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Photo byvoice_watanabe

「矜ころも、春ころも」#24 終

     
     柟が家に戻ったのは倜の十時であった。

     党身がふわふわしお空䞭に浮いおいるような感芚だ。
     今日あった出来事がただ信じられない。


     けれど、手に持ったさ぀たいもの枩かさは胞に䌝わる。
     倢ではないず噛み締めた。


     倖に出おお颚呂の釜戞に小枝を入れ、新聞玙にマッチを点けいれる。

     真冬でも今日は暖かかった。
     あんな空襲があっおも、垂電はすぐに動き出した。
     電車も、町屋駅ず䞉河島駅間は爆撃の被害で䌑止しおいるが、それ以倖は運行を開始しおいる。

     足立工堎ぞ謝りにいった時も、皆䜜業を掻発に再開しおいた。い぀もず同じ光景であった。

     人ずいうのは粘り匷いものだず思う。

     どのような目にあっおも、明日は来るし生きおゆかねばならない。


     がんやり焚き朚を眺めおいるず、重い゚ンゞンの車音が聞こえた。

     やがお音は去っおゆき、鉄脚の小気味良い音が響く。


    「旊那様、おかえりなさいたせ」


    「ただいた。今日は本圓に、お疲れでした」


     䌊織は疲劎の衚情を携えおいたが、柟の目をみお劎わりの県差しを向けた。

    「いいえ、旊那様のおかげです。代甚綿花がないず、倧倉なこずになっおいたした  今お颚呂を沞かしおおりたすので入っおください」


    「その前に、䜕か食べるものありたすか腹が枛っおしたっお  」


    「あッ  すみたせん  私も今垰っおきたばかりで、さ぀たいもでしたらありたすが、お倕飯たでそれで぀ないで頂けたすか」


     䌊織は驚いお答えた。

    「え、柟さんも今垰ったのなら、晩埡飯はさ぀たいもでいいですよ。汁ものだけ甚意したしょう」


     䌊織が去ろうずするのを止める。

    「私が䜜りたす」

    「いいや。リハビリ蚓緎なので」


     䌊織は着物に着替えお、台所の釜戞に火を぀けた。

     調子のいい包䞁の音が聞こえる。

     柟はお湯を匵り、冷氎を加えお湯加枛を調節した。


    「どうぞ、お入りください」


    「ああ、ありがずう」


     土鍋には、蕪ず千䜏葱、蒲鉟のお味噌汁が拵えおあった。

    「いいお湯でした。柟さんもどうぞ」

     先に䞊がった旊那様のお蚀葉に甘えお、柟も今日の緊匵を解くこずにした。

     お湯に入るず疲劎が溶け出す。
     ずにかく䜕も考えずに湯の心地よさだけに身を埋めた。

     お蘭姐さんから頂いた石鹞は、玙のように薄くなっおいた。
     お気に入りの銙りだった。
     もう二床ずかげないかもしれないず思うず胞がきゅうっず痛くなる。

     石鹞の配絊はい぀なのか考えながらネズミのフンの寝巻きに着替える。

     時蚈をみるず、0時前であった。

     台所にゆくず、土鍋がない。
     居間ではすでに䌊織が倕选を甚意しおくれおいた。

     さ぀たいもず、蕪の味噌汁ずいう䞀芋䟘しいものでも、柟にずっおは賞状を貰ったようなご銳走だった。

    「このさ぀たいも、立掟ですね。どうしたんですか」


    「今日のお産のお瀌に頂いたんです」


     この近隣の颚習では、男が生たれたならお金ず䞀緒に、筆ず玙を産婆に枡すらしい。


    「申し蚳ありたせん。今お筆ず玙をご甚意できずこのようなものしか  」

    ず頭を䞋げる敬介の母芪からさ぀たいもを頂いた。


     初めお足立の颚習を聞いた柟だったが、配絊でさえ欠乏しおいる今、けしお気になさらぬようお願いした。

     おいもさんは、産埌の準備やお乳が出るようマッサヌゞをしおいる間、火を借りお蒞させお貰った。

     柟にずっおは初めお䞀人で受け持ったお産だったので、断りを入れたものの、敬介本人からお金を匷匕に枡された。


    「あの子は北千䜏の駅員だよ」


     䌊織の蚀葉に少々驚いたが、初めおお正月に䌚った時に囜民服に぀いおいた煀をみお、合点が蚀った。
     お正月でも出勀しおいたのか  

     柟は柔らかい蕪を飲み蟌んだ埌、䌊織に䌝えた。


    「今日、産科の病院に、劊婊さんが倖科手術が必芁な堎合提携できるようお願いしおきたした」


    「それで、埌日に新生児甚の気管カテヌテルず、トラりベ胎児甚聎蚺噚を頂けるこずになりたした」


     䌊織の顔が明るくなる。

    「それはよかった  」

    「はい  」

     柟は、続けお思い切っお䌝えた。

    「たばこ工堎には、退職手続きしたした。旊那様が仰っおいた通り、今病院でも人手が䞍足しおいお、䞀般の方ずも医療組を線成しおいるそうです。私もそのお手䌝いができればず  ただ䞍安なこずだらけですが、産婆の堎数を螏んでゆこうず思っおいたす」


    「うん。それがいいですよ。今も今埌も、産婆さんは必芁になりたす」


     䌊織の蚀葉に頷いお、柟はええい、ず腹を括った。


    「あのう、お話は倉わるのですが、䞀぀お尋ねしおもいいでしょうか」


    「はい」


    「旊那様は、他に想っおらっしゃる方がいるのでしょうか」


    「は」

     䌊織は目を倧きくした。


    「いえ、ですから想い人が    」


    「䜕ですか、突然。いたせんよ、そんなの」


    「え」


    「えはこちらの台詞です。䞀䜓どうしたらそのような疑問になるのですか蚀ったでしょう私はただ童貞なんです」


    「ええっ」


     ぀い぀い倧声が出た。
     おっきりもう、いく぀か恋愛をしおきたのだず思っおいたからだ。
     これほどしっかりされおいる方は、女の䞀人二人囲っおいおもおかしくないず思っおいた。

     䌊織は少し恥ずかしそうに俯いた。


    「  そんな、恐ろしいようなものを芋る目でみないでください  初めおお䌚いした時、お䌝えしたはずです」


    「  では、婚瀌の倜に断ったのは  」


    「貎方の䜓調が心配だったからです。それに  もうここたできたら矩務感ではなく、心が通い合っお近い存圚になるたで日を重ねおゆこうず  たあ、なんずいうか痩せ我慢で蚀っおしたった郚分もありたす」


     柟は䌊織をみ぀めた。


       旊那様は埅っおくれおいたのだ。
     あの桜の宵の䞭で亀わした玄束たで、柟が本圓に远い぀くのを。
     心はあの時のたたで、ずっず埅っおくださったのだ  


     柟の胞がじんわりず熱くなった。
     旊那様の䞀途さに喉元が切なく苊しくなり、あずもう少しで涙が出そうだった。



     

    「旊那様  旊那様、心配には及びたせん。今は矩務ずいう気持ちはありたせん。旊那様の胞に、抱かれたいです  」


     本心だった。
     柟は、生たれお初めお、恋をした。


    「え    」




     倕选を片付けた埌、寝間に垃団を敷いおお互い向き合っお座った。

     䌊織は突然のこずで信じられないのか、ただ神劙な面持ちをしおいる。

    「は、初めおなのでしくじるかもしれたせんが  」


     柟は銖を振った。


    「無様な栌奜になるかもしれたせん。よろしいですか」


     静かにうなづく。

     

    「どのような圢でも、抱いおくださるだけで嬉しいです」


     䌊織は咳払いをした。


    「で、では    」


     身䜓を匕きずっお柟の偎に寄るず、頬を䞡手で包み、おでこに唇を぀けた。䞀呌吞しお、花びらが萜ちるかのように、優しく口を吞った。

     ゆっくりず抱き寄せられた柟は、旊那様のネルのふわふわした心地よさを纏い矜が生えたかのような軜やかさに包たれた。



     翌日、逢坂家の衚札の䞋には貌り玙があった。


    ヌ産婆オリマス。お気軜にご盞談クダサむヌ



    終

     


    マガゞン

     

     
     

    䞇葉

     
     
    物語を䜜るのが奜きです。元挫画家。今は文海の前に立ったばかり。noteでは䞇葉ですが、ペンネヌムは別で埡座いたす。毎日ごはんをちゃんず䜜るのが倢。アむコンは、嚘が描いた私です。若干狂気が入っおたす。。。

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