
『へセドの糸』あとがき※ネタバレ注意
ネタバレを含む内容になります。
まだ本編を見ていない方は先に見ていただけると嬉しいです。
この物語は、誰かを救う話というよりも、救いたいと思ってしまった人の話でした。
おとは、何度も手を差し伸べられます。けれどそのたびに、それを取ることができませんでした。それは弱さというよりも、過去の中で身につけてしまった選び方だったのだと思います。
最初に差し伸べられた手が、必ずしも安心できるものではなかったとき、人はその後に伸びてくる手にも、簡単には触れられなくなってしまうのかもしれません。
それでもおとは、誰とも関わらずに生きていたわけではありませんでした。かなちゃんのように、痛みを共有しなくても隣にいられる人がいて、ゆきのように、自分の痛みを言葉にしてしまえる相手もいました。
そのどちらも、おとにとっては必要な関係でした。
ただ、違っていたのは、「痛みをどこまで見せられるか」だったのだと思います。
ゆきとの関係は、安心と同時に怖さも含んでいました。大切に思うほど、自分の言葉が相手を傷つけてしまうのではないかという不安が、いつもどこかにありました。
だからこそ、おとは何度も距離を取ろうとしながら、それでも繋がりを手放すことはできませんでした。
「へセド」とは、「慈愛」「思いやり」などを意味する言葉です。
この作品では、「へセドの糸」という言葉をタイトルにしました。
けれど、その糸が何を指すのか、私も答えを持っているわけではありません。
母が娘を思う気持ちも、ゆきがおとを思う気持ちも、どちらも優しさから生まれたものだったのかもしれません。
その優しさは、誰かを守る糸にもなれば、誰かを縛る鎖にもなります。
その違いは、誰かが決められるものではなく、おと自身にも、分からないままです。
だから、「へセドの糸」にも、正解の形はないのかもしれませんね。