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「嘘」ーー実家に帰省したときの話

    両親には、精神疾患の診断を受けて休職をし、最終的には会社を退職して個人事業主になったことはもちろん、墓場まで持っていこうと思っているもう1つの「大きな秘密」についても話していない。
    (「大きな秘密」については、いずれすべてが片付けばここで話せる日が来るかもしれない)

    おそらくどの秘密も、両親は受け入れてはくれないだろう。特に「大きな秘密」については、確実に受け入れてくれない。もし両親の耳に入れば、延々と怒鳴られるか、勘当されるか、逆に実家に連れ戻されるか…。
    それに、高齢の両親に、僕のせいで余計な不安を覚えさせたくない。

    両親に対して僕が僕の秘密を秘密のままにしておきたいのは、そんな自己保身と両親への気遣いへの気持ちからだ。
    いや、9割方自己保身からだと言って良いだろう。両親への気遣いなど建前でしかない。

    とはいえ、秘密を守るためにずっと実家に顔を出さないわけにもいかず…。

    「最近こっちに来ないから親も心配している。近々都合がつけば、帰ってこい」

    兄からそのようなLINEが来て、渋々実家に足を運ぶことにした。ちなみに兄には、個人事業主になったことも、「大きな秘密」についてもすべてを打ち明けてある。そのうえで、精神的な支えとなってくれている。そんな兄からの要望であれば、断るわけにもいかない。それに、確かにずっと実家に帰らないのも、それはそれで両親にいろいろと勘ぐられるかもしれない。

    「〇月〇日に、そちらに伺います」

    母にそう連絡をしてから、ずっと不安と緊張に心を支配されていた。

    ーー休職や退職、そして「大きな秘密」がもし両親にバレていたらどうしよう…。

    そんなはずはないと思いつつ、どうしても怖かった。

    当日、実家の数十メートル手前のあたりで、手土産のクッキーの箱詰めが入った袋を握りしめて、数回深呼吸をした。そしてまた歩き出し、玄関前で再度深呼吸。そしてインターフォンを押した。

    いつもと変わらぬ父と母の姿がそこにあった。

    ーーあぁ良かった。何もバレていない。僕の秘密は、どうやらまだ秘密のままだ。

    手を洗ってから、仏壇の前で目を瞑り、いつもより長く手を合わせた。

    ーーこんな孫で、本当に申し訳ございません。

    それから、両親と兄と食事をした。食事中、細心の注意を払った。休職や個人事業主になったことも、「大きな秘密」もバレないように。仕事の話を振られたら怪しまれないように受け答えしつつ、それ以上深入りした話はしないようにした。
    酒を飲んでも、あまり酔わなかった。

    2時間ほど滞在し、実家を後にした。

    「またいつでもいらっしゃい」

    帰り際、玄関先で笑顔の母に言われた言葉。
    嬉しいようで、怖いようで。
    母の笑顔を素直に受け止めたいのに、胸の奥では大きな後悔と罪の意識が広がった。

    高齢の両親と、あと何度こうして顔を合わせることができるだろう?

    そして、あと何度嘘をつかなければならないのだろう?


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    ホリノウチ ヘラルド|エッセイ|掌編小説 フリーランスで、適応障害で、たぶんHSP。 herald.horinouchi@gmail.com

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