見立て
1.齋藤弘樹の場合
鈴木がまた、殴られてる
佐々木を庇っただけなのに…
まぁ、主犯を殴るのは、不味かったよな。
それでもやりすぎだけど。
佐々木は、知らんぷり。
鈴木は何がしたかったんだろう?
僕はあいつを殴ってやりたい。
割って入れない僕も、きっと大したやつではないんだけど。
少し通り過ぎて、下駄箱の前に来ると佐々木が帰ろうとしている。
舐めたヤツだ…
お前のせいで殴られてんだぞ。
それでもやっぱり、佐々木を殴るなんてことは、できなかった。
何もしない奴が1番ムカつく。
だから、佐々木を無視する。
さっさと帰ろう。
一回だけ、鈴木に聞いてみたことがある。
「なんで、あんなことしたの?」
鈴木は、頭を掻きながら少し考えて言った。
「やってみたかったんだ」
不覚にも憧れた。
だからこそ、わからなかった。
正直、鈴木とは友達にはなれないけど
同い年なのにこんなに違うんだ、と思った。
「齋藤くんもなんかあったら言いなね」
鈴木がボソッと続けた。
大丈夫。僕は佐々木とは違う。
自分のことは自分でやる。
「ありがとう」
でも、彼の気持ちを否定は出来なかった。
だからこそ、素直に受け取るわけにもいかなかった。
相変わらず、殴られている。
それはもう、信じられないくらいに。
毎日見ている。
いや、見に来ている。
彼の勇姿を。
見届けるのが僕の使命だと思った。
正しいことをしたやつがこんな理不尽な目にあうなんておかしい。
少なくとも僕は、許せない。
可哀想なんて言いたくは無いけど、それでもやっぱり可哀想だと思った。
鈴木が殴られるのを見始めて、3日ほど経った。
何度見ても鈴木は、ただ、殴られている。
特にやり返すこともなく。
佐々木はこれを見て何を思うんだろう。
理不尽だと思わないんだろうか。
僕だったら罪悪感で圧し潰される。
何日か経ったら鈴木が殴られるところを見なくなった。
良かった。
と、思った。
その代わりに殴っていた渡邉が入院したらしい
きっと、鈴木だ。
と思った。
これだけやられてきたんだ。
爆発したっておかしくはない。
「知ってるヤツいるかー?」
担任が壇上で事実確認と称した裁判を開催してる。
でも、誰も手をあげない。
知ってても、知らなくても
当たり前だ、誰も鈴木を責めるわけがないんだから。
2.松井優花の場合…
「ヤバーい笑」
鈴木くんが渡邉くんを殴った。
佐々木くんを庇ってのことらしい。
優しい人なんだなって思った。
かっこいい、とも思った。
気づけば目で追うようになった。
授業中、彼はいつもなにか考えているようで、細かくメモを取っているけど、授業そのものに集中してる感じじゃなかった。
鈴木くんと仲良くなりたい。
ふと、そう思った。
「松井さん、ごめん。教科書見せてくれない?」
鈴木くんに言われた。
私の名前覚えてくれてるんだ。
少し意外だった。
隣り合わせの机の間に挟まれる教科書が自分の方に寄るとすぐに元に戻して謝るから
「大丈夫だよ笑」
思わず言ってしまった
こんな些細なこと気にするなんて優しい人だ。
「鈴木くんはどうして渡邉くんを殴っちゃったの?」
「やってみたかったんだ」
鈴木くんは言っていた。
照れ隠しなんだと思うと可愛い
でも、こういうのも含めて鈴木くんの魅力だと思った。
下校時刻が近くなると鈴木くんはいなくなってしまう。
一緒に帰りたいんだけど
でも、きっと
鈴木くんは断れないだろうから
一緒に帰ろうなんて言っちゃったら
帰ってくれる
そうはなりたくない。
私の身勝手で鈴木くんを、振り回したくはない。
次の日に、理由がわかった。
渡邉くんにまたやられてるんだ。
酷い…
現場を見ていないけど
渡邉くんが無傷だから
鈴木くんはやり返していないんだろうな
そんなとこまで優しくなくていいのに
「大丈夫?」
「全然大丈夫だよ〜笑」
この笑顔が、辛かった。
私にどうにかできることじゃないかもしれないけど
鈴木くんが佐々木くんにそうしたように、守ってあげたい。
そう思った。
「ほんとに?」
「え、うん。ほんとに」
何もないような顔で誤魔化しているように見えて辛かった。
私の前ではそんな顔して欲しくない。
渡邉くんの前に立つと鈴木くんとは違う緊張感がある。
「なんだよ」
明らかに不機嫌な声で凄むのでさすがにちょっと怖い。
「あのさ!」
恐怖を打ち消そうと大きな声で気合を入れた
多分もう、ちゃんとは聞き取れてないと思う。
「もう鈴木くんを殴るのはやめて!」
気づいたら走っていた。
明らかに体育の時より早かったと思う。
でも、言えた
やった
これで少しでも鈴木くんがやられなくなればいいな。
大丈夫、絶対私が守るから
次の日、鈴木くんに新しい傷はなかった。
良かった。
もう何もされてないんだ
だったらもう大丈夫。
良かった
あと、渡邉くんが入院したことを聞いた。
どうせ誰かと喧嘩しただけでしょ?
知ってるかって…
知るわけないじゃん
3.佐々木康太の場合…
「やってみたかったんだ。なんかまずかった?」
僕はただ、感謝を伝えたかっただけなのに言葉が出てこなかった。
渡邉には高校に入ってすぐ目をつけられた。
たぶん僕は何もしていないと思う。
でも、何かが逆鱗に触れたんだろう。
一方的な暴力。
これが僕の日常だった。
でも、終わりは呆気なかった。
だからこそ信じられなかった。
鈴木駿佑。
僕が言うのもなんだけど、目立つほうではなかった。
僕と同じようなタイプだと思っていた。
だから気になった。
なぜ僕を助けたのか
「どうして、僕を助けてくれたの?」
「助けた??」
「渡邉くんを殴って、助けてくれたじゃないか」
「あ〜」
鈴木は少し僕から目を逸らして言った。
「やってみたかったんだ。なんかまずかった?」
やってみたかった?
何を?
用意していた「ありがとう」を言うことは出来なかった。
「もう大丈夫だよ。」
鈴木は僕の肩を叩いて言った。
渡邉の拳より体が震えた。
それからはなんとなく鈴木を避けていた。
それでも、言わなくちゃと思ってはいたけど。
渡邉からの攻撃は途端になくなり、僕がいたところには鈴木がいた。
きっと周りの人たちには無責任な奴だと思われるんだろう。
それでも怖かった。
渡邉がではない。
授業中に鈴木を見ると毎日顔や体に傷が増えていた。
なんなんだろう?
どうしてそんなことをしているんだろう?
助けてもらったはずなのにどうして怖がってしまうんだろう?
僕が変なのか?
鈴木にとっては困っている人を助けるのは当たり前過ぎただけなのかもしれない。
そうであって欲しかった。
下駄箱の前で齋藤くんに会った。
というかすれ違った。
声をかけようとすると足早に帰っていった。
彼には僕が悪人に見えているのかもしれない。
正直、僕もそう思う。
でも、怖いんだ。
受け取った優しさを消化できないなんて思わなかった。
正直、自分を真人間だと思ったことは無いけど
それでもある程度、真面目で勤勉な人だと思ってた。
でも、今の僕はどうだ。
助けてくれた鈴木を見殺しにして、オマケに怯えている。
なんてやつだ。
それでもあれから、礼を言えずにいた
何日か経った…
鈴木の傷が増えていなかった。
やっと止まったのか?
だとしたらまた、僕の番なのかもしれない。
それは、困る。
まだ、僕は彼に礼を言えていない。
担任が来て第一声だった。
「渡邉が入院した。体育館で倒れてたらしい。何か知ってるやつはいないか?」
驚いた。
鈴木がやったんだ。
手はあげなかった
それが正しいと思った
「良かったね」
鈴木に声をかけた
もう、ありがとうは言えなかった。
4.鈴木駿佑
人に殴られてみたかった。
というより、殴られるって、どれくらい痛いんだろう?
佐々木くんが殴られていたのを知ってたから最初は聞いてみようと思ったけど、佐々木くんは少し苦手だ。
じゃあ渡邉くんにお願いしてみようかな?
でも、いきなりそんなお願いすると変かもな。
佐々木くんと同じことすれば殴られるのかな?
佐々木くん、何したんだろう?
「うぜぇからだよ」
なるほど。
全然わからない。
全く具体的じゃない。
何がウザイんだろう?
佐々木くんを3日ほど観察したけど分からなかった。
佐々木くんは、挙動不審でずっと何かに怯えてる。
でも、それだけだ。
これを真似る?
いや、それは意味が無い。
多分、佐々木くんみたいに上手くはやれない。
わかった!
じゃあ逆に、渡邉くんの邪魔をしてみようかな?
これも多分渡邉くんにとってはウザいよね
何を邪魔すればいいんだろう?
渡邉くんが楽しんでるものがいいよね。
「佐々木殴るとスッキリはするな。てかお前最近なんなんだよ?」
なるほど、じゃあそれで行こう。
全然いない。
どこで殴ってるんだろう?
あ、佐々木くんだ。
声をかけようと思ったけど、やめた。
人に殴られるところなんて見たくなさそうなタイプだと思う。
じゃあ、しらみ潰しか〜
すぐ見つかった。
放課後帰ろうとしていると体育館の裏から出てきた女の子達が、
「ヤバーい笑」
って言ってたからだ。
渡邉くんが佐々木くんにやってるのは多分、ヤバいことだ。
見つけた。
でも、どう入るのがいいんだろう。
佐々木くんを助けてあげるみたいに入るのがいいのかな?
えー嫌だな笑
別に佐々木くん好きじゃないから嬉しくはないし。
いきなり入っていったらそれっぽい感じに見えちゃうじゃん。
どうしよう…
「あれ、ヤバくない?」
また、女の子が言っている。
なるほど、人を殴ってるのはヤバいんだった!
それなら僕もヤバいやつに見えるといいんじゃない?
よし、
思いきり床を蹴飛ばして拳を渡邉くんの顔に振り抜いた。
え、ちょっとスッキリ!
渡邉くんの気持ちがわかった!
「なんだテメェ」
え?
なに?
なんなんだろう。
え、わかんない。
どうしよう。
逃げろ!
逃げ切れた、と思う。
あれ?
佐々木くん?
「鈴木くん?どうして? どうして僕を助けてくれたの?
」
え?
そんなに気になる?
助けてないけど。
「助けた??」
「渡邉くんを殴って、助けてくれたじゃないか」
あ、やっぱりそう見えちゃったんだ。どうしようかな?
違うって言うと可哀想なんだけど。
「やってみたかったんだ。なんかまずかった?」
よし、これで嘘はついてない。
ん?
でもなんかポカンとしてる。
え、なに?
今度はどうしたの?
なんか優しそうなこと言えってこと?
「もう大丈夫だよ」
よし、これも嘘じゃない。
多分あの怒り方だったら渡邉くんは明日は僕の方にくるはずだから。
まぁ、来なかったら困るけど。
多分、大丈夫!
佐々木くんバイバイ。
次の日、渡邉くんは放課後に来た。
意外と、律儀な人だ。
「ちょっと来い。」
ついて行ったらまた、体育館。
殴る時は体育館、覚えた。
着いてそうそう渡邉くんは僕に何も言わずに殴りかかってきた。
いよいよだ…
あれ?
痛くなかった。
何発か殴られてみたけど。
おかしい。
だって佐々木くんは嘘みたいに痛がってたのに
まずい、僕が殴ったのが行けなかったのか?
でも、ヤンキーの人って殴られた方がウザイんじゃないの?
わかった!
足りないのかな?
よし、
拳を振ってみる。
あれ?
当たらなかった。
「なんだテメェ!!!」
渡邉くんがものすごく怒ってる。
いいんじゃない?
ドンッ!
音の割に痛くない。
具合悪いのかな?
何発か殴られてみたけど全然痛くなかった。
怒った時の顔だけは結構良かったけど…
次に期待だな。
殴られ始めて1週間たった。
彼のパンチは一向に良くならない。
まさかの最初の日が1番よかった。
これは最早、佐々木くんが悪い。
あんな大袈裟に痛がるともう少し上があると思っちゃうよ。
もういいかな。
どうしたらやめてくれんのかな?
また、佐々木くんがターゲットになるのが1番楽なんだけど、ちょっとな〜
ほっとけばいいや
授業が終わるとすぐ来た。
ほんとに真面目だな。
「鈴木来いや」
今日も来た。
というかもう、渡邉くんもルーティン化してるよね
どうしよう。
やめてって言ったらやめてくれるタイプじゃないだろうしな。
まぁいいや
体育館に着いたら渡邉くんに馬乗りになってたくさん殴ってみた。
最初は防御?みたいなことをしてたけど意外と簡単にやめた。
手が痛い。
意外としぶとい。
パンチが顔に入った瞬間だった。
結構すんなりやられた。
あ、ヤバ
死んでる?
血だらけの顔に手を近づけて確認してみる。
あ、息はしてそう!
良かった!
次の日学校に行くと先生がみんなの前で言った。
「渡邉が入院した。体育館で倒れてたらしい。何か知ってるやつはいないか?」
あ、知ってる知ってる。
少し周りを見るとチラチラと僕の方を見る人がいるけど、誰も手を挙げない。
え、いいの?
じゃあいいや。
恥ずかしいし
でも、とりあえずお見舞いくらい行くべきだよね。
総合病院って初めて来たけどすごい、でかい。
受付にいる人に聞くと案外すんなり渡邉くんのところに行けた。
「なんだよ?テメェ」
渡邉くんすご、包帯だらけだ。
とりあえず謝る?
いや、でも僕もやらせてあげてるしな〜
でも、まぁとりあえず
「生きてて良かったね」
渡邉くんが気絶した
違ったかぁ…