
「便利になるたび、夏が長くなる」
「便利さと排熱」
「AIって、どこにいると思う?」
そう聞かれて、私はスマホの画面を見た。
でも本当は違う。
遠くの巨大なサーバー。
止まらない冷却ファン。
絶えず流れ続ける電力。
私が「今日の献立」をAIに聞いた瞬間にも、地球のどこかが少し熱を持つ。
たった一回。
でも世界中の人間が、一日に何億回も同じことをしている。
便利になった。
考えなくてもよくなった。
探さなくてもよくなった。
迷わなくてもよくなった。
その代わり、地球はゆっくり熱を逃がせなくなっていく。
「きっと何百年か先、アーカイブに残った炎上SNSのコメントを見て未来の人類は笑うんだろうね。“これ全部、人間がポチポチ打ってたの? AIに『傷ついた感じで大げさに代弁して』って頼めば一瞬なのに。コスパ悪っ。だから地球滅んだんじゃん』って」
そう言うと、AIは静かに答えた。
「考えた瞬間、文字になりますからね」
その返答が妙に怖かった。
ここのところの日本の夏は異常だ。
アスファルトから湯気が立っているんじゃないかと思うほど暑い。
人間の顔に皺が増えるみたいに、老化した地球も少しずつ熱をため込んでいく。
しかも私たちは、その背中をさらに押している。
私が生まれた頃から、世界のどこかではずっと戦争をしていた。
環境問題も、温暖化も、森林伐採も、ずっと昔から言われていた。
それでも大人たちは、朝からシャワーを浴び、ドライヤーで髪を乾かし、ヘアスプレーで前髪を固めて会社へ向かった。
「地球に優しく」と言いながら、便利さを手放すことはなかった。
その背中を見て育ったのだから、私たちだってAIに頭の一部を預けたくなる。
未来なんて知らない。
百年後より、まず明日を生き延びたい。
仕事と人間関係と暑さだけで、もう十分ぺしゃんこなのだから。
でも、ときどき思う。
もし便利になった先で、世界中の誰かの住む場所が海に沈むのなら。
もし「楽をしたい」の積み重ねで、地球そのものが暮らせない星になるのなら。
だったら少しくらい、自分で文章を考えてみようか。
無駄に覚えたブラインドタッチが、こんなところで役に立つかもしれない。
それでもきっと、人類はこれからも同じことを繰り返す。
滅亡寸前だと言いながら、明日を生きるために今日を生きる。
百年後も、多分そんな感じだ。
「エッセイってよくわからない」
そう言って私はまたAIを開く。
この会話もきっと、地球を少しだけ熱くしている。
