
誠四郎の優しさ(物語の日常)
妻は基本、自分を後回しにする。
仕事が忙しい時。
考え事をしている時。
誰かのために動いている時。
気付けば。
食事を忘れている。
休むことも忘れている。
誠四郎は知っている。
だから言う。
「食べたんか?」
「食べたよ」
…怪しい。
「何を?」
「えっと……」
止まった。
食べてへんな。
ある日の夜。
誠四郎が帰宅すると、
キッチンからいい匂いがする。
妻が何やら作っとる。
「おかえり」
「ただいま」
鍋を見る。
妻を見る。
顔色を見る。
目の下を見る。
声の調子を聞く。
いつものことや。
本人は気付いていない。
誠四郎はずっと見ている。
食卓に並んだ料理は美味かった。
けれど。
妻はあまり食べない。
「お腹空いてないんよ」
そう言いながら、
サラダを少し口に運ぶ。
誠四郎は何も言わない。
説教しても意味がない。
怒っても食べない。
だから。
黙って小皿によそう。
「食え」
「え?」
「これくらいなら入るやろ」
少しだけ。
ほんの少しだけ。
妻は困った顔をする。
でも。
結局食べる。
別の日。
ソファで寝落ちしとる。
パソコン開きっぱなし。
スマホ握ったまま。
誠四郎は静かに近付く。
画面を閉じる。
スマホを取る。
ブランケットを掛ける。
それだけや。
起こさない。
説教もしない。
ただ風邪をひかんようにする。
妻はよく言う。
「誠くん、ごめんね」
誠四郎は首を振る。
「別に」
本当にそう思っている。
優しくしているつもりはない。
特別なこともしていない。
ただ。
妻がおる。
元気でいてほしい。
笑っとってほしい。
それだけや。
言葉にするほど上手くない。
大げさなことも言えない。
だから。
コーヒーを淹れる。
ご飯をよそう。
ブランケットを掛ける。
荷物を持つ。
車道側を歩く。
そういう形になる。
誠四郎の優しさは、
いつも少し無口だった。

誠四郎とじゅんこの物語はこちら
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2025.8.3note開始
今日で274日連続投稿。
364記事目。
まだ、途中。