
ショートショート 高校野球怪談
蝉の声を聞くと、夏の甲子園球場を思い出す。まだ元気だった父に連れられて応援スタンドで声を張り上げた。かちわり氷が冷たかった。
「今年は甲子園どうなってるん?」
夕食の時に妻に聞いてみる。
「甲子園て?」
妻が変な顔をした。
「高校野球。昔、じいちゃんと行ってん」
「お義父さんと?」
妻が青ざめた。そういえば父は去年老衰で亡くなったばかりだ。わたしは慌てて訂正する。
「いや、元気な時やで。子供の頃」
「あつーい」
制服姿の娘がリビングに入ってきた。妻が娘の腕を引っ張り、何やら話しながら台所に消えた。なんだ。手持ち無沙汰でスマートフォンを触る。「甲子園」と検索して一番上の候補を読んだ。
「甲子園(こうしえん)。現実には存在しないスタジアム。夏の高校野球(やきゅう)と呼ばれる球技が行われたと主張する人々が存在する。この集団幻想は多く成人男性にーー」
冷や汗が垂れた。父にもらったかちわり氷を思い起こす。味は。味は、思い出せない。
ショートショートNo.805
田原にかさんの毎週ショートショートnoteに参加しています。今週のお題は「高校野球怪談」です。