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ショートショート 忘年怪異

     居酒屋「ふれあい」は駅前ビルの間にひっそりと店を構え、朝から晩まで明かりがついている。
     数年前からこの辺りには行方不明情報が寄せられている。いずれも成人で、夕方ふらりと家を出たまま戻らなくなったという。
     店の入り口には「今日は忘年会!」という立て看板が立っており、中では若い男女が談笑している。「みゆきさん」と呼ばれる店主が来店客に呼びかける。
    「飲んで嫌なこと忘れちゃいましょ!」
     ある晩、初老の男性が「ふれあい」の暖簾をくぐった。店主がいつも通り客を迎えようとして、黙った。
    「みゆき?」
     初老の男性が店主の名を呼ぶ。店主が男性の顔を見た。それから口を押さえて呟いた。
    「やだ。思い出しちゃった」
     途端に店主の顔の皮膚が弛んだ。髪は白くなり目尻に皺がよった。店の客たちも我にかえる。皆、一様に歳をとり出した。
    「帰ろうか」
     男性が店主の手を取る。店主がゆっくり頷いた。
     立て看板の「忘年会」の文字はいつの間にか消えていた。


    ショートショート No.746

    たらはかにさんの毎週ショートショートnoteに参加しています。
    今週のお題は「忘年怪異」です。


    先週のお題は「釜揚げ師走」。小粋でポップなヒスイさんは少し復活したようですよ?

    …私、ずっと素うどんな気がしますねえ…(遠い目)

     
     
     
    小説(ショートショート)を書いています。オンライン文芸コミュニティhoshiboshi運営スタッフ(星々ラジオ担当)。

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