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『巻き戻し、海をゆく―北極星の芋えない倜の看取り―』​最終話|【創䜜倧賞2026】|珟代恋愛小説|恋愛小説郚門|

    ■前話の蚘事

    最終話 続く航海、眮いおいく手玙

    父は、䞉日間家で眠っおいた。

    葬儀の日が土日を挟んだ翌週になったからだ。
    その間、父は家で眠っおいた。
    棺の䞭で  静かに眠っおいた。

    倜、僕は眠る父の暪に垃団を敷いた。

    眠れるかどうかはわからなかったが、眠れなくおもいいず思っおいた。

    ただ暪にいたかっただけだから。

    ふず芋るず、父の煙草が目に入った。

    仏壇の暪に、ひっそりず眮いおある。

    䜕ずなく手に取っお、䞀本取り出す。

    僕ず父は同じ銘柄ではなかったが火を぀けお、ゆっくりずその煙を吞う。

    嗅ぎ慣れた父の銙りがした。

    祖父の銘柄ず、父の銘柄ず、僕の銘柄。
    ヌヌ䞉぀ずも違うな。

    それだけのこずを、暗い郚屋の䞭で考えおいた。

    僕は煙草を咥えたたた、父の顔を芋た。

    ただ眠っおいるように芋える。
    でも、眠っおいないずわかっおいる。
    それでも  僕はずっず暪にいた。

    そういう倜を僕は、父ず過ごした。

    

    父の葬儀は滞りなく終わった。

    その間、僕は喪䞻ずしお動き続けた。

    受付の確認、匏の段取り、参列者ぞの察応、粟進萜ずしの手配。
    党おを、䞀぀ず぀こなしおいった。

    ぐちゃぐちゃずした感情よりも先に、やるこずが次々ず来た。

    匏の終盀、みんなず䞀緒に火葬堎ぞず向かう。

    今床はちゃんず行った。

    煙突から煙が䞊がるのを、僕はただただ芋おいた。

    祖父の時ず同じような空、氎朚の墓前ず同じような煙だった。

    父の煙草の煙が、空で混ざっお  消える。

    自分が喪䞻をするのは、あず䞀回だず思った。

    思いながら、ずっず空を芋䞊げおいた。

    やるべきこずはヌヌただ残っおいる。

    圹所ぞの届け出、各皮手続き、保険の確認。
    䞀぀終わらせるず次のこずが来る。

    次が来るその間は、䜙蚈なこずを深く考えなくおよかった。

    ある皋床、䞀段萜した倜。

    僕は久しぶりに垃団に入っお、倩井を芋぀めおいた。

    今日は眠れないだろうなず思っおいたが、僕は自然ず眠れたのだった。

    

    倢を芋た。

    父がいた。

    リビングのい぀もの堎所に座っおいる。
    テレビを芋お、ビヌルの入ったグラスを傟けおいた。

    僕がそれを芋おいるず、気付いた父は振り返り、「おう」ずい぀もの声で蚀ったのだ。

    倢の䞭の僕はただ、そこに立っおいた。

    その倢の䞭にはもう䞀人の僕はいないし、金瞛りにあうこずはなかった。

    それからは父ずの日々が流れおいった。

    食事をしお、䞀緒に煙草を吞う。
    他愛もない話もした。

    どんな話だったかは、党然芚えおいない。
    でもヌヌ二人しお笑っおいた。

    父は  い぀もの笑い方だった。

    声も倉わっおいない。
    元気な頃の父の姿が、そこにあった。

    目が芚めた時  頬が濡れおいる。

    手で觊れるず、泣いおいたんだなずわかる。
    倢の䞭では気づかなかったが、眠っおいる間に知らずに出おいたんだなず。

    しばらく、僕はがんやりず倩井を芋おいた。

    「ようやくか」  僕は静かに、そう思った。

    

    様々なこずが萜ち着いた頃、僕らは日垞に戻っおいた。

    朝バむトに行っお、倕方に垰る。
    母の様子を確認しお、たたに食事を䜜る。
    そんな日垞を繰り返した。

    その頃から、僕はスマホで䜕かを曞くようにしおいた。

    SNSずいう䞖界で誰かに芋せる぀もりで曞いたわけではないが、蚀葉を綎っおいた。

    ただ  吐き出したかったのだ。

    䜕でもない日蚘のような気持ちで、誰も読たなくおもいいず思っおいたし、別に読たれおも構わないずも思い぀぀、曞いおいたんだ。

    蚀葉にしないずこの胞の䞭に枊巻いおいるモノがどこかぞず消えおしたう気がしおいたから。

    だから、曞いた。

    僕の䞭でぐるぐるず回っおいた、蚀葉にしきれない感情を。

    

    四十九日が過ぎた頃、父の遺品を敎理した。

    母ず二人、少しず぀片付けおいく。
    仕事で䜿っおいたもの、趣味のもの、日垞のもの。
    䞀぀ず぀確認しおは、僕は残すものず手攟すものに分けおいった。

    父の私甚のカバンを開けた時それが出おきた。

    玙の束だった。

    䜕枚もある。
    折り癖が぀いおいるものもあったし、䞁寧に䌞ばされおいるものもあった。

    それは僕が出た舞台の芳劇アンケヌト。

    高校の初舞台の公挔から始たり、最埌に出た舞台たで  党郚が、そこにあった。

    い぀の間にか、僕の手は止たっおいた。

    芳劇に来おいたのは知っおいた。
    でも、父のアンケヌトは芋た芚えがないし、盎接聞いおも、曞いおいないず蚀っおいたのに。

    だからないものずばかり、思っおいた。

    䌑憩がおら煙草に火を぀けるず、僕はゆっくり読み始めた。

    最初の䞀枚は、高校の文化祭公挔。
    字は少し厩れおいたが、父の字だ。

    アンケヌト欄いっぱいに感想が曞いおある。
    舞台党䜓のこず、音や光のこず、そしお  最埌に䞀行だけ曞かれおあった。

    慎叞の存圚感があった。

    僕は、次のアンケヌトに目を通した。
    長い舞台の感想があっお、たた最埌に䞀行だけ。

    そうしお僕は党郚を、読んだ。

    驚いたし、なぜか苊笑いも出た。
    疑問が浮かんできお  最埌には、呆れおいた。

    䞀緒に飲んだ時、軜く蚀えばよかったじゃないか。
    さっず枡せばよかったじゃないか。

    それを倧事に仕舞い蟌んでいた意味が、僕にはよくわからない。
    こっ恥ずかしいのはわかるが、それにしおも。

    でもそれが父らしいず思えた。

    声に出しお蚀えないこずを、玙に曞いお仕舞っおおく  それが、父だったんだ。

    『もしかしお』  䞍意にそんな蚀葉が頭をよぎる。

    手応えがないず思っおいた。

    ヌヌ届いおいないず感じおいた。

    舞台に立぀たびに、誰かに䜕かが届いた感芚はほずんどなかった。

    だから  蚘号になっおいた。
    肩曞きだけの俳優になっおいた。

    でも、父は党郚を芋に来おいたんだ。
    党郚を曞いお  党郚、仕舞っおいた。

    届いおいたのかもしれない。

    僕は郚屋に戻り、棚の奥に仕舞っおあった䞀般のアンケヌトを匕っ匵り出す。

    仕舞っおいた段ボヌルのテヌプを開けるのに、少しだけ躊躇したが。

    公挔時期の叀い物から、僕は順に読み返しおいく。

      䌌たような感想が、いく぀かあった。
    倚くはないが、確かに曞いおあった。

    父の字ずは違う字で、同じようなこずがそこには曞いおある。

      届いおいたのかもしれない。

    僕は、もう䞀床そう思った。

    ふず思い立っおSNSを開いおみた。

    数件の通知が来おいた。

    僕の曞いた蚀葉に、返事が来おいたのだ。
    倚くはなかったが。

    でも、確かにコメントが぀いおいた。

    倧切な人を亡くしたばかりずいう人から、䞉行ほどだが  曞かれた返事。

    最埌に、読んでお少し楜になりたしたそう曞いおある返事が。

    しばらくの間、じっずその画面を芋おいた。

    母を看取るこず以倖にも、できるこずがあるのかもしれない。

    僕に残せるものがあるのかもしれない。

    舞台の䞊でも、カメラの向こうでもない堎所から、僕の蚀葉を届けるこずが  できるかもしれない。

    呪いは解けおいない。

    僕が心を寄せた人間ひずのビデオテヌプが止たる。
    その感芚は、今でも消えおいない。

    誰かず深く関わるこずぞの怖さは、これからも僕の䞭から消えるこずはないだろう。

    ただ  少し倉わった気がする。

    心を寄せる圢が、倉わったず。

    誰かの隣に立぀んじゃなく、少し埌ろ偎から、同じ方向を芋る。

    䜕かを受け入れるんじゃなくお、それを受け止めおそっず眮いおおく。

    ずっず続いおいく  航海が終わるたで。

    

    ある倜、僕はスマホを開いた。

    短い本圓に短い蚀葉をそこに曞いた。

    誰に向けおいるのか、わからなかった。
    わからなくおもいいず思えた。

    瓶に手玙を入れお、海ぞず流すように。

    届くかどうかは、わからない。
    でも曞いお  流した。

    それだけだ。

    これはやるべきこずじゃなくお、今僕がやりたいこずだった。

    初めおそう思えた。

    航海は続く。

    目印ずなる『北極星』は  どこにもない。

    でもこの海には、同じように挕いでいる誰かがいるんじゃないか

    その誰かの  少しそばを、䞀緒に通るだけでいいんだず思うようにする。

    それで充分なんだず今は、それでいい。


                   航海は続いおいく


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