第一話 第一景|私が見た景色
同じ出来事を、もう一度書く。 第一景 私が見た景色
工場の中に「非日常」を作った男の話
長年、工場で休みなく働いていると、ある日ふと奇妙な感覚に襲われる。
「休みがない」のが、当たり前になってしまうのだ。
そうなると、脳のバグはさらに加速する。
「あれ? そもそも『休みたい』って何だっけ?」
「というか、『休み』って一体何なんだ?」
哲学的な迷宮に迷い込んだ私は、自分なりに調べてみた。
すると、目からウロコの答えにたどり着いた。
ーー普段の仕事の日は「日常」。
ーー休みの日というのは「非日常」。
つまり、休みの日に普段と違うこと(たとえそれが疲れることであっても)をして、心がリフレッシュできれば、人間はそれでOKらしいのだ。
「ええこと教えてもらったな」
納得した私は、次の日から仕事への向き合い方と感情を、少しずつ変えていくことにした。
工場から出られない、休みもない。ならどうするか。
「仕事の中に、非日常(ゲーム)を作ればいい」
まずは普段なら絶対にしないやり方に挑戦した。
普通なら1人1ラインのところを、同時にいくつかのラインをこなす。できない部分を見つけては、その場でシステムをアップデートしていく。
それをゲーム感覚で繰り返しているうちに、気づけば私は1人で4つのラインを同時に回せるようになっていた。
だが、それができるようになった瞬間、それは私にとって「日常」に成り下がってしまう。
飽きた私は、そのラインから抜け出し、また全く関係のない別のラインをゼロから始めだした。
はたから見れば、ただの落ち着きがない「変態オッサン」に見えたかもしれない。
だが、当の本人は、仕事の中で『非日常』を楽しむという、変態的な快感の日々を過ごしていたのだ。
しかし、人間とは欲深い生き物だ。
会社から与えられた仕事の枠組みの中だけでは、だんだんと「非日常」を作り出すのが難しくなってきた。
「よし、ファンタジスタになろう」
私は、型にハマった空間から抜け出すという、次のステージに進むことにした。
きっかけは、他工場への見学研修ーーいわゆる「応援」という名の出稼ぎ制度だ。
そこで見たこと、盗んだ経験をフルに活かし、私は自社に戻ってから行動に出た。
社内にある道具をかき集め、DIYの手作り感満載で、工場の設備を活かした「新設ライン」を独自に勝手に作り上げてしまったのだ。
ここでも私の「変態オッサンぶり」は、周囲から見ればかなり異様で変であっただろう。
しかし、弁明させてほしい。
私はただ、非日常が欲しかっただけなのだ。
誰もやったことのないラインを自分で作り、動かす。あのゾクゾクするような非日常が。
……ただ、悲しいかな。
その新設ラインも、会社から「素晴らしい!」と仕事評価されて成果になってしまうと、それはほぼほぼ、また次の「日常」へと変わっていく。
あの頃の私は、ただ必死に「休み」を探していた。
その結果、誰よりも自分で自分の仕事を増やす、ただの変態オッサンになってしまった。人生とは、本当に思い通りにはいかない(笑)。
でも気がつけば私は、休みをただ待つだけの人間から、仕事の中に自力で「非日常」を作り出せる人間になっていた。
だから今でも、新しい仕事や課題を見ると、少しワクワクしてしまう。
それが評価されようが、またすぐに日常になろうが関係ない。
次の非日常は、まだ誰も作っていない場所にあるのだから。
【あとがき】
noteを書き始めてから、ずっとモヤモヤしていたことがあります。
他の人の記事を読んだり、自分の昔の文章を読み返したりしていると、悩みそのものは案外みんな似ているように思う
家族。仕事。後悔。孤独。
でも、ある日ふと気づきました。
同じ出来事でも、人によって心にかかる力は全然違うんだ、と。
私は答えを書きたいわけではありません。
むしろ書けば書くほど、「あれ?俺、こんなこと思ってたんや」と、自分で驚くことばかりです。
だから同じ出来事を、もう一度書いてみようと思いました。
次回も、同じ出来事です。
でも、多分まったく違う話になります。
