
ショートショート 聴診器が海苔
「おとーさん、おじゃまします」
診察室に小学生の息子が入ってきた。わ、と声が出た。昼食のおにぎりを食べている最中だった。
「いらっしゃい」
あわてて飲み込む。息子の後ろで妻が笑った。
「お医者さんの仕事はなんですか?」
息子が私を見上げた。学校の宿題らしい。椅子に座らせて、服の上から聴診器をあてた。
「こうやって、患者さんを見ることだよ」
「なにしてるの?」
「心臓の音をね、聞いている」
「なにかわかるの?」
「なんでもわかるさ。緊張してるね」
「すごい!」
息子が声をあげて立ち上がる。
「おかーさんも見てもらいなよ!」
妻がうろたえる。私が笑って言った。
「お母さんは見なくてもわかるよ。今朝、あわててた」
「あたり! 張り切ってお化粧して時間なかったって」
顔を赤らめる妻にお昼のおにぎりを指す。
「海苔がちょこっと破れてる。いつも丁寧に作ってくれてありがとう」
妻の顔を見てにっこり笑った。
「おにぎりの海苔で、なんでもわかるよ。聴診器がなくても」
ショートショート No.640
たらはかにさんの「毎週ショートショートnote」に参加しています。
今週のお題は「鳥獣戯画ノリ」。
裏お題は「聴診器が海苔」です。