日記2026.9.18
お酒が入って酔っているから、適当に書く。そうやって保険をかける。たまには許して欲しい夜。
大学の同期のK(イニシャルは今日も適当)から連絡があって、飲みに行くことになっていた。異動で予定がばたついていたけれど、リスケにならずこの日は死守できた。しかも連休。つまり華金である。
Kがここはどう?と提案してくれたので、予約する。19時に店集合。休日の僕が先に着き、仕事から直行してくるKを待つ。スーツ姿のKが現れる。Kは去年会ったときと変わらない。
「今日は溜まりに溜まった弱音を吐いてもいいですか?」
開口一番にKに向かって言いながら店の扉を開く。
「俺に言ってくれるなんて嬉しいよ」とKは言ってくれる。そういう言葉を返せるなんていいなと思う。
小さなイタリアンのお店でまずはピルスナーを頼んだ。
「異動おめでとう」と乾杯してくれたが、
「おめでとうなのかな」と返した。それが弱音の合図となって、不安をひたすらに吐いた。
「新店舗立ち上げの配属になって、右も左もわからないのに、何にも決まってない中で自分たちで全部決めないといけない。主体性が求められる環境のなかで、他の社員がギンギンになりながら、仕切ったり、指示をしたりしているのを見て萎縮してしまう。一人ならこんなにも主体的に自分の力でなんでもできるのに、組織に身を投じた瞬間に途端に主体的になれなくなる。それがすごく情け無いし、それじゃいけないこともわかってるし、誰かと働くということは、そういうことから逃げてはいけないから、逃げてはだめだというプレッシャーがある」
ピザとパスタとカルパッチョを口に運びながらばばっと弱音を並べる。
「なるほどなあ。確かに、歳下や部下がギンギンなってるのはきついかもな。でも谷(Kは僕をそう呼ぶ)は責任感じてるんじゃない?それってすごいことだよ」
「それでいうと俺もさ、自分の島みたいなのができて、自分より歳上の人たちをまとめなきゃいけなくなって、へこへこしながらしばらく落ち込んだな」
「俺たちちょうどこういうことに悩む年代なのかもな」
職種も環境も違うけれど、KもKで同じようなものを抱えていたのかもしれない。いいのかわるいのかわからなかったけれどそのことに安心した。
散々弱音を聞いてもらい、恋の話になった。Kは3ヶ月前に彼女ができたらしい。馴れ初めを聞いて、「東京ですやん」と思わず吐く。
「谷は?」
「好きになるってなんだったっけかなという感じです」
「いいなと思っても、好きになったり付き合ってしまえば、とたんにもう会えなくなる確率が高まるじゃないですか。そしたら好きになるよりも、このままがいいかもしれないって思うんすよ。そしたら好きってなんだっけってなるんです。そもそも向こうにその気がないなってわかるんです。そしたらなおさらこのままがいいじゃないですか。そうするとね、好きにならないようにしようってなって会えなくなるんです。俺そんなことばかり繰り返してますわ。馬鹿なんですわ」
こんなことは絶対Kにしか話せないと思う。愚かであり、滑稽であり、情けがない。
「俺は逆に抑えきれないよ。男子校出身だから。ちょっとのことで、恋スイッチになるから、それを抑えよう抑えようとしている」
KはKでそれでいいのかとすこし考えているようだった。
デザートを食べて、満腹の状態で夜の街を散歩した。
居酒屋いかがですか?キャバクラいかがですか?ガールズバーいかがですか?
夜のお誘いを全てお断りしてぷらぷらと歩く。街ですれ違う人たちの顔がみんなへろへろと溶けている。
「華金だ」
「俺ずっとこんな華金がしたかった」
つまらない願いが叶ったことを告げて、もうひとつ願いごとを告げる。
「公園いきませんか。夜の公園で缶チューハイが飲みたいです」
繁華街を抜けて、住宅街を抜けて、公園を目指した。デカい公園があるよと地図を見ながら向かったが、デカダンジョン暗公園で、思ってたんと違うと文句を言い、住宅街にぽつりとある別な公園を目指した。
ベンチに二人で座ってコンビニの缶チューハイとスミノフを飲んだ。そういえばこの話がしたかったと、この短期間で十八番にした、種子島ロケット見れなかった話を披露する。あまりウケなかったのがおもしろかった。Kは空を見上げながら夏の大三角を指差す。本来ならあそこに天の川があるはずなんだよとKは言う。それから最近のプラネタリウムは星の名前を教えてくれないと嘆いた。
「一生暮らすにはいくら必要なんだっけ?」
なんの脈絡か忘れてしまったけれどKにそう聞いた。
「60までに2000万って聞いたことがある」
「そんなに?」
「そもそも60超えてから何ができるんだろ」
「でも俺らの両親、意外と動けてるじゃん」
「でもさ、俺らの親も、朝起きて死ぬのがこわいとか思うんかな。思うんだろな」
「そりゃ、俺たちより死を意識していると思うよ」
「認知症って死を認識しないためって詩的な説を聞いたことあるよ。科学的な根拠はないと思うけど」
不安や恐怖を感じることと、それの認識を拒否すること、どちらが幸せなんだろう。星を見ながらいつかくる死を見つめる。
いつも、つまみがあってもちょびちょびと飲んでいたコンビニのお酒が、Kと話していたら空になっていた。
「谷の本よかったよ。ずっとこれを言おうと思ったんだ。谷の本はすごく夏の青々としたものを感じた。色で言えば水色だった。エッセイにわからないことを知ることは世界が広がるって書いてたでしょ?スティーブンキングのサンキューチャックでも同じようなことを言ってて、谷の本をすぐに思い出した」
駅までの帰り道、ずっと待っていた感想をくれた。最初から俺のことを知っていて、そのひとに書いているものを読んでもらうのはやっぱりどこか恥ずかしいものがあって、それはまだKにしかできていない。
