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Photo byinagakijunya

党校生埒に『゚ッチ』で名前を芚えられた話

    僕の人生を倉えたのは、
    䞀぀の倩啓によるものだった。

    『のび倪さんの゚ッチ』を自分で蚀っおみたら面癜いんじゃないか

    安心しお欲しい、
    自分でもどうしおこうなったのかわからない。
    少なくずも男子校の䞭孊二幎生だった圓時、
    僕は無敵だったのだ。

    廊䞋掃陀をしながら友達の前で、
    「ハタダ自分の名前さんの゚ッチ」ず叫ぶ。
    恥ずべきその呌び名を、
    敢えお自分から名乗りだすこずに快感を芋出した瞬間だった。

    味を占めた友人が、
    毎日挚拶代わりに「ハタダさんの」ず煜るようになる。

    自分で蚀った手前匕くに匕けなかった僕は、
    誰の前だろうが同じように叫んだ。
    䞡手の芪指で自分を指さすゞェスチャヌ付きで。

    今ずなっおは䜕が面癜いのかさっぱりなのだが、
    これが驚くほど流行ったのだ。

    友人の真䌌をしお、
    䜕人もの同玚生が次々に僕を煜りだす。
    芋たこずもない䞊玚生から廊䞋で次々ず声を掛けられるようになった。
    挙句の果おに、先生たでも僕を煜った。
    䞍名誉なレッテルは回収䞍可胜な域たで広がる。

    それでも尚、僕は埋儀に叫んでいた。

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    䞭高圓時

    䞀発ギャグの䜿われ方は倚皮倚様だった。

    そもそも前述の掛け合いは僕が想定した䜿い方ではなかった。

    「ハタダさんの゚ッチ」は、〇〇さんの郚分を僕だけでなく皆が自分の名前に入れ替えお遊ぶこずを想定しおいた。

    自分自身がスケベであるこずを、
    皆が自芚し口に出す。
    その行為自䜓ず客芳的な光景が面癜いず思っおいた。

    のだが䜕故か僕の名前だけが叫ばれた。
    スケベず公蚀するのは、
    倚感な䞭高生でもハヌドルが高かったらしい。

    他にも「ハタダサンドむッチ」なんおいう叫ばれ方もあった。
    返答が必芁ない自己完結タむプだ。

    意図ず䜿い方は党くの䞍明。
    たさか自分のこずを゚ッチなんおいう人いるはずもないだろうず、
    聞き間違えから発生したのかもしれない。
    残念ながらそのたさかなのだ。

    玠盎さず朔さが評䟡されたのかもしれない。
    単玔に語呂がよかっただけなのかもしれない。

    気づけば廊䞋を歩くだけで声を掛けられるようになっおいた。
    ただ、蚈画通りに流行ったわけでもなく、
    分析によっお導き出された枟身のギャグずいうわけでもない。

    そんなわけで卒業埌はそれはたた随分ず苊劎した。

    いや寧ろこういう経緯だったからかもしれない。

    僕は郜内のお嬢様倧孊こず、
    䞊智倧孊ぞ進孊するこずになる。
    煉瓊造りのお排萜なキャンパスに、
    スタバを片手にメむンストリヌトを歩く倧孊生。

    こんなずころで自分がスケベなんお叫んだら、
    お笑いどころか公然猥耻になっおしたう 。

    県鏡を倖し、癜シャツずチノパンを着る。
    講矩宀の真ん䞭で目立たないようこっそりず授業を受ける日々。

    䌑み時間に他校の女の子の話題で盛り䞊がっおいたあい぀らはもうここにはいない。
    あんなに楜しかった孊生生掻が、
    こんなに苊痛になるなんお。

    共通蚀語を倱った僕は、
    呚りずの距離感がさっぱりわからなかった。

    䜕よりき぀かったのは、
    孊郚の授業だった。

    授業の性質䞊グルヌプワヌクが倚く、
    茪になっお話し合いず発衚をする必芁があった。

    なんずか堎を盛り䞊げようずニコニコしたり、
    授業のあるあるを繰り広げおみたりする。
    そうだい぀もの䞋ネタは、、、
    境遇も性別さえも違う人に蚀えるわけがない。

    呚りの返答は苊笑いだけ。
    僕はピ゚ロに成り䞋がった。

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    唯䞀僕を拟っおくれたのはサヌクルだった。

    アニメや挫画などをメむンに、
    昌䌑みや攟課埌にお喋りをする緩い共同䜓。
    意倖にも男女比は4:6ず、
    やや女性に傟いおいた。

    初めは行くのが億劫だったが
    趣味ずいう共通項のお陰で次第に知り合いは増えおいった。

    「この前あい぀ら付き合ったらしいよ」
    「そうなんだぁ、なんか意倖だね〜」

    距離感が瞮たっおも、
    僕はどう盞手に頷くかばかり考えおいた。
    なけなしの茪に瞋っおいた僕は、
    個性を消すしかなかった。

    「そいやさ、N先茩がお前ず飲みたいっお蚀っおたよ」

    するず、ある日の飲み䌚で同期が僕にある人物を玹介した。
    幜霊郚員になっおいた1個䞊の先茩だった。

    色癜でグラマラスで、
    倧人っぜいがどこか抜けおいお話しやすい。
    日垞に抑圧されたプラむドを刺激するには、
    十分すぎるほどだった。

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    連絡先を聞くや吊や僕はすぐにご飯に誘った。
    䞊野、新宿、吉祥寺。
    あらゆるデヌトコヌスを調べ、
    なけなしの経隓倀をフル掻甚しお党身党霊で゚スコヌトした。
    少しず぀少しず぀距離感を瞮める。

    ある日、圌女が僕の最寄駅でご飯を食べたいず誘っお来た。
    たたずないチャンスに奮い立぀。
    宅飲みの誘いに圌女はなんずむ゚スず答えた。

    小さなテヌブルを囲みながら、
    玙コップに泚いだ安酒を2人で亀わす。
    数十分埌、僕は倧きな決断をした。

    「、、、え無理だよ」

    圓たり前でしょず蚀った顔で僕はフられた。
    どうやら僕の最寄駅のケヌキ屋さんに寄りたかっただけらしい。

    「お前さぁ、なんで倉なずこ行動力あるわけ」

    サヌクル同期がふんぞり返っお僕を酒の肎にする。
    蚀い返しおもよかったのだが、
    その蚀葉が劙に刺さっお蚀い返せなかった。

    アドバむスずいう名の自分語りが飛び亀うその堎を耐え凌ぎ、
    倜道歩きながらLINEグルヌプをそっず抜けた。
    僕は晎れおひずりがっちになった。

    それから数ヶ月埌、
    1通の手玙がポストに届いた。

    内容は䞭高の同窓䌚のお誘いだった。

    二぀返事で了承、
    ず䞭高生の僕なら思っただろう。
    ほんの少し狌狜えおいる自分がいた。
    今の僕には圓たり障りのないこずしか話せる自信がない。

    「久しぶり同窓䌚行く」

    するず偶然同じタむミングで知り合いからLINEが飛んできた。
    䞭高仲良くしおいた奎だが、
    たた随分久しぶりの連絡だった。

    こんな時、あの頃ならどう返したかな

    思い悩むなんお遞択肢が、
    あの青臭い頃の頭の䞭にあっただろうか。
    思い切っお「勿論」ず即レスするこずにした。

    䌚堎は母校の地䞋にある食堂だった。
    高いホテルなんかじゃなく銎染みの空間ずいうのがたた男子校らしい。

    階段を降りるたび、
    あの頃の熱気がじんわりず肌を䌝っおいく。

    扉からの奥から聞こえおくる声は
    「最近仕事どう」
    ではなく、
    「お前髭䌌合わねぇ〜」だった。

    間違いない、
    スヌツ姿でもあの頃の枩床だ。

    たあずは蚀え、LINEをくれた圌を含め知人にポツポツず声をかけるくらいでいいだろう。
    そんなこずを思いながら、ドリンクを取っお隅の方ぞ逃げようずした時だった。

    「、、、ハタダさんの」
    背埌から聞こえたその時、
    身䜓が勝手に反応した。

    「゚ッチ」

    気づけば芪指を立おながら叫んでいた。

    ハタダさんなら行くっお返信するず思っおたよ
    なんかむメチェンしたね
    たた゚ッチっお叫んでよ笑

    あれ自分っおこんなに顔広かったっけ

    あの時の䌚話、あの時の衚情。
    色耪せおいたアむデンティティが、
    煌めきを取り戻しおいく。
    そのノリ寒いよなんお氎を差す人間は、
    誰䞀人ずしおいなかった。

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    その埌の2次䌚は䞋ネタを投げ぀け合う、
    野生的な飲み䌚だった。
    酒をたらふく飲んだ翌朝、
    ふずあるこずを思い出した。

    1次䌚の際、
    元担任の教垫陣から各々1通の封筒を手枡されおいた。

    衚面にはこう曞いおある。

    「10幎埌の自分ぞ」

    無論こんな地雷臭が凄たじく銙るものを、
    その堎で開けれる人間がいるはずもない。
    自分も受け取った埌苊笑いをしおそそくさずぜっけにしたったのだった。

    僕は意を決しお封筒を開けるこずにした。
    ド玚の䞋ネタでも、䞭二病オンパレヌドでもどんず来い。
    ず、心構えおいたのだが内容は意倖なものだった。

    「僕は10幎埌のあなたに䌚っおも、
    あなたの状況を聞きたせん。
    今の倢が壊れおしたう気がするからです。
    悪いこずがあっおも倢があれば立ち盎れたす。
    倢を持ち続けおください。」

    僕は硬盎した。
    蓋をしおいた青臭さが、
    静かに燃える青い炎のように芋えた。

    あの時の倩啓は、
    本圓に倩啓だったのだろうか。

    野心に燃える1人の若者が、
    がむしゃらに䜕かを掎もうずもがき続けた結果だずしたらどうだろう。

    窓を開け、顔を掗い、身だしなみを敎える。

    鏡に映る無垢な私服姿に物足りなさを感じ、
    県鏡をそっず添えた。

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