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ショートショート 顔自動販売機

     スマートフォンの画面を確認しながらポケットの硬貨を探る。走る。5分前。顔自動販売機の前でとまる。硬貨を入れてボタンを押して、商品をカバンに突っ込んで駅に向かう。
     改札を抜けるとちょうど電車が来たところで、車掌さんが呆れた顔でドアを閉めるのを待っている。中に入って席に崩れ落ちる。ぎりぎり間に合った。

    「浪費だよなあ」と呟きながら、カバンの中から顔を取り出してはめた。メイクが苦手な自分には便がいい。毎朝化粧する時間もない。紋切り型の顔に一日500円は痛いが、仕方がない。職場に向かう。

    「学習能力!」嘆きながら次の日も走る。いつもの自販機の前で止まって、頭が真っ白になった。売り切れていた。顔が。
     踏切の音。あわてて駅に走る。顔がないまま会社についた。

    「おはよう」
    課長の声。
    「おはよう」
    同僚の声。不安で震えながら出社したが、皆気にしていなかった。手洗い場で鏡を見るとただの自分の顔があった。
    明日は買わずに出社しようと思う。

    ショートショートNo.616

    たらはかにさんの毎週ショートショートnoteに参加しています。
    今週のお題は「顔自動販売機」です。


    先週のお題は「メガネ朝帰り」小粋でポップなヒスイさんも書いています。

    おしゃれでラブいお持ち帰り、ですかね

     
     
     
    小説(ショートショート)を書いています。オンライン文芸コミュニティhoshiboshi運営スタッフ(星々ラジオ担当)。

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