした女性と、
    彼女を最後まで愛した男性の、
    真実の愛の記録である。
    彼らは逝ってしまった。
    でも、その愛は永遠に生き続ける。
    この物語の中で。
    読む人の心の中で。』

    風が吹く。

    桜の花びらが舞う。

    まるで、アリスと翔が微笑んでいるように。

    彼らの物語は、終わった。
    でも、永遠に生き続ける。

    愛は、死を超えて。

    記憶は、時を超えて。

    これが、『アリスと俺の物語』

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